黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

いくらわけあり娘だって二十歳まで盃を交わすのは自粛

コロムビア KW-7062

ギターとテナー・サックスによる有線ヒット歌謡 みれん心/ふたりの旅路

発売: 1975年10月

ジャケット

A1 みれん心 (細川たかし) 🅵

A2 北へ帰ろう (徳久広司) 🅷

A3 女の純情 (殿さまキングス) 🅲

A4 私でよければ (石川さゆり) 🅲

A5 新小岩から亀戸へ (潤まり)

A6 弟よ (内藤やす子) 🅶

B1 ふたりの旅路 (五木ひろし) 🅶

B2 気がかり (黒沢年男) 🅱

B3 深夜劇場 (中条きよし)

B4 中の島ブルース (内山田洋とクール・ファイブ) 🅶

B5 夜のカウンター (江利チエミ)

B6 さだめ川 (ちあきなおみ) 🅲

 

演奏: 木村好夫/ジェイク・コンセプション/コロムビア・オーケストラ

編曲: 佐伯亮、坂下晃司

定価: 1,500円

 

昨日の2枚組のB面の延長線上にある、飲み屋のねーちゃん誘惑シリーズの1枚。このジャケットはその道のプロの方でしょうか。新人歌手を使うケースも多々あったのですが、松原のぶえみたいな解りやすい顔の人ならまだしも、この顔の歌手は思い浮かびませんね…飲み屋にくすりを出されると困ってしまいますが(汗)。解りきってるからして、飲み屋モードで安心して聴ける。ユピテル盤「襟裳岬」の入魂のプレイが印象に残るジェイクのサックスも、夜の色に染まりまくり、ママさんの色気を助長するし、好夫ギターがより安定の境地に入っている。チージーなオルガンも、スナックの片隅にあるやつそのものの音を出しているし。やっぱ演歌は染みるねと安心して聴いていたら、A面5曲目に思わぬ罠が…当時現役ポルノ女優、潤ますみでもあった潤まりが、下町の夜の女の悲哀を歌い綴るわけあり歌謡新小岩から亀戸へ」だ。さすがに「幻の名盤解放歌集」で聴くまでその存在を知らなかった曲が歌無歌謡化されていたなんて思わなかった。藤本卓也作品や「かもねぎ音頭」ならまだ解るが…これもヒットしていたんだな、と意外な感慨が。歌詞に目を通すだけで、このアルバムの他の収録曲と桁違いのドラマに襲われる。この哀しい曲より「ひと夏の経験」の方が不純なんて、言いたい人は言えばよい(汗)。

この1曲の存在で他の曲が霞んでしまう1枚だけど、75年の夜に思いを馳せられるアルバム。さすがに10歳児じゃこの世界はね(瀧汗)。ただ、自社故に「弟よ」のイントロはリコーダーで奏でてほしかったな。「深夜劇場」を歌った人も、今では別の世界であんなことに。オマージュを捧げられた(作詞が吉田旺だし)と思しきちあきなおみと好対照だ。 

やめろと言われても特定の楽器を幻聴

コロムビア KW-7032~3

‘74ヒット曲要覧~後半編~

発売: 1974年11月

ジャケット(隠蔽済)

A1 追憶 (沢田研二)Ⓐ 🅸

A2 恋のアメリカン・フットボール (フィンガー5)Ⓐ 🅶

A3 激しい恋 (西城秀樹)Ⓐ 🅵

A4 君は特別 (郷ひろみ)Ⓐ 🅶

A5 ひと夏の経験 (山口百恵)Ⓐ 🅸

A6 傷だらけのローラ (西城秀樹)Ⓑ 🅶

B1 さらば友よ (森進一)Ⓒ 🅸

B2 うすなさけ (中条きよし)Ⓑ 🅹

B3 夫婦鏡 (殿さまキングス)Ⓒ 🅻

B4 北航路 (森進一)Ⓑ 🅸

B5 うそ (中条きよし)Ⓒ 🅺

B6 別れの鐘の音 (五木ひろし)Ⓒ 🅸

C1 ふれあい (中村雅俊)Ⓐ 🅻

C2 渚のささやき (チェリッシュ)Ⓐ 🅵

C3 ミドリ色の屋根 (ルネ)Ⓐ 🅵

C4 私は泣いています (りりィ)Ⓐ 🅹

C5 妹 (かぐや姫)Ⓑ 🅳

C6 闇夜の国から (井上陽水)Ⓐ 🅳

D1 ひとり囃子 (小柳ルミ子)Ⓑ 🅵

D2 美しい朝がきます (アグネス・チャン)Ⓑ 🅵

D3 夏の感情 (南沙織)Ⓐ 🅴

D4 ちっぽけな感傷 (山口百恵)Ⓑ 🅷

D5 ポケットいっぱいの秘密 (アグネス・チャン)Ⓑ 🅵

D6 恋の大予言 (フィンガー5)Ⓑ 🅱

 

演奏: 稲垣次郎松浦ヤスノブⒸ、木村好夫Ⓒ/ゴールデン・ポップス

編曲: 河村利夫Ⓐ、永作幸男Ⓑ、佐伯亮

定価: 3,000円

 

レコード番号順に語る計画を進めると、必然的にコロムビアが最後の方に集結してしまう…というわけで、最終日前までコロムビア祭りです。「ヒット曲要覧」シリーズ、72年のが名盤すぎたり、74年前半編でメロトロンまみれになったりで、決してなめられないのだけど、この74年後半編になるとどうしても保守的カラーが全面的に出てきて、例えば同時期のクリスタルやミラクル盤ほどのときめきがやってこないのだよね。「ゴールデン歌謡スキャット」で意表を突きすぎたのの反動なのか。A面にずらっと並ぶ躍動感の高い曲を聴いても、なんか違うというか、「追憶」だけでもなんか萎える…1番の2小節目と4小節目で、ハイハット以外の音が止まってしまうところとか、ドラマティック性を消し去ってる感がある。水谷公生&トライブ版なんかに比べると、曲のコンテンポラリー性に取り逃がされたというか、心躍らないんだよね。「君は特別」なんかも、次郎さんらしさが出ていてファンキーな演奏ではあるけど、荒川康男氏ならここをこうぶっ壊すだろうとか、やっぱり恋しくなってしまうんだよね、72年盤の感触が。それだけ、通常の歌謡界が急激に大胆さを増したということだろうか。「ひと夏の経験」はその分猥雑さがなくて、安心して聴けるが、間奏で興醒め。「傷だらけのローラ」のフルートはクレジットがないが、次郎さんではないだろう。B面で好夫ギターが安定の境地に誘ってくれても、結局は「前半編」の「くちなしの花」や「なみだの操」のメロトロンを恋しくなってしまうし。わずかに救いなのは、他社盤より多くリコーダーをフィーチャーしてくれている「美しい朝がきます」と、正統派デキシーランドな演奏に次郎サックスが冴える「ポケットいっぱいの秘密」くらい。両方アグネスの曲やんか…「恋の大予言」もちょっとだけアヴァンギャルドな感触が出ていていいのだけど。ともあれ、しばらくコロムビアで番号が進むわけですが、結構吃驚の方向に向かいますよ…

歌謡フリー火曜日その50: 君がしたかったのは借金アップだろ(違

CTA ST-8085 (8トラック)

ポップス・ゴールデン・パレード

発売: 1977年

ジャケット

1-1 ソロモンの夢 (レーモン・ルフェーブル) 

1-2 哀愁の南十字星 (セバスチャン・ハーディー)

1-3 ホテル・カリフォルニア (イーグルス) 🅱

1-4 愛の涙 (?) 

2-1 星空のふたり (マリリン・マックー&ビリー・デイヴィス・Jr.)☆

2-2 夜明けのカーニバル (ポール・モーリア)

2-3 悲しみのバラード (エルトン・ジョン)☆

2-4 白銀のテーマ (バリー・ホワイト)

3-1 告発 (?)

3-2 ファンキーでいこう (KC&サンシャイン・バンド)☆

3-3 オウン・ウェイ (フリートウッド・マック)

3-4 反逆のテーマ (リズム・ヘリテッジ)

4-1 カリブの夢 (オリエンタル・エクスプレス)

4-2 回想 (スティーヴィー・ワンダー)☆

4-3 ソウル・バンブル・ビー (ウォルター・マーフィー)

4-4 ムーヴィン (ブラス・コンストラクション)

 

演奏: ニュー・サウンズ・オーケストラ (☆: 歌入り)

編曲: 無記名

定価: 2,000円

 

「歌謡フリー火曜日」までもを蝕む8トラック・シンドローム。これも辛うじて、最後まで再生してくれました。現在もサブスクに音源提供したりして健在のCTAレーベルに残された、77年のヒット洋楽カバー盤。ケースを見た限りだと、歌入りか歌無しか読めないし、元々インストの曲もいくつか入っているけど、いずれにせよ歌入りでもネタ要素が高そうな曲が目白押しだから、決して損はしないだろうと。案の定、いい意味でノックアウトされました。ただ、「愛の涙」「告発」のオリジナル・アーティストが調べられなかった。原題や作者名がクレジットされていれば助かったのだけど。前者はソウル・バラードっぽい。後者はハイテンポのディスコ・ムード音楽で、クラが奏でる主旋律が歌謡曲っぽい。所謂ラブ・サウンズのアーティストにしたって、新曲は出ていたけど、77年にもなるとディスコやフュージョンに食われ、トレンディな色がほとんど失われていたし。

のっけは大御所、レーモン・ルフェーヴルの曲で、流暢なストリングスが入ってガチなサウンド。ジャンク8トラノイズがなければ、使用に耐え得る(最初に取り上げた山内さんのホメロス盤に比べると、マスタリング技術が進化したのか、S/N比も優秀)。それに続くのは、なんと当時ユーロプログレ勢の新勢力として密かに人気があったセバスチャン・ハーディー(出身はオーストラリア)の曲。オリジナルは21分に及ぶ組曲の1部だったが、この選曲にはおったまげましたよ。最初邦題を見た時は、グレン・キャンベル「哀愁の南」の方かと思ったし(こちらもアラン・トゥーサンの曲だし、気になるけど)。マリオ・ミーロに負けない熱いギターソロが展開されていて、正に新しいラブ・サウンド。これだと「イースターのスイカ」もいけそう。

その後問題作ホテル・カリフォルニアが来るが、ここで正統派歌無歌謡ヴァイブがやってきて安心する(爆)。リズムの組み立てなど、オリジナルを完璧に脱構築してるし、ハーモニカの音が73年頃のフォークの色を現出させる。これで歌が入れば、完璧に腰砕けネタになるんだけどね。そんな歌入りのナンバーがここに4曲収録されているけれど、案の定、破壊力半端ない。「星空のふたり」は歌の上手いシンガー二人ががんばっている感じに過ぎないけど、「悲しみのバラード」はまじで笑うしかない。いきなり「わらわらがらどぅー」だもんな。84年頃のトシちゃんとマッチの中間っぽい歌い方で、Z級パチ歌謡以上の聴く笑撃ガス度。淡白ながらリリカルなサウンドとの落差もなんとも言えないし。もちろん「回想」はそれを凌ぐ。恐らく同じ人が歌ってると思われるけど、無駄に力が入った歌唱に、バランスが悪いサウンド。やはり、エルトンやスティーヴィーが相手となると、しょうがないのだな。もう一つの目玉曲「オウン・ウェイ」は歌入りではないが、これは笑うしかない、大丈夫かとしか言えないアレンジとサウンド。その後47年間、驚異の生命力を持続させる『噂』の誕生ドラマと運命を、当時のパチテープ制作陣は知っていたのだろうか…「ファンキーでいこう」ももしやスウィートの “Funk It Up (David’s Song)” かと思って期待したけど、KCの方でした。その曲の邦題は厳密には「ファンクで行こう」なんですけどね。

ここには入っていないけど、この時期のクイーンの曲「愛にすべてを」には、まじで酷い歌入りパチヴァージョンがあることも追記しておきます。いずれにせよ、この頃の洋楽には思い入れ半端ないですからね。パンク台頭寸前とはいえ、ちゃんと聴いてはいたからね。

ミックス違いの甘い罠

ミノルフォン RM4T-7001 

‘72最新ヒット歌謡 AUTUMN

発売: 1972年9月

ジャケット

A1 京のにわか雨 (小柳ルミ子) 🅼→22/3/14

A2 心の痛み (朱里エイコ) 🅸

A3 夏の夜のサンバ (和田アキ子) 🅳

A4 旅路のはてに (森進一) 🅸

A5 どうにもとまらない (山本リンダ) 🅳→22/3/14

A6 BABY (平田隆夫とセルスターズ) 🅴→22/3/14

A7 せんせい (森昌子) 🅳→22/3/14

B1 夜汽車 (欧陽菲菲) 🅻→22/3/14

B2 素足の世代 (青い三角定規) 🅵

B3 雨 (三善英史) 🅳→22/3/14

B4 鉄橋を渡ると涙がはじまる (石橋正次) 🅷

B5 芽ばえ (麻丘めぐみ) 🅷→22/3/14

B6 あなただけでいい (沢田研二) 🅴→22/3/14

B7 旅の宿 (吉田拓郎) 🅽→22/3/14

 

演奏: ブルーナイト・オールスターズ

編曲: 土持城夫

定価: 1,800円

 

今回もブルーナイト・オールスターズ、ありますよ…しかし、14曲中9曲が既に語った2枚組に再収録されている。5曲だけじゃ萎えるな…と思いきや、まさかの落とし穴があった。

これはいつものKC品番ではなく、4チャンネルレコード用に特別設定された規格でリリースされたQUAD MIX盤。しかし、ブルーナイトに関する限り、これだけで打ち止めになっている。RM方式を採用して、通常のステレオでも聴けることを強調しているのを見過ごしていたら、ビクターのCD-4盤みたいに普通に聴けないじゃんとスルーしていたに違いない。レーベルも特殊だし、特別感は出したかったのだろうけど、東芝のゴールデン・サウンズ盤みたいに価格的に高貴な方向に持っていっていないし(それでいいのだ。東芝は自社のデコーダーを売りたかった故、そうしたのだろうな)。

とはいえ、季節ものシリーズの1枚故、他の盤と均一性を持たせることが命にもかかわらず、細かいことが気になる体質をのっけからくすぐってくれるのだ。「京のにわか雨」1曲だけでもそれは明白。先述した2枚組、KC-7007Sに収録されたヴァージョン(そっちの方が2ヶ月後の発売)が、完全に4チャンネル対応ではない別ミックスになっているからだ。そっちのミックスでは、イントロのギターが左に、京琴が右に固定された、いわゆる「ハードパン」状態になっているし、バックのオルガンも奥深いポジショニングでありつつ、それほど広がりがない音。対して、この盤ではハードパンではなく、逆相気味の真ん中寄りになっていて、4チャンネルデコードするとはっきり左か右に寄って出てくるはず。オルガンも引っ込み気味で、こちらは4チャンネルだとリアから出てくる感じか。バンド全体の音もライヴ感やや増し。マルチ録音をどうまとめるかで、両者の間に差が出てくるようだ。残る8曲も聴き比べたいけど、キリがない。ただ、ギターフレーズが違うとか、そこまでの差はないだろう。ただ、2チャンネルミックスの方が落ち着いて聴けるのは確か。残る5曲もステレオミックスがあって、テープで出てたりするのだろうか…気にせず聴けば、別に違和感ないのだけど。「夏の夜のサンバ」はファズが焼け付き、全歌無ヴァージョン中でも最もハッシッシー度が高い(爆)。「旅路の果てに」も何気にサイケ感があるし、B面には他社に必殺ヴァージョンがある曲が並んでるけど、ブルーナイトならではの付き合いやすさで「これも悪くないな」と思わされる。「素足の世代」の2番の鍵ハモなんて、マキシムヴァージョンのリコーダーに負けてない純情サウンドだし。 間奏で守りに入ったプレイをしているのもツンデレ感がある。秋に向けて出されたとはいえ、雰囲気的には5年遅いサマー・オブ・ラブの色が漂ってくる1枚。

儚いテープと恋の生き別れ

ポニー 20PJ-6002 (8トラック)

琴 恋の雪別れ・夜空

発売: 1974年

ジャケット

1-1 恋の雪別れ (小柳ルミ子) 🅶

1-2 小さな恋の物語 (アグネス・チャン) 🅷

1-3 わたしの宵待草 (浅田美代子) 🅴

1-4 襟裳岬 (森進一) 🆃

1-5 なみだ恋 (八代亜紀) 🅾

2-1 夜空 (五木ひろし) 🅹

2-2 みずいろの手紙 (あべ静江) 🅴

2-3 浮世絵の街 (内田あかり)

2-4 女ごころ (八代亜紀) 🅴

2-5 海鳥の鳴く日に (内山田洋とクール・ファイブ) 🅴

3-1 神田川 (かぐや姫) 🅽

3-2 空いっぱいの幸せ (天地真理) 🅶

3-3 白いギター (チェリッシュ) 🅼

3-4 愛のくらし (加藤登紀子) 🅱

3-5 恋やつれ (藤正樹) 🅲

4-1 記念樹 (森昌子) 🅶

4-2 恋の雪割草 (藤圭子)

4-3 十五夜の君 (小柳ルミ子) 🅻

4-4 ふるさと (五木ひろし) 🅺

4-5 白樺日記 (森昌子) 🅸

 

演奏: 山内喜美子/オーケストラ名未記載

編曲: 無記名

定価: 3,200円

 

2日連続山内選手登板。そして、2本目の8トラック…なんですけど、今月紹介するネタが片付いた後、新たに1本購入したテープが、未開封状態だったにも関わらずプログラム1を再生したあとあっさり切れてしまい(涙)、経年したメディアの儚さを思い知らされることに。次回復活時、張り切って紹介しようとしてたのに。幸い、リペアしてくれる業者もあるみたいですが、経済的に無茶は控えたいところですし。

これは74年にポニーに残された録音なので、当然ポニキャンが原盤権を今も持っていると思われるし、サム・テイラーや木村好夫のポニー録音みたいにサブスクに乗ってもおかしくないと思うのですが、果たしてラブリーなポップ路線に琴が乗っているだけのサウンドに今需要はあるのでしょうかね。一聴すると、当時のクリスタル・サウンズとかと何ら変わりのない、ライトな演奏が展開されているけれど、そこに吹き込まれている空気が異質なのだ。ガチな音楽家魂を持っている山内さんなら、初見一発でメロディ奏でてセッション楽々終わり、なんだろうけど、やっぱり聴いてて鋭さが伝わってくる演奏に恋こがれてしまうわけで。特に71~72年の録音はそんなのばかりだからね。

「小さな恋の物語」のどポップなサウンドに、その異質さが集約されてる感じがあるけど、個人的には続く「わたしの宵待草」を比較対象にしたくなる。ノリを簡素化しながらも、リコーダーで純情さをマックスに高めているクリスタル・ヴァージョンに比べると、全体の演奏は洗練されているし、琴の音も純情では負けていないけれど、その間を取り持つ空気が何とも異様で、ポップという言葉が似つかわしくなくなる。まぁ、ノイズまみれのジャンク8トラではないメディアで聴けば、印象も変わってくるのだろうけど。襟裳岬も、ユピテルのメロトロン攻撃に慣れ過ぎた身にはあまりにもあっさり過ぎる。「らしい~」のとこのコードがIのメジャー6thになっているのは、予期せぬ妙なタッチだけど。さらに神田川という、もっと期待感溢れる選曲が来るけど、これは期待以上。やはりお琴で演られるとしびれる。クリスタルや森ミドリのヴァージョンがときめき度満点だった「空いっぱいの幸せ」も、木琴と絡んでなかなか面白い出来だ。他にも73年の歌無盤の常連曲が目白押しで、ポニーだけに決してチープな演奏じゃないのが安心感を高めているけど、ここでやっと登場する「浮世絵の街」はほんといい曲だよね…歌無盤数多あれど、これが収録された塩ビ盤が1枚もないなんて絶対おかしいですよ。探せばありそうだけど。オリジナル盤でも山内さんは弾いていそうですね。あと、藤圭子「恋の雪割草」もレアだが、タイミング的に不幸だったとしか言えない…

ひとり酒場でカルミック・ドリーム

クラウン  GW-5265

女のみち・ひとり酒場で 京琴・艶歌をうたう

発売: 1973年8月

ジャケット

A1 港町ブルース (森進一) 🆆

A2 ひとり酒場で (森進一) 🅱

A3 女のブルース (藤圭子) 🅹

A4 星影のワルツ (千昌夫) 🅶

A5 長崎慕情 (渚ゆう子) 🅹

A6 博多の女 (北島三郎)☆

A7 池袋の夜 (青江三奈) 🅳

B1 長崎ブルース (青江三奈)

B2 女のみち (宮史郎とぴんからトリオ) 🅿︎

B3 京都の夜 (青田健二) 🅱

B4 下町育ち (笹みどり)☆ 🅱

B5 柳ヶ瀬ブルース (美川憲一)

B6 花と蝶 (森進一) 🅼

B7 命預けます (藤圭子) 🅽

 

演奏: 山内喜美子/クラウン・オーケストラ

編曲: 福山峯夫、福田正 (☆)

定価: 1,800円

 

フルートは自分も演奏するので、萎縮しながら聴いてしまうけれど、琴となればそうはいきません。癒されるのみです。というわけで、今月は予期せず山内さん多め月間になってしまいました。

山内さんとクラウンはあまり結びつくイメージがないなと思ってましたが、67年に早々と『京琴による艶歌歌謡ヒット集』を残していて、94年の『琴・ザ・ビートルズ』に至るまで散発的に幾つかの録音があったと思われます。その正当な後継者として、宮西希さんに望みを託したのかな(汗)。彼女の「なごり雪」は最高ですよ。

そんな散発的な録音の1枚。クラウンのルーティン・サウンドのカラーとちょっと違う福山峯夫仕事として聴くと結構面白い。ヒットした時期に捉われず、演歌スタンダードを手堅く演っているけれど、この京琴の調べに脳をくすぐられるのだ。トップの港町ブルース、オーセンティックなヴァージョンにない響きだなぁと聴いていると、イントロ5小節目がちょっとおかしなことに…リアルタイムヴァージョンじゃない故、滑った感じもしょうがないが、右側に固定したドラムなど、70年代ならではの音が同居しているのも不思議な感触だ。さらに「ひとり酒場で」にいくと、初っ端からなんとメロトロンが!メロトロンと京琴が同時に鳴っているなんて、これは極上の桃源郷。ニュービートのセッションで使ったのが放置されていて、そのまま使ってみたのだろうか。 「星影のワルツ」にもメロトロン登場。指の舞いが伝わってきそうなダイレクトな響きに、山内さんの色気を感じる。その後ろから見守るメロトロンが異次元の感触だ…これは66年の録音技術で聴いてみたかったところ。テイチクの「うーうー」ヴァージョンが強力すぎる「長崎慕情」も、メロトロン登場で異なるカラーが出ているし、「女のみち」はトリオ/ワーナー盤のエクスペリメンタル色が薄れて軽くはなっているが、これにもメロトロン入り。以上の2ヴァージョンで山内さんの魅力に参ってしまった人をも、決して飽きさせないはず(自分だ…汗)。かと思えば、前述した67年のアルバムから引っ張ってこられたクラウン自社曲も2つ入っている。録音技術的に67年色が出てしまっているが、全体の流れから浮いている感じはなくて、6歳若い彼女の演奏も違和感なくはまっている。むしろ、68年以降のクラウンの音を聴き過ぎた耳には、ガチすぎて新鮮すぎるほどだ(汗)。「下町育ち」にはサイケ感さえ感じられるし。「池袋の夜」「柳ヶ瀬ブルース」のハワイアンサウンド(山下洋治か?)も新鮮な味付けで、後者にはメロトロンも入っているし、萌え萌え大爆発(汗)。

今年に入ってからジャンクコーナーで救済した盤なのに、状態も良かったし、これは美味しい買い物でした。もっとこんな調子で掘れりゃいいんだけどね…

人は誰も夢破れ笛を吹く

ユニオン UPS-5217-J

時には母のない子のように

発売: 1969年8月

ジャケット

A1 時には母のない子のように (カルメン・マキ) 🆃

A2 雨 (ジリオラ・チンクエッティ) 🅲

A3 長崎は今日も雨だった (内山田洋とクール・ファイブ) 🆀

A4 涙の日曜日 (ザ・スパイダース) 🅲

A5 行かないで (スコット・ウォーカー) 🅱

A6 心の裏窓 (浅丘ルリ子)

B1 風 (はしだのりひことシューベルツ) 🆅

B2 ふたりだけの夜明け (クロード・ボラン) 🅱

B3 星のみずうみ (布施明) 🅴

B4 くれないホテル (西田佐知子) 🅴

B5 青空にとび出せ (ピンキーとキラーズ) 🅳

B6 グッドバイ (メリー・ホプキン) 🅱

 

演奏: ユニオン・クール・サウンズ

編曲: 無記名

定価: 1,700円

 

ジャケット(すみません、こうするしかなかったもので…)からは窺い知れないけれど、まさかのフルート大フィーチャーアルバムである。解説でも、フルートがいかに進化したかの歴史が綴られており、正にこの時期に注目度急上昇だったのが窺い知れるが、やはりピンキラの貢献度がでかかったのだろうか…GSメンバーにも、大ちゃんやマチャアキ、チャッピーを初めとして吹ける人は相当いたし、決して「お嬢様の嗜み」というイメージは当時なかったのだろう。ただ、やはり出てくる音には清涼感というか、浜辺を駆け抜けるさわやかな風の印象を抱いてしまう(ブルコメの「マイ・サマー・ガール」に相当洗脳されてるな自分…汗)。このジャケットみたいな、プライベートな誘惑は似合わない音なのだよね…ついでだけど前身であるリコーダーは水のない場所のイメージ。若草の髪かざりを付けた森を駆ける乙女たち、みたいな。

例の如く、演奏者の顔は見えてこないし…ホセ・ルイスのアルバムと同様、ラテン・リズムを強調しているのだが、沢村和子ではないだろう(汗)。二人以上奏者がいるのも確実だし、恐らく経験豊富な達人の方々が結集しているに違いない。まぁ、安心して聴けますからね。トップの「時には母のない子のように」に決定的な既聴感があって、特にイントロを省いているところと、2番で転調するところが、一昨年11月14日紹介した『愛して愛して』のヴァージョンと瓜二つ。ということは、この盤のアレンジも池田孝氏確定でしょう。穏やかに始まり、高々と舞い上がるプレイが心を躍らせる。「雨」は冒頭がアルト・サックスで綴られるので、第2フルートのパートはサックス・プレイヤーが兼ねてるのかもと憶測できるし、これら洋楽曲4曲は全て、21年7月20日取り上げた「インペリアル・サウンドが歌う シバの女王」とアレンジを兼用しているようだ(「タッチ・ミー」も演ってほしかったな!)。何よりも痛快なのは長崎は今日も雨だっただ。陽気な8ビートのラテン・サウンドにフルートが舞いまくり、長崎に希望の雨を降らせる。昨年12月27日のヴァージョンバトルは平行線に終わりましたが、これの登場で圧勝決定。「風」も爆走モードのイントロで始まりつつ、曲に入ると優しいサウンド、と思いきや2コーラス前の間奏で爆走。意表をついたアレンジにやられる。「くれないホテル」はリズム面で斬新な試みをしていてなかなかのユニークさだし、「青空に飛び出せ」もオリジナル以上の爆走ぶり。「涙の日曜日」「心の裏窓」の選曲もフルートの特性を生かしていて素敵だ。最後もメリー・ホプキンの澄んだ歌声に負けていず、最高の幕引き。

こういうのを聴いていると、オーケストラ・グレース・ノーツの小型版のような楽団を組織して、今流のやり方で完全人力歌無歌謡アルバムを作りたいと妄想してしまう…当時は人材的に無理だっただろうけど、今じゃ全く別の理由で無理なんだろうなぁ…