黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は大久保一久さん (風)の誕生日なので

キャニオン C-1095

全国最新歌謡ベスト16

発売: 1975年4月

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ジャケット



A1 浮草の宿 (殿さまキングス) 🅱

A2 湖の決心 (山口百恵) 🅲

A3 22才の別れ (風) 🅳

A4 火遊び (中条きよし)

A5 ひとり歩き (桜田淳子) 🅱

A6 黄昏の街 (小柳ルミ子) 🅱

A7 おんなの夢 (八代亜紀)

A8 あかいサルビア (梓みちよ) 🅱

B1 この愛のときめき (西城秀樹) 🅲

B2 さすらいの唄 (小沢深雪)

B3 我が良き友よ (かまやつひろし) 🅳

B4 ふたりの秘密 (西川峰子)

B5 愛のアルバム (天地真理)

B6 哀恋記 (五木ひろし) 🅱

B7 白い部屋 (沢田研二) 🅱

B8 湯けむりの町 (森進一) 🅱

 

演奏: 木村好夫 (ギター) オーケストラ表記なし

編曲: 神保正明

定価: 1,500円

 

二日連続でキャニオンの好夫ギター。5年間で歌謡界は様変わりしたけれど、相変わらずのマイペース。ただ、響き的にはかなり変わってきてます。録音技術そのものの進化がものを言ったのは言うまでもないし、アレンジのカラフル化も半端ない。ここでは、二大「山本正之氏専属仕事人」の片方、神保正明氏が敏腕を奮っています。クリスタル・サウンズやブルーナイト・オールスターズにも関わっているし、当時の多忙さは半端なかったはず。

トップが殿さまキングスの曲で特性発揮しまくりなのはいうまでもないけど、続く「湖の決心」でも執拗に好夫カラーがうごめき、それが全然違和感ない。百恵さんの「一途さ」をこのギタートーンが抱擁できたということかな。22才の別れも然り。アレンジ的には変な方向に行っていないけれど、サイドギター共々自らこなし、不思議に新鮮味が現れたサウンドになっているのだ。「ひとり歩き」ミノルフォン盤と似たテイストのアレンジで、そちらも個別クレジットは不明瞭ながら神保氏のアレンジだったっけ。ただ、ミノルフォン盤ほど異常なエフェクトをかけていないところは安心して聴ける(汗)。手堅いフレージングに脇を固める堅実な演奏。これでいいのだと納得するしかない1枚です。ところで…NAVレーベルには歌無歌謡ってないんでしたっけ…というかそのレーベルの曲が取り上げられること自体が稀でしたけど…

今日は日吉ミミさんの誕生日なので

キャニオン CAL-1007

銀座の女/京都の恋 最新全国歌謡ベスト・ヒット

発売: 1970年12月

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ジャケット



A1 銀座の女 (森進一) 🅲

A2 時は流れる (黛ジュン) 🅱

A3 ロダンの肖像 (弘田三枝子) 🅱

A4 ふたりの関係 (ヒデとロザンナ)

A5 男と女のお話 (日吉ミミ) 🅱

A6 一度だけなら (野村真樹)

A7 手紙 (由紀さおり) 🅱

B1 何があなたをそうさせた (いしだあゆみ) 🅱

B2 X+Y=LOVE (ちあきなおみ) 🅱

B3 私生活 (辺見マリ) 🅱

B4 京都の恋 (渚ゆう子) 🅳

B5 希望 (岸洋子) 🅲

B6 愛のきずな (安倍律子) 🅲

B7 命預けます (藤圭子) 🅲

 

演奏: 木村好夫 (ギター)/キャニオン・オールスターズ

編曲: 竹村次郎

定価: 1,500円

 

新興キャニオン・レコードから早くも2枚目となる好夫師匠のムーディセレクション。AB面をそれぞれ別のコンセプトでまとめ、別々に帯を付けて売り出すパターンはコロムビアのやり方を踏襲したもので、当時買う側としてはうざかったんだろうな…2本とも付いた状態で手に入ると、今じゃかなり得した気分になる。蛇足だが片方の帯の裏には「お年玉券」が付いており、「補充票」と同様お店が切り離して使える仕様だったと思われるが、一体なんの「お年玉」がもらえたのでしょうね。それが付いたままの盤を手にした一般のお客さんも、どう思ったんでしょうか当時。

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「お年玉券」。時効ですしね。

まぁとにかく、テープメーカーだったポニー時代から大量の録音を残していただけあって、好夫ギターのツボを押さえた仕上がり。トップの「銀座の女」から、トレードマークの引き摺りフレーズが炸裂しまくり、これじゃなきゃと安堵感にかられる。その分、ポップス色の濃い曲では守りに入った演奏が味わえるけど、脇役のがんばりがその分聴き逃せなくなるのだ。特に「時は流れる」ロダンの肖像」で活躍しまくるフルートが耳をとらえる。「手紙」ではせこさが露呈してしまうのがちょっと悲しいけど。「ふたりの関係」は例外的にノリを重視した演奏になっているが、最後はやはり王道路線の「命預けます」できっちり締め。いよいよ新しい曙が見えてきたかなと思わせるアルバムだ。

歌謡フリー火曜日その15: 最新洋楽ヒット

大映 DAL-16

インペリアル・サウンドが歌う シバの女王

発売: 1969年8月

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ジャケット



A1 シバの女王 (レーモン・ルフェーブル楽団) 🅲

A2 雨 (ジリオラ・チンクェッティ) 

A3 ゲット・バック (ザ・ビートルズ) 🅱

A4 インディアン・ギヴァー (1910フルーツガム・カンパニー)

A5 タッチ・ミー (ザ・ドアーズ)

A6 愛のレッスン (フランシス・レイ)

B1 グッドバイ (メリー・ホプキン)

B2 輝く星座 (フィフス・ディメンション)

B3 行かないで (スコット・ウォーカー)

B4 フール・オン・ザ・ヒル (ザ・ビートルズ) 🅱

B5 マンチェスターリヴァプール (ピンキーとフェラス)

B6 ふたりだけの夜明け (クロード・ボラン)

 

演奏: インペリアル・サウンド・オーケストラ

編曲: 池田孝

定価: 1,500円

 

テイチクが配給していた時代の大映レコードは、配給元に負けじと歌無歌謡レコードに力を注いでいたけど、やはり洋楽の演奏ものにも手を出していました。インペリアル・サウンド・オーケストラ名義は70年代にも一部マイナー・レーベルに確認されたりしてますが、直接関係はないと思われます。何ゆえに好んで使われた名義だったのだろうか?

大映の演奏ものの殆どで敏腕を奮っていた池田孝氏が、この盤でもアレンジを担当。ノーチェ・クバーナ出身ということは、山倉たかし氏と同窓ということだ。元々トロンボーンを担当していたが、その辺の谷啓的センスにも恵まれていたのか、翌年にはスパイク・ジョーダン名義で『楽器が歌う・冗談音楽/コミカルソングで今宵楽しく」(DAL-30)なる珍盤を手がけてもいる。選曲の妙もあるけど、これ最早メガレア盤の領域に入ってるんですよ…

そんな珍作の予感を感じさせない、ガチなイージー・リスニングを模索した本作。所々にあっと驚く選曲を交えて、当時のポップス事情を垣間見せてくれる。いかにもエレガントな冒頭2曲は、歌無歌謡の場末感と全く違うところを指向しているが、「ゲット・バック」になるとちょっと違う。軽めな疾走感にホーンの華やかさが加わり、間奏のパーカッションはお遊戯会の合奏のような趣き。2度目のギターソロには、これって好夫師匠の演奏ではと思わせるタッチまで出てくる。バブルガムの極致「インディアン・ギヴァー」はそれなりにポップだが、この曲は米国のZig Zag Peopleによる、それこそ冗談音楽の極みのような屎莫迦解釈に勝るものはないです(爆)。是非捜して聴いてみて下さい。

そして、ダメ押しのように「タッチ・ミー」が登場。「ハートに火をつけて」さえ取り上げられる頻度はそんなに高くないのに(ホセ・フェリシアーノの力を持ってしても)、この曲となると胸熱である。原曲の躍動感を生かしつつ、さすがに妖しさは激減。エレガントな感触にはそんなに違和感がない。そして、エンディングで「Stronger than dirt!」と叫ばせるタイミングが計りづらい。ホーンが入り始めてから23小節目(オリジナルは9小節目)になってますよ。ここ重要(この一節、カラオケの字幕には出てこないけど、歌わずにいられないんですよね)。

B面もビートルズ・ファンの心をさらに動かしそうな「グッドバイ」やここでもやはりセルメン盤に則っている「フール・オン・ザ・ヒル、今では当時に増してカルト的な支持を受ける曲と化している「行かないで」などを交えて手堅く進行していく。チェンバロの甘い音色が目立ち、ラブ・サウンドの曙ももうすぐといった響きに彩られている1枚。「ふたりだけの夜明け」のギターも、なにかしら好夫タッチですけどね。

"Stronger Than Dirt"の元ネタはこれ

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今日は近藤真彦さんの誕生日なので

東芝 TP-60505

オリコン・ベスト・ヒット! ポップス・インストゥルメンタル

発売: 1985年3月

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ジャケット



A1 天使のウインク (松田聖子)

A2 ユー・ガッタ・チャンス (吉川晃司)

A3 もっと接近しましょ (石川秀美)

A4 ジュリアに傷心 (チェッカーズ)

A5 熱視線 (安全地帯)

A6 ヨイショッ! (近藤真彦)

B1 銀河の神話 (田原俊彦)

B2 リ・ボ・ン (堀ちえみ)

B3 二人だけのセレモニー (岡田有希子)

B4 シンデレラは眠れない (THE ALFEE)

B5 スターダスト・メモリー (小泉今日子)

B6 そして僕は途方に暮れる (大沢誉志幸) 

 

演奏: 東芝EMIグランド・オーケストラ

編曲: 丸山恵市

定価: 2,000円

 

80年代にだって、普通に歌無歌謡レコードはありましたよ…ただ単に、70年代のそれのような下世話な売り方ができなくなっただけで。もちろん、演歌ファンを狙ってのその手の演奏ものも健在でしたし(当然木村好夫先生のライフワークも続いていたわけで)、一方アーティスト別にまとめての「ニューミュージック作品集」みたいな盤も数多く出てましたが、大抵は無難すぎる料理法で空気みたいに軽くて、言葉に出す気にもならないし。それに近いものが、アイドル歌謡の類にも数枚出ていて、菊池桃子小泉今日子は直接その制作に関わったりもしてましたね。この系統は、最近の松井咲子に至るまで細々と続いています。ちょっと毛色は違うけど神崎愛のフルート演奏盤とかも思い出したり。というわけで、柴本幸さんのリコーダー演奏盤を待望しています!!!

余計な方向に話が逸れてしまったけど、まさかの80sアイドルポップ中心の歌無歌謡盤を見つけたので、マッチの誕生日に取り上げてみました。そして、これもまさかのオリコンタイアップ付きレコード。業界誌そのものとレコード会社が出している商品が結び付くなんて、常識じゃあり得ないことで、ライノが出した『Billboard Top Hits』シリーズに遥かに先駆けている。さらにまさかなのは、小池社長自身によるライナー。収録アーティストが見事に他社所属ばかりというのに(吉川晃司とTHE ALFEEは当然移籍前)、ここまで褒めたり内幕を暴露しちゃっていいのでしょうかね。このシリーズ、2枚以上確認されていないけど、まぁそれなりに理由は推測できそうです。

安直に買っちゃっていいのかな、と迷いがありましたが、そんなの吹っ切ってしまった最大の理由は、「もっと接近しましょ」が収録されていること、それに尽きます。ライナーにもモロ書かれてるように、アレとアレなことであまりにも有名な曲。その歌無ヴァージョンだから、黙っちゃいられません。原曲を劇的にいじってない分、躍動しまくりのパーカッション、そしてエディ・M感たっぷりのサックスが堪能できます。使えますよ(爆)。

その曲を筆頭に、全編でサックスがリードをとっていますが、まぶち印とか稲垣印とか、そんなもんとは無縁。当時幅を利かせていたフュージョンのレコードで聴けるような、耳あたりの良い響きで統一されてる。バックの音も、グランドオーケストラを名乗っているものの、そこまでスケールのでかいものではなく、堅実にオリジナルを再現するにとどまってる。「熱視線」なんかは、かなりがんばって打ち込みを再現した感があって、カラオケ職人の気持ちをちょっと早めに体感したのだろうなと。「ヨイショッ!」のコーラスもしかり。楽しく演ってみました、という印象以上のもんじゃない(Jackの「夢追い酒」みたいなのの方が、やっぱ聴いてて楽しいけど)。

「リ・ボ・ン」ではやっぱり、70年代初期の歌無歌謡全盛期のカラーがちょっと顔を出したりしているし、まだまだ有望株だったユッコの「二人だけのセレモニー」には悲壮感のかけらもないし、タカミー曲2連発にはファン歓喜だろう。どうして「そして僕は途方に暮れる」だけオリジナルのキーから大幅に逸脱してるのか不可解だけど、サックスの都合だからでしょうね。

個人的には「天使のウインク」でBメロの頭、ついつい「You love me…」と歌ってしまいます。サンディ・ラム・ファン心理は滅びてませんので(汗)。いやぁ、やっぱ80年代の曲も素晴らしいですね。


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今日は北原ミレイさんの誕生日なので

コロムビア ALS-4594

オール・ヒット・パーティ さよならをもう一度/真夏の出来事

発売: 1971年7月

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ジャケット



A1 さよならをもう一度 (尾崎紀世彦) 🅲

A2 愛の泉 (トワ・エ・モア) 🅱

A3 おふくろさん (森進一) 🅱

A4 ふたりだけの旅 (はしだのりひことクライマックス) 🅱

A5 わたしの城下町 (小柳ルミ子) 🅳→5/29

A6 あの素晴しい愛をもう一度 (加藤和彦北山修)

A7 天使になれない (和田アキ子) 🅱

B1 真夏の出来事 (平山三紀)

B2 熱い涙 (にしきのあきら) 🅱

B3 男のこころ (由紀さおり) 🅱

B4 私という女 (ちあきなおみ)

B5 さだめのように川は流れる (杏真理子)

B6 棄てるものがあるうちはいい (北原ミレイ) 🅱

B7 わかれ道 (西田佐知子)

 

演奏: 稲垣次郎 (テナー・サックス)、オール・ヒット・パーティー

編曲: 河村利夫

定価: 1,500円

 

まずは、8日前にお誕生日を祝福させていただいたばかりのブルー・コメッツ高橋健二さんのご冥福をお祈りします。沈痛になってばかりもいられないので、本題へ。

 

コロムビアの歌無歌謡には大まかに二つの系統があって、元来の歌謡曲制作の流れに属するALS品番と、洋楽レーベルのYS品番から枝分かれしたHS品番。さらに新設されたデノン・レーベルからのリリースもあり、それぞれが独自のカラーを打ち出しながらぶつかり合い、73年の規格統合に至るのだけど、今聴き返してみるとそれほど大差ないというか、お互いの持つ洗練された部分と場末的な部分が相殺し合って、突出したものがないながらもバランスのとれた音が聴けるレコードが多い。ただ、一部YS~HS品番のレコードに、必要以上に価値が付加される傾向が始まっているようで、これから探究したい者にとっては道は厳しそうだ。ALS品番にさえ、あい杏里「恋が喰べたいわ」なんて驚愕の選曲をしている盤があったりして、油断できない。

そんなALS品番に残された『オール・ヒット・パーティ』シリーズは、一見すると保守的傾向にあるかなと思いきや、所々なめてかかれない展開もあって、リーズナブルな価格で出てくる場合が多いのがまだ救いになっている。ものによってはとんでもない価格を呼んでいる稲垣次郎フィーチャーではあるけれど。手堅い演奏だけど、地味にベースが突っ走っていたり、これはなんかあるなと心躍ってしまう。A面では、意外にもわたしの城下町にはっとする。3拍目と5拍目にアクセントを置いた「ミレニウムベース」がこの曲で聴けるとは!5月29日に取り上げた、6年後リリースの所謂『KISSアルバム』にこれが流用されたのも納得。コロムビアに残されたこの曲の歌無版は、これだけじゃないはずなのに。「あの素晴しい愛をもう一度」は、イントロのテクニカルなギターをどの程度消化しているかを重要視して聴いてしまうけれど、ここではキーボード類で少々せこいながら再現しており、その後続くフルートがまさに青春そのものの響きで心躍ってしまう。稲垣さん、リップ音生々しすぎますよ…「愛の泉」も熱い演奏だが、この曲に関しては最強ヴァージョンを意外な人がやってたりするのだ(20日程経ったら取り上げます)。

B面に針を落とすと、いきなり「真夏の出来事」にのけぞる。軽快な演奏だけど、テンポ感はオリジナルより遅く、このペースでフルコーラス演ったら、ただでさえ当時としては長い曲が6分くらいになってしまうでは…と心配するが、なんとか4分以内にまとまっている。エレガントな「男のこころ」を経て、女の闇ゾーンへと突入。悲劇の歌姫・杏真理子の「さだめのように川は流れる」を取り上げているのは、自社推し枠とはいえかなりのディープさ。その後、「棄てるものがあるうちはいい」と、どす黒い阿久悠世界が2曲続く。もしその後、片山三紀子の「私」なんかを演っていたら、確実に歌無歌謡音盤最強の暗闇が形成されていたはず…脇を固める演奏も淡白なようでいて意外とスパイシーな音が目立ち、聴後感は意外にさわやかな1枚です。

今日は石原裕次郎さんを偲んで

ポリドール SMR-3034

スチール・ギター・ムード 花はまぼろし

発売: 1969年2月

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ジャケット



A1 花はまぼろし (黒木憲) 🅱

A2 年上の女 (森進一) 🅳

A3 夕月 (黛ジュン) 🅳

A4 誰もいない処で (小川知子) 🅱

A5 愛の香り (布施明) 🅲

A6 ラブユー東京 (黒沢明ロス・プリモス) 🅱→6/24

A7 忘れるものか (石原裕次郎) 🅱

B1 今は幸せかい (佐川満男) 🅱

B2 朝のくちづけ (伊東ゆかり) 🅲

B3 知りすぎたのね (ロス・インディオス) 🅱

B4 熱祷 (美空ひばり) 🅱

B5 花と蝶 (森進一) 🅵

B6 慟哭のブルース (水原弘)

B7 私って駄目な女ね (和田弘とマヒナ・スターズ)

 

演奏: 山口軍一とルアナ・ハワイアンズ

編曲: 川上義彦

定価: 1,700円

 

ハワイアンムード商戦のポリドール代表、ルアナ・ハワイアンズによる69年初頭のヒット集。軽妙なムードはあれど、ポリドールのミラクサウンド特有の奥行きというか、甘美な音空間の中に溶けていく感じで、クラウンの山下洋治ものほどの場末感はない。主にドメスティックなメロディーの曲を取り上げているのも、かえって特異なバランスを押し出すためだろうか。スチールの音なのに、浜辺感がまるでないのだ。ジャケットにあしらわれたソフトフォーカスなポートレイト群が、まさにその音のカラーを物語っている感じ。

3番前にリリースされた『紅白歌謡ヒット・メロディー』と6曲が重なっているが、「ラブユー東京」がわずかにリピート使用されるにとどまっていて、たとえ同じアレンジャー、ミュージシャンを使おうとも同じ質感を繰り返したくないポリドールの強固な姿勢が伺える。「愛の香り」の「パパヤパヤ」コーラス一つとってみても、全然響きが違うのだ。「ラブユー東京」が息の長いヒットになったので、これだけはわざわざリメイクしようと思わなかったのでしょうか。「夕月」の琴のイントロを必死にギターで弾いているところなど、独自性を出そうとしていて微笑ましい。裕ちゃんの「忘れるものか」は流石にハワイアンスタイルが様になる解釈。

ライナーでは「おかしなグループサウンズ」とばっさり切り捨てられているけど、ほぼ全てを洋楽班が手掛けていたポリドールGSに対して、歌無し歌謡班は同胞意識もなかったんでしょうね。それゆえに「サイケ・カッポレ」や「ラリラリ東京」のような、突然変異的なサイケへの返答を行うことができたのだろうけど、いずれにせよどのレコードでも、ドラムを叩いていたのは原田寛治というのは否定できない事実ですので…ここでも地味な響きながら、底辺をしっかり押さえています。

今日は松本隆さんの誕生日なので

CBSソニー SOLG-19~20 

歌謡ワイド・ワイド・スぺシャル '73~'74ベスト歌謡ヒット

発売: 1973年11月

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ジャケット



A1 空いっぱいの幸せ (天地真理)

A2 白いギター (チェリッシュ) 🅴

A3 アルプスの少女 (麻丘めぐみ) 🅱

A4 冬の旅 (森進一) 🅲

A5 魅力のマーチ (郷ひろみ) 🅲

A6 わたしの宵待草 (浅田美代子)

A7 夜空 (五木ひろし) 🅱

A8 君が美しすぎて (野口五郎)

A9 夏色のおもいで (チューリップ) 🅲

A10 記念樹 (森昌子)

B1 わたしの彼は左きき (麻丘めぐみ) 🅳

B2 てんとう虫のサンバ (チェリッシュ) 🅴

B3 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二) 🅴

B4 忍ぶ雨 (藤正樹) 🅱

B5 色づく街 (南沙織) 🅴

B6 夜間飛行 (ちあきなおみ) 🅱

B7 草原の輝き (アグネス・チャン) 🅴

B8 十五夜の君 (小柳ルミ子) 🅴

B9 ひとりっ子甘えっ子 (浅田美代子) 🅲

B10 恋する夏の日 (天地真理) 🅲

C1 危険なふたり (沢田研二) 🅴

C2 君の誕生日 (ガロ) 🅳

C3 他人の関係 (金井克子) 🅱

C4 なみだ恋 (八代亜紀) 🅴

C5 伽草子 (吉田拓郎) 🅱

C6 女のゆめ (宮史郎とぴんからトリオ) 🅱

C7 傷つく世代 (南沙織) 🅴

C8 恋の十字路 (欧陽菲菲) 🅱

C9 くちべに怨歌 (森進一) 🅱

C10 裸のビーナス (郷ひろみ) 🅳

D1 若葉のささやき (天地真理) 🅲

D2 赤い風船 (浅田美代子) 🅳

D3 春のおとずれ (小柳ルミ子) 🅱

D4 愛への出発 (郷ひろみ) 🅱

D5 円山・花町・母の町 (三善英史) 🅱

D6 中学三年生 (森昌子) 

D7 同棲時代 (大信田礼子)

D8 狙いうち (山本リンダ) 🅱

D9 霧の出船 (五木ひろし) 🅲

D10 怨み節 (梶芽衣子) 🅱

 

演奏: クリスタル・サウンズ

編曲: 矢野立美、伊藤祐春、土持城夫

定価: 2,500円

 

突然、私的な話で恐縮ですが、6年前から宗内(の母体)が住む町の最寄駅の近くにあるうどん屋さんの看板には、大々的に「ゆでめん」の文字が掲げられている。その4文字を見るだけで、様々な感慨に襲われる人が連日駅付近を行き来していると想像されるのだが、去る5月のある日、駅に向かって歩いていたら、前を歩く明らかに老夫婦な二人の旦那様の方から、このような言葉が聞こえてきた。

「あそこに『ゆでめん』ってあるだろ。昔、松本隆とか大滝詠一がやってた、はっぴいえんどってバンドが出したファーストアルバムが、『ゆでめん』って言ってな…」

勿論そのアルバムのタイトルは実際ははっぴいえんどだし、最初に松本さんの名前が出てきたのも示唆的ではあったけど、何よりその言葉を発したのが、たとえリアルタイムで彼らの音を聴いたことがある人達であろうが、明らかに「老夫婦」以上の描写が思いつかない人間であることに軽い衝撃を受け、思わずそのことをTwitterに呟いた。

そのツイートが、事もあろうに松本隆氏本人にリツイートされ、どえらいことになってしまった。まさしく、今最も旬な作詞家の先生である。2日目にトリビュートアルバムも出たばかりだ。

 

本来、「歌のない歌謡曲」に敬意を表するブログであるから、なるべく作詞家の先生に関する敬意は最小限に留めるつもりであったのだが(それ故、伊藤アキラ氏の訃報が伝えられた時は、それに対する反応を抑えていたのだ)、歌手や作曲家の誕生日だったり、チャート1位が記録された日付に該当しなかった場合は、作詞家の誕生日や命日にもリスペクトを払うことにした。そして、当然の如く、先の事態が訪れたことで、松本隆氏に対するリスペクトも怠らないようにと、この日付のテーマもその5月の段階で確定となった。

問題は、歌無歌謡黄金時代と松本さんの業績を直結するファクターが、極めて限定されることである。当然の如く、歌謡曲の作家としての場合、その初期の作品に着目するしか術がない。「ポケットいっぱいの秘密」でも、「木綿のハンカチーフ」でもよかったのだけど、最も競合した楽曲となると、職業作詞家としての初作品とされる「夏色のおもいで」ということになる。

そんなわけで、同曲を含むこのアルバムを引っ張り出してきたのだが、音楽的なメリット以上に、このアルバムには重要なおもいで(夏色ではない、念のため)があるので、それを語ることに終始したい。その方が有効なオマージュになると思うので。

 

2016年11月28日、宗内(の母体)は静岡にいた。翌年の2月、名古屋で行うDJイベントの下準備のため、前日に現地を訪れ、一泊して帰埼する途上、4月に手に入れて愛聴していた、静岡にある某短期大学のフォークソング部が自主制作したアルバムにテイストが近いレコードが手に入るかもという期待を込めて、その短大に極めて近いリサイクルショップに向かった。

結局、それに類するアルバムは見つからなかったが、せっかく遥々来たからということで、ちょっと気になっていた「歌のない歌謡曲」のレコードを、ジャンク棚から3枚抜いて買うことにした。既に『さわやかなヒット・メロディー』や『魅惑のギター二重奏 雲にのりたい』他数枚、それに4曲入りのEPをいくつか持っていた程度だったが、この3作を入手したことで劇的に視界が変わった。もっと深入りしなきゃ、と思った。

具体的に激震をもたらしたものへと更に焦点を絞ると、そのうちの1作、この『歌謡ワイド・ワイド・スペシャル』に収められている「わたしの宵待草」だった。このラブリーな響き!理想すぎる。こういう音楽をもっと欲しい、願わくば送り出したい、と思った。

乙女の口元に花というジャケットの構図が、リコーダーをはじめとする吹奏楽器の響きが瑞々しいサウンドの可視化という感があるし、載せるのは憚られるけど、内ジャケに飾られた布川富美子女史による各オリジナル歌手の似顔絵イラストも微笑ましい(チューリップはいないが)。音全体が、それと同質のラブリーさに満ち満ちている。もっともっと具体的に書きたいけれど、この2枚組自体、それまでに出ていたクリスタル・サウンズ名義のアルバムから寄せ集めたもので、その原典のほとんどを後に手に入れたため、聴きどころとかその他の蘊蓄はそれらを語る際、改めてということにさせていただきます。ただひとこと、音の風にさらわれそうな、愛すべき作品。