黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は丸山圭子さんの誕生日なので

CBSソニー 15AH-178

ニューミュージック・ベスト20

発売: 1977年

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ジャケット



A1 どうぞこのまま (丸山圭子) 🅱

A2 フィーリング (ハイ・ファイ・セット)Ⓑ 🅲

A3 青春時代 (森田公一とトップギャラン)Ⓐ 🅱

A4 あの日にかえりたい (荒井由実)Ⓐ 🅲

A5 わかって下さい (因幡晃)Ⓐ 🅱

A6 時 (小椋佳)Ⓑ

A7 思いで… (因幡晃)Ⓑ

A8 目覚めた時には晴れていた (伝書鳩)Ⓐ

A9 「いちご白書」をもう一度 (バンバン)Ⓒ 🅲

A10 無縁坂 (グレープ)Ⓓ

B1 揺れるまなざし (小椋佳)Ⓑ

B2 シクラメンのかほり (布施明)Ⓒ 🅲

B3 想い出のピアノ (森田公一とトップギャラン)Ⓑ

B4 たえこ MY LOVE (吉田拓郎)Ⓑ

B5 なごり雪 (イルカ)Ⓐ 🅱

B6 翳りゆく部屋 (荒井由実)Ⓐ 🅱

B7 22才の別れ (風)Ⓒ

B8 我が良き友よ (かまやつひろし)Ⓒ 🅱

B9 心もよう (井上陽水)Ⓒ 🅲

B10 俺たちの旅 (中村雅俊)Ⓐ 🅱

 

演奏: クリスタル・サウンズ

編曲: 矢野立美Ⓐ、松井忠重Ⓑ、渡辺博史Ⓒ、神保正明

定価: 1,500円

 

クリスタル・サウンズの既発売音源から編集された、廉価盤「ゴールデン・スペシャル1500」シリーズの1枚。72分を越える演奏時間の無茶しすぎを除くと、実に美味しいとこどりで重宝すべき1枚。「旬もの」で無い分、繰り返し使える実用性が要求されるけど、売る方はそこまで考えてなかったんだろうな…。

「旬もの」で無い分、的を得た説明がしづらいのも事実だが、どの曲をとってもクリスタルらしい演奏だな、とは感じられる。「どうぞこのまま」の、手堅いムーディな演奏に乗ったフルートは決して「職人芸」的ではなく、美味しい空気を聴界にもたらす。Bメロで出てくるギターは対してその「職人芸」色の希薄さを滑稽に感じさせる。この温度差こそがクリスタルらしさに尽きるのだ…「フィーリング」「想い出のピアノ」で聴ける女性コーラスにもその色が濃厚だが、圧巻は「無縁坂」のリコーダー。同じソプラノリコーダーでも性格の異なる音を2つ並べて、うまい具合にコントラストを出しているところが計算高い。恐らく、常駐のクラリネットとかオーボエ奏者の人に演奏を振っているに違いない(フルート奏者だとちょっと聴かせ方が違ってくる)。時間の都合か、このヴァージョンは2番の途中でフェイドアウトしてしまうのが残念。完奏盤はきっと、他のアルバムに入ってるはず。これは山本正之仕事の二大重要ブレーンの片方である神保氏の仕事ですが、もうひと方の武市昌久氏も実はクリスタル・サウンズ仕事に関わっており、うまくいけば裏話をお伝えできるかもしれません…

 

※便宜上、カテゴリは「フォーク」に含めています

今日はあきら (フィンガー5)の誕生日なので

東宝 AX-4012

最新歌謡ヒット

発売: 1974年4月

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ジャケット



A1 学園天国 (フィンガー5) 🅱

A2 恋は邪魔もの (沢田研二) 🅱

A3 花のようにひそやかに (小柳ルミ子)

A4 薔薇の鎖 (西城秀樹)

A5 しあわせの一番星 (浅田美代子) 🅱 

A6 星に願いを (アグネス・チャン)

A7 気になる17才 (あいざき進也)

A8 別れの鐘の音 (五木ひろし)

B1 花とみつばち (郷ひろみ) 🅱

B2 バラのかげり (南沙織) 🅱

B3 恋の風車 (チェリッシュ) 🅱

B4 恋人たちの港 (天地真理)

B5 春風のいたずら (山口百恵)

B6 こころの叫び (野口五郎)

B7 しのび恋 (八代亜紀)

B8 姫鏡台 (ガロ) 

 

演奏: 岡山和義 (ドラムス)、ジミー・スコット (ギター)、市原宏祐 (サックス)/ミラクル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 福井利雄

備考: RM方式4チャンネル・レコード

定価: 1,800円

 

2日連続ミラクル・サウンズ。2年の時を経て、油の乗りまくったヒット・マシーンに変貌した彼らの爆発ぶりが記録された1枚。とにかく、1曲目「学園天国」が圧巻。「歌のない歌謡曲にはまってよかった」と感じずにいられなくなるのは、こういうレコードに針を落とした時ですよ。出だしから集まったミュージシャン達がギターに答え大合唱。4chの四隅から歓喜の声が押し寄せてくる!(脳内デコードしてます…汗)。これでギアが入って、本編の演奏もノリノリ。ドラムソロの間も嬉しそうに大騒ぎしている。たとえやっつけ仕事だろうが、この位楽しくやらなきゃ意味ないですとも。この辺のグルーヴ感に溢れる曲の合間合間に「花のようにひそやかに」「しあわせの一番星」などが、チルアウト効果をもたらす。ミラクル・サウンズ名物のリリカルな鍵ハモも、これらの曲に効果的に登場。あいざき進也のデビュー曲「気になる17才」は実は隠れキンクス歌謡だったんですねと、花とみつばちと同じアルバムに配されて改めて気づくなど。

この調子で緩急交えながら終盤に向けて突き進んだところで、突然変異的なものが突如そこに待ち受けている。「こころの叫び」だ。他社の演奏にはより本質的にエピタフ度を露呈させたヴァージョンもあることはあるが、ここで聴けるものはそんな生易しいものではない。1コーラス演奏し終わった後、突如始まるドラムソロ。ジミー竹内もよくやる、曲本体とあまり関係ないアブストラクトなプレイであるが、この曲にそれを絡められると、必然的にムーンチャイルド色がおびき出され、恐ろしいことになってしまう。恐るべし、歌のないプログレ歌謡。ドラムの録音も4チャンネル効果をフルに使い、四方に飛ばしまくっている。続く「しのび恋」が、場末の酒場ムードを装ったチルアウト感満点。ラストはオンタイムで聴いた時「いいんですかここまでやって」という違和感に見舞われまくったガロの「姫鏡台」。その反省を兼ね、この曲が入った歌無レコードは重点的に集めることにしたのだが(汗)、ここでの演奏は単に手堅く終わってる感じ。最後に持ってきた効果はありありだが。

1972年、今日の1位は「太陽がくれた季節」

東宝 AR-1009

最新歌謡ヒット

発売: 1972年6月

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ジャケット



A1 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子) 🅲

A2 ふたりは若かった (尾崎紀世彦) 🅲

A3 純潔 (南沙織) 🅴

A4 浮雲 (坂本スミ子)

A5 結婚しようよ (吉田拓郎) 🅱

A6 お別れしましょう (朝丘雪路)

A7 許されない愛 (沢田研二)

B1 待っている女 (五木ひろし)

B2 恋の追跡 (欧陽菲菲) 🅲

B3 別離の讃美歌 (奥村チヨ) 🅲

B4 太陽がくれた季節 (青い三角定規) 🅲

B5 あの鐘を鳴らすのはあなた (和田アキ子) 

B6 今日からひとり (渚ゆう子) 🅲

B7 愛の泉 (久保義明)

 

演奏: ミラクル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 無記名

備考: RM方式4チャンネル・レコード

定価: 1,500円

 

活動期間の短さの割に相当点数のレコードを残し、それなりに好き者の薬指をそそりまくる東宝ラクル・サウンズ・オーケストラ。タイトルも『最新歌謡ヒット』に統一され(プッシュ曲名は帯に大々的に表記されるが)、盤の特徴を定義しづらいのが難ではあるが、ものによってはとんでもない演奏を聴かせてくれたりするし、要注意楽団である。これはAX品番で本格スタートする前のプレデビュー的リリース。大々的に打ち出されていないものの、内ジャケットには4チャンネル録音であることがこっそり明記されており、売り方に迷いがあったことが窺える。1曲目瀬戸の花嫁に針を落とすと、確かに立体的に組み上げられたサウンドの左奥の隅に、例のコンガを撫でる「ムー」という音がどでかく構えており(昨今のアレンジャーにこの音の正体を把握している者がどの位いるのだろうか?)、4chデコードするとよりはっきり聞こえてくるはず。例のカモメ音は、ついでながら入っていない。

編曲者クレジットがないところもまた、売り方に対する迷いを感じさせるけれど、このアルバムで最も呆れるのはA面の曲順に尽きる。浮雲は除くとしても、曲タイトルをこの順番で並べて、果たしていいのだろうか?それを抜きにすると、なかなか聴かせどころを得たアルバムである。「瀬戸の花嫁」や「別離の讃美歌」でリードをとる鍵盤ハーモニカは、この楽器を舐めてもらったら困るよという感情に包まれたナイスな音色。後者なんてブレスも露わだ。「ふたりは若かった」の女性コーラス、「結婚しようよ」アコーディオンなど、さわやかな自己主張がシャープな録音で光り輝く。「待っている女」の間奏はヴァイブで奏でられ、このヘヴィな曲に安堵の色をもたらしているが、エンディングが興醒め。最終曲には自社推し枠を持ってきているが、トワ・エ・モアの同名曲を前に惨敗。いい曲ではあるが。

太陽がくれた季節の最強ヴァージョンが入ったレコードを今日語れなかったのが残念ですが、その辺はスケジュール采配の都合ですからしょうがない。いつか語ります、お楽しみに。

今日は青江三奈さんの誕生日なので

コロムビア ALS-4504

ゴールデン・ヒット・メロディ決定盤 逢わずに愛して/ネオン街ブルース

発売: 1970年5月

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ジャケット



A1 逢わずに愛して (内山田洋とクール・ファイブ)

A2 女のブルース (藤圭子)

A3 あなたならどうする (いしだあゆみ)

A4 国際線待合室 (青江三奈)

A5 燃える手 (弘田三枝子)

A6 恋人 (森山良子) 🅱

A7 経験 (辺見マリ)

B1 ネオン街ブルース (真木七奈)

B2 恋ひとすじ (森進一)

B3 四つのお願い (ちあきなおみ)

B4 恋狂い (奥村チヨ)

B5 花のように (ベッツイ&クリス)

B6 北国の町 (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)

B7 白い蝶のサンバ (森山加代子)

 

演奏: 柴田晴代 (スチール・ギター)/コロムビア・オーケストラ

編曲: 甲斐靖文

定価: 1,500円

 

大好物のスチール・ギター・ムード、本盤の主役・柴田晴代さんは珍しい女流奏者の上、現役バリバリ未だに最前線で活躍中。このアルバム発売の直前には自らのバンド、ハニー・ビーズでムードコーラスのシングル「愛にぬれたギター」と歌物のアルバム『さみしがり屋のあなたに』をリリース。このバンドが「サイケ・カッポレ」のザ・レンチャーズの中の人疑惑も一部にあるが、実際のところどうなのだろうか…のちに「スーパーJOCKEY」でピアニストとしてレギュラー出演したり、生田流の琴の師匠でもあるなど、実に多才な方だ。一人で歌無歌謡アルバム作ることさえできそう…そんな彼女が70年に残した歌無歌謡アルバム。ちなみにジャケットの女性は別人(汗)。96年と09年にそれぞれ出したリーダーアルバム(CD)にも一部の曲が流用されていて、そちらの方がむしろレア。

小気味よい演奏に艶のある、それでいて意外と骨太なスチールの音色が乗り、南国気分以上にさわやかな空気がもたらされる。「国際線待合室」「恋ひとすじ」などにはスタンダードなハワイアンモードが取り入れられ、曲に軽さを与えているし、逆にポップス度の高い「恋人」「白い蝶のサンバ」あたりには程よい粘着力が。最大の聴きものは惜しくも昨年、歌手・作詞者・作曲者を全て失った「燃える手」。改めて、曲の良さを思い知らされる快演だ。スチールの脇役として、フェミニン度を強調するようなフルートが効果的に響く瞬間も幾度かあり。

B1「ネオン街ブルース」宝塚歌劇団出身の異色新人・真木七奈のデビュー曲として猛プッシュされ、コロムビアは少なくとも3種類の歌無歌謡ヴァージョンをリリースして後押しするも奮わず、半年も経たないうちに彼女は別のレコード会社に移り、新たな芸名を与えられ再デビューというまさかの道を辿ることになるのだが、歌無歌謡界を探ると意外なドラマの素が隠れていたりして、その辺もたまりません。

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ハニー・ビーズとその後の真木七奈さんのシングル盤

 

1968年、今日の1位は「銀河のロマンス/花の首飾り」(4週目)

ポリドール SMP-2034 

ゆうべの秘密 蒼い夜のテナー・サックス

発売: 1968年9月

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ジャケット



A1 盛り場ブルース (森進一)

A2 恋のしずく (伊東ゆかり) 🅱

A3 伊勢佐木町ブルース (青江三奈)

A4 花と蝶 (森進一)

A5 星を見ないで (伊東ゆかり)

A6 誰もいない (菅原洋一)

A7 白夜の騎士 (ザ・タイガース)

B1 ゆうべの秘密 (小川知子) 🅱

B2 涙のかわくまで (西田佐知子) 🅱

B3 愛の園 (布施明)

B4 星になりたい (佐良直美) 🅱

B5 天使の誘惑 (黛ジュン)

B6 白鳥の歌 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)

B7 花の首飾り (ザ・タイガース) 🅱

 

演奏: シル・オースチン (テナー・サックス)と彼のオーケストラ

編曲: 無記名?(付属物紛失により調査不能)

定価: 2,000円

 

歌のない歌謡曲の世界は、何故か名うての海外ミュージシャンを多数引きつけたようで、サム・テイラーを筆頭に、クロード・チアリからブーツ・ランドルフまで…勿論、二つの世界を自由に往き来したベンチャーズの大成功が引き金となったのは確実だが、それだけ歌謡曲のメロディーに魅力があったという証しだろう。当然、海外のミュージシャンの器の大きさと、それを受け入れる日本のレコード業界の度胸のデカさ、両方とも今じゃ想像できないスケールだったろうし…

本盤の主役、シル・オースチンは、それこそ海外での知名度からすればサム・テイラー以上に大物かもしれない。50年代にジャズ界からポップス系イージ-・リスニングへと越境(今で言う「スムーズ・ジャズ」的展開?)、時にシングル・ヒットも放ちつつ主にアルバム市場で活躍。日本でも多くのレコードが紹介された。60年代末期には古巣マーキュリーを離れSSSインターナショナル・レーベルに所属。このレーベルとのコネクションで日本グラモフォン(後にポリドール→現ユニバーサルミュージック)からレコードが紹介されることになり、サックス・ムード隆盛な歌のない歌謡曲市場に食い込むというわけである。

少なくとも3枚確認されているポリドール盤アルバムのうちのひとつで、演歌からGSまで68年のヒット曲に果敢にタックル。過剰にムードを押し出さず、ジャズにルーツを持つ的確なメロディーさばきに時折強烈な個性を加えてみせる、実に親しみやすい演奏。バックのオケは確実に日本制作と思われ、当時のポリドールの国内制作レコードのほぼ全てで叩いたと言われる原田寛治特有のドラムフィルも、そこここに顔を出す。「盛り場ブルース」のドライな女性コーラスとか、決して本場の音では聴けません(汗)。サックス奏者のレコードでは必殺技として頻繁に使われる「2番から転調」も実にスムーズに聴かせるし、これぞ芸人魂。伊勢佐木町ブルース」の喘ぎ声には笑うしかないが、これはサービスもの。ザ・タイガース「白夜の騎士」は敢えてB面というレア選曲で自社の意地を感じさせる。肝心のA面曲「シー・シー・シー」の歌無盤、今のところテイチクのコンピCDに入っているもの以外手許にないんです…(汗)。今日のテーマである「花の首飾り」(先日亡くなったレス・マッコーエンもカヴァーしてましたね…)も両A面扱いとはいえ、当時のグラモ的に言えば「S面」で結果的にこっちの方が大きなヒットになったわけで。個人的ベスト・トラックは、ハワイアン的乗りに隠れたアーバン性を浮き彫りにしてみせる「天使の誘惑」。最後の方で見せる本音に思わずドキッとさせられる。

今日は高久昇さん (ザ・テンプターズ)の誕生日なので

テイエム TL-1032

グループ・サウンズ⭐︎加山雄三⭐︎カラオケ集

発売: 19??年

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ジャケット



A1 君といつまでも (加山雄三) 🅲

A2 モナリザの微笑 (ザ・タイガース)

A3 想い出の渚 (ザ・ワイルド・ワンズ)

A4 白いサンゴ礁 (ズー・ニー・ヴー)

A5 エメラルドの伝説 (ザ・テンプターズ)

A6 スワンの涙 (オックス) 🅱

A7 海は恋してる (ザ・リガニーズ)

A8 夜空の星 (加山雄三) 🅱

B1 花の首飾り (ザ・タイガース)

B2 神様お願い (ザ・テンプターズ)

B3 ガール・フレンド (オックス)

B4 愛する君に (ザ・ゴールデン・カップス)

B5 ブルー・シャトウ (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)

B6 お嫁においで (加山雄三) 🅲

B7 長い髪の少女 (ザ・ゴールデン・カップス)

B8 夕陽が泣いている (ザ・スパイダース) 🅱

 

演奏: ニュー・ポップス・グランド・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 1,200円

 

最初からカラオケレコードと銘打って売られているアルバムに関しては、ここで語るのは相応しくないと思いつつ(昨日紹介したDovecotのような、レーベルとしてそそるものは別として)、これは主題が主題故しょうがない。しかも謎のマイナーレーベルということで、GS&若大将の名曲をどう料理しているかも気になるし。ついでにジャケットもいいですよね。意味不明ですが。発売年代は不詳だが、音の質感からして70年代ではないと思われる。当然60年代でもない(爆)。

1曲目「君といつまでも」。ガイドメロディーを奏でるギターの音量もかなり控えめで、歌ってくれと言わんばかりに気合入ったフルオーケストラ演奏。気付いてみればガイドメロディーの存在感が消えている。使用する者の心理状態を考慮したミキシングで、カラオケレコードとしては理想的作りになっている。「想い出の渚」は若干走り気味だし、「愛する君に」はとてつもなく軽い演奏になっているが、これもまたノスタルジアとしてGSがどう扱われたかという証みたいなもので。今や有り得ないカルトGS曲までカラオケ屋さんに行けば歌える時代になってるけど、このようなレコードに合わせて口ずさむのも乙なものです。もしくは、自分で演奏してより真っ当な「歌のないGS歌謡」を作り上げるのも有り。

歌謡フリー火曜日その5: 洋楽スタンダード・カラオケ

Dovecot DL-1006

愛のスタンダード・ベスト12

発売: 1978年

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ジャケット



A1 サバの女王

A2 追憶

A3 アドロ

A4 フィーリング 🅱

A5 サニー

A6 マイ・ウェイ

B1 ムーン・リヴァー

B2 ハワイアン・ウェディング・ソング

B3 モア

B4 ラヴ・イズ・ブラインド

B5 サマータイム

B6 イエスタデイ 🅱

 

演奏: Dovecot Sounds

編曲: 柳刀太

備考: カラーレコード (青)

定価: 1,480円

 

基本的に、イージーリスニング・レコードとカラオケ・レコードは、コンセプト的に完全なる別物である。作る側にとっては、歌のない演奏レコードを作り、用途に合わせてメインメロディーの存在感に差をつけるだけで済むのだろうけど、使う側としては相互作用はあり得ない。そんなわけで、ここでカラオケを主な用途とするレコードを扱うのは極力避けたいのだが、ブランド的に例外がひとつだけある。

小売界の大手・イトーヨーカドーが、レコード界に進出して立ち上げた「Dovecot」レーベル。そこからリリースされた7枚のカラオケレコードがある。

このレーベル開始に関する真相は未だ掴みようがないのであるが、商売敵のダイエーが「マイパック」ブランドを立ち上げ、980円という破格の価格でお手軽な盤(歌無歌謡も相当数あり、今後当ブログでいくつか取り上げる予定)を自店舗で売りまくってから相当時間が経ったはずの1978年に、これらのカラオケレコードを一気にリリース、恐らくテナント内のレコード店や書店で売りまくったと思われる。ちなみに、カラオケ以外でもDL-2000番台を設け、英国の音源制作業者からライセンスされた音源でサウンドアライク盤を売ったという話の全貌を掴むチャンスは、今のところ皆無に近い。

カラオケブームに乗ったと思しきせこいレコードビジネスと思いきや、実はとんでもなく力が入ったプロジェクトで、イラストのジャケットにも一貫したコンセプトを持たせ、録音のクオリティもかなり高い。しかも、当時隠れトレンドとなっていたカラーレコードを採用。ワーナーの「ファッションディスク」シリーズや、クラウンの童謡のカラー盤が79年発売開始だから、ちょっとだけ先んじてたということだ。

今日紹介するのは、全7枚リリースされた内、唯一歌謡曲を収録していない盤で、いい気なポピュラーファンにターゲットを絞ったスタンダード集。といっても、「サバの女王」は元々インストとしてヒットした曲だから、普通にイージーリスニングとして聴くのも可能。ただし、歌メロは全てせこいシンセの音で統一され、ガイドメロディーとしてわずかに使える音量に留められている。その曲を筆頭に、ストリングスはエレガントに鳴り響き、リズムセクションもシャープに録られている。歌う人の心理をいい具合に揺らし、いい加減な仕事に終わっていない。「サニー」はボニー・Mのディスコ・ヴァージョンに準じた演奏でむしろ異色だが、続くマイ・ウェイにせよ、いい気になりすぎるには若干軽い。それでいいのだ、大手スーパーで買えるプロダクトだから。「ハワイの結婚の歌」はガチなハワイアン演奏にコーラスも入り、ロマンティック・ムードに火を付けるが、淡白なシンセ音に萎え。最後の「イエスタデイ」はゴージャスすぎ、むしろ一緒に楽器を演奏したい気分になる。肩の力を抜いて臨めるのは、むしろ歌謡曲の方ということを教えてくれる一枚。

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Dovecotのレーベル