黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1979年、今日の1位は「セクシャル・バイオレットNo.1」(2週目)

ポリドール MR-1546

TOKIO/親父の一番長い日 歌謡ヒット最前線

発売: 1980年1月

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ジャケット(一部クロップ済)



A1 TOKIO (沢田研二)Ⓐ

A2 親父の一番長い日 (さだまさし)Ⓐ

A3 C調言葉に御用心 (サザンオールスターズ)Ⓐ

A4 SOPPO (ツイスト)Ⓐ

A5 愛の水中花 (松坂慶子)Ⓐ 🅱

A6 ホーリー&ブライト (ゴダイゴ)Ⓐ

A7 しなやかに歌って (山口百恵)Ⓐ 🅱

A8 セクシャル・バイオレットNo.1 (桑名正博)Ⓐ

B1 関白宣言 (さだまさし)Ⓐ

B2 勇気があれば (西城秀樹)Ⓐ

B3 女だから (八代亜紀)Ⓐ 🅱

B4 よせばいいのに (敏いとうとハッピー&ブルー)Ⓐ 🅱

B5 魅せられて (ジュディ・オング)Ⓑ 🅳

B6 カサブランカ・ダンディ (沢田研二)Ⓒ 🅲

B7 夢追い酒 (渥美二郎)Ⓓ 🅵

B8 おもいで酒 (小林幸子)Ⓔ 🅳

演奏: ポリドール・オーケストラ

編曲: 京建輔Ⓐ、川上了Ⓑ、伊部晴美Ⓒ、竹村次郎Ⓓ、しかたたかしⒺ

定価: 1,500円

 

今日の主題に少し先駆けた1979年9月25日、YMOのセカンド・アルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』がリリースされた。既にファーストの音を随所で聴いていたり、海外でのライヴの評判が伝わっていたことで興味津々だった宗内(の母体)は、普段は洋楽の新譜アルバムを丸ごと紹介するという、今思えば大胆な番組、FM大阪の「ビートオンプラザ」で発売間近の同作が流れるというので、胸を躍らせて飛びつき、しばらくはそのエアチェックテープを聴きまくり夢中になった。

年が明ける頃には、フジカセットのCMが追い風となってYMOの人気が急上昇。「現象」と化すそのちょっと前から、従来「歌のない歌謡曲」もしくは海外のムード演奏ものがメインだった「喫茶店のBGM」界のトレンドに、YMOの音楽が食い込み始めていた。テーブル筐体に埋め込まれ、喫茶店仕様にカスタマイズされたTVゲームの無機的な音に彩りを加えるに相応しいサウンドだったのだろう。12月にリリースされた高中正義の『JOLLY JIVE』の小洒落たフュージョンサウンドも併せ、黄色く青く彩られたレコードは全国の喫茶店ターンテーブルを飾りまくった。従来はあり得なかった「日本語の歌唱が聴かれる音楽」までが、サザンやCharといったアーティストのアルバムを経由して、喫茶店音楽の主流に躍り出たのもこの時期。シティポップの隆盛を考える時、この現象は無視できないものだと思っているが、いずれにせよ「歌のない歌謡曲」はこの頃には「イケてる存在」から除名されていたのだ。

 

延々と前置きしたけど、そんな時期でさえちゃんと作られていたのだよ、歌無歌謡盤は。どっこい、ポリドールも生きていたのである。80年代の序幕を飾るに相応しい、ジュリーの新曲TOKIOをオープニングに配して。既にアルバムのタイトル曲として世に出ていたので、シングルを出す同月発売というタイミングで乗れたのだろう、したたかな戦略だ。と言っても、ニューウェイブ風味は控えめであっさりとした解釈。アコギなんかも使っていてさわやかだ。続いては、12分という超大作で12インチシングル初のオリコン1位に輝いた「親父の一番長い日」。当然かなり簡素化し、約5分強に抑えている(それでもかなり長い)。フルコーラス演奏したら当然地獄だろう…と言えども、ポリドールが次に出した歌無アルバムでは、この曲は「大阪で生まれた女」の後に配されており、この2曲をガチで全部演奏したら合計46分にも及ぶのである(爆)。恐ろしい。先ほど名前を出したサザンのC調言葉に御用心もあっさり、歌を抜くと余計お洒落感が浮き立つ解釈だ。元からベースラインがいかす曲なので、忠実に演られるとそれだけで安心する。

そこから先、「SOPPO」のタフなロックから、ムーディな「愛の水中花」を経て、後半のアダルト・演歌路線に抜けていく。いずれも無難な演奏故、歌無歌謡時代の挽歌的な切ない響きが伝わってくるのだけど、名曲が揃っているし、大胆な解釈を欲しがる時代はもう終わったと言えども、やはり曲の力だけで安心できる。ポリドールのベテラン伊部晴美先生もカサブランカ・ダンディ」で意地を発揮(ギターは弾いていないようだが)。対して「夢追い酒」は守りに入りすぎていて面白くない。「DuBiDuBi東京」の遠藤・竹村タッグ故、期待しすぎるのもしょうがないけど(汗)。こうして、時代は80年代へと突進する。

今日は椿まみさんの誕生日なので

ローヤル RS-1111 

STEEL GUITAR OF FASCINATION 月の世界でランデブー

発売: 1970年

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ジャケット



A1 月の世界でランデブー (椿まみ)

A2 女のブルース (藤圭子) 🅵

A3 ふりむいてみても (森山加代子) 🅳

A4 薔薇はよみがえる (松浦健)

A5 今日でお別れ (菅原洋一) 🅳

A6 涙はきらい (椿まみ)

B1 京の女 (椿まみ)

B2 別れの誓い (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)

B3 思いがけない別れ (小川知子) 🅱

B4 愛するゆえに懺悔して (ピーター) 🅱

B5 ドリフのほんとにほんとにご苦労さん (ザ・ドリフターズ) 🅲

B6 黙っているほうが (椿まみ)

 

演奏: 外山肇とモダン・サウンズ

編曲: 柳ヶ瀬太郎

定価: 1,800円

 

65年発足したローヤル・レコードの悲劇を一人で背負った歌手、椿まみ。最初の4年間、歌謡界の華やかな主軸を意識しつつ、個性的なシングルをひたすらリリースし続け、通好みのレーベルとして異色の存在感を保ち続けたローヤルに、69年夏、遂にヒット曲と呼べるものが出た。テイチクでの泣かず飛ばずをへて移籍した椿まみが、そこでの第5弾シングルとして起死回生でリリースした「月の世界でランデブー」がそれだ。アポロ11号月着陸に乗じて出たレコードはかなりの数に上ったが、そんな宇宙規模の話題を軽妙な小唄タッチであしらったこの曲は、一週のみながらオリコンチャートに顔を出し、翌年に至るまで静かに話題を呼び続けた。

ローヤル側も多少いい気になって、この曲をフィーチャーしたインスト・アルバムを世に送る運びとなった。なんと、ジャケットに椿まみ本人の姿をあしらうという、ここだからこそ許される大胆な芸当。しかも、ここぞとばかりに椿のレパートリーを4曲もフィーチャーするという推しぶり。ちなみに「黙っているほうが」は69年秋に出た次のシングルで、「京の女」「涙はきらい」は70年6月、別々に発売されている。この辺のリリース・ペースの尋常でなさも、このレーベルの不安定な事情及び、椿に抱っこしたい脆い心境を物語っているようだ。

 

さて、このアルバム、椿のレパートリー以外にも8曲、70年のシングル曲が取り上げられており、しかもあまり派手な方向を向いていない選択がローヤルの意地というか、メジャーにない色を感じさせる。ここにはクレジットはないけれど、ローヤル・マニアにはすっかりおなじみの「DPS方式」を採用した奥行きのあるステレオ録音は、まさに個性の塊。ローヤルの通常の歌謡シングルでも大活躍した柳ヶ瀬太郎氏のアレンジも冴えまくっている。特に「思いがけない別れ」が凄い。Aメロの繰り返し部分のコードを変えるのを忘れているのをデメリットと感じさせない、この音のあしらい方にゾクゾクする。他の歌無レコードに存在が気付かれることもない、筒美京平の隠れ名曲「薔薇はよみがえる」に着目したのもポイント高し。この1枚と、テイチクの山内喜美子版「太陽がくれた季節」を聴くだけで、柳ヶ瀬氏の凄さを認めないわけにいかなくなりますよ。

 

肝心の椿まみ曲、「月の世界~」のスペース小唄タッチ(アポロの交信音的なものもしっかりアレンジに取り入れている)、「涙はきらい」は同系統ながら多少ダークな方向に向い、「京の女」はおしとやかな仁侠系。そして「黙っているほうが」はグルーヴィーに揺れる小悪魔性全開ナンバーと、4曲それぞれが別のカラーを持ち、決して特定の個性に留まらない、というより売る方の迷いが露呈したなと感じさせる。そんなローヤルの気まぐれに振り回された彼女は、72年1月12日、自らこの世との絆を断ち切る選択をする。再出発を計ったローヤルにとっても、思いがけない幕切れだった。悲劇の一瞬を切り取ったこの歌無歌謡アルバムは、貴重なドキュメントでもある。

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レーベルも気合充分。



*本稿執筆において、「DISCナウ!!vsレコードやくざ」(ジャングルライフ、1998年)及び、mixiのローヤル・レコード・コミュに投稿されたシングル盤ディスコグラフィーを参考にさせていただきました。編者の方々に感謝の意を評します。

 

今日は森昌子さんの誕生日なので

CBSソニー SOLH-37 

歌謡ワイド・スぺシャル

発売: 1973年9月

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ジャケット

 

A1 色づく街 (南沙織) 🅴→7/16

A2 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二) 🅴→7/16

A3 てんとう虫のサンバ (チェリッシュ) 🅴→7/16

A4 夜間飛行 (ちあきなおみ) 🅱→7/16

A5 恋する夏の日 (天地真理) 🅲→7/16

A6 白樺日記 (森昌子) 🅴

A7 草原の輝き (アグネス・チャン) 🅴→7/16

A8 裸のビーナス (郷ひろみ) 🅳→7/16

A9 出船 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅳

A10 ひとりっ子甘えっ子 (浅田美代子) 🅲→7/16

B1 十五夜の君 (小柳ルミ子) 🅴→7/16

B2 ふるさと (五木ひろし) 🅵

B3 燃えつきそう (山本リンダ) 🅴

B4 白い花 (本田路津子)

B5 遠い灯り (三善英史) 🅳

B6 初恋の散歩道 (栗田ひろみ) 🅱

B7 愛のくらし -同棲時代- (大信田礼子) 🅰→7/16

B8 わたしの彼は左きき (麻丘めぐみ) 🅳→7/16

B9 娘ごころ (水沢アキ) 🅱

B10 くちべに怨歌 (森進一) 🅱→7/16

 

演奏: クリスタル・サウンズ

編曲: 土持城夫

定価: 1,500円

 

クリスタル・サウンズ名義で出た歌無歌謡コレクションとしては、2枚目にあたるもの。その後展開される独特の軽さの「礎」が築かれた1枚だ。といっても、7月16日取り上げた『歌謡ワイドワイドスペシャル」に、実に12曲が流用されており…と言えども、あの日は松本隆さんに関する個人的な話と、歌無歌謡にハマるきっかけを語るのに終始しており、肝心の内容について全然説明してない…重要曲に関しては、むしろ次に出たSOLH-38(初期盤は全て『歌謡ワイドスペシャル』のタイトルで統一されていたため、わざわざレコード番号を持ち出すしか術がないのだが、同じ番号で他規格を使用している盤もあり、非常にややこしいのである)の方に集中しているので、そちらのエントリーの方が濃くなりそうだけど、これも相当聴きどころに恵まれている。

のっけから自社強力リコメンド曲「色づく街」なのだが、この軽妙さはオリジナルと全然違う方向性を向いている。軽く奏でられるオルガンに色を添えるギター、重厚に支えるドラム、メロディーを奏でるフルートやハーモニカも、じっくり聴かせるというより流れを軽くしてみましたというニュアンス。Bメロでこれらの音が絡み合う様子が実に微笑ましく、魅力的なヴァージョンになっている。ちょっと危なっかしくなるところも萌えるし。プレイヤー自体が録音現場に不慣れなのか、急造故にラフなまま残したのか。前者ならいいのだけどな。「夜間飛行」も、サウンド全体の軽量化を測ったおかげで、名曲さ加減が気軽に脳に伝わる結果になっている。「草原の輝き」で、待ってましたと出てくるリコーダー。まるで放課後の女学生二人の戯れのような絡み合いだ。「裸のビーナス」は、クラウンのいとう敏郎盤ほどではないがテンポをかなり落としており、自社曲ゆえ慎重な扱いぶりだ。もっと大胆に暴れて欲しかった感もあるが、他の盤を聴けばいいことだし。肝心の「ひとりっ子甘えっ子」はラブリーなフルートを前面に出し、これも慎重なアプローチ。音の切り方に乙女っぽさがあってよろしい。メロトロンを幻聴する必要なし(汗)。「同棲時代」はこの流れの中では異色で、相当ガチなエレガンスの打ち出しぶりだ。

『ワイドワイド』に流用されていない8曲のうち、最大の衝撃をもたらしたのは「ふるさと」ミノルフォン盤がいかに傑作かを語るチャンスがまだ来てないのに、このヴァージョンもかなりの挑発度。いきなりディストーション効きまくりのギターがリードをとっているのだが、その響きに三味線を投影したのか?妙にボトムが効いたリズムセクションも、さりげない自己主張ぶり。なにゆえにこの曲はこうもユニークな解釈を誘発しまくったのだろうか?「燃えつきそう」は表面的には派手さがないように聞こえるのに、さりげなく暴れるピアノや終始呻きっぱなしのクイーカなど、よく聴くと個性の塊のようなサウンド。全体的に、脇役に徹しながらも地道に引っ張っていくドラムのがんばりを讃えたくなる1枚。クリスタルの魅力炸裂だ。ジャケットは5年後ソニーが放つ大ヒット曲を予見したよう…

歌謡フリー火曜日その27: 日本のメロディー

ママ LC-1

魅惑のリコーダー

発売: 1977年2月

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ジャケット



A1 砂山 🅲

A2 赤とんぼ 🅴

A3 ゴンドラの唄

A4 叱られて 🅴

A5 ちんちん千鳥 🅱

A6 花 (滝廉太郎) 🅳

B1 七つの子 🅴

B2 ペチカ

B3 宵待草 🅱

B4 雨降りお月さん 🅲

B5 待ちぼうけ 🅳

B6 カチューシャの唄

 

演奏: ブレッサン・リコーダー・カルテット&オーケストラ

編曲: 小野崎孝輔

定価: 1,500円

 

ビクターのアイドル歌謡、子供を主人公にした映画音楽に続き、3回目の登場となるリコーダーが主役となるポップ・インスト・アルバム。いや、この3枚で全てかもしれない(少なくともレコード時代は。CD時代はそれこそ栗コーダーとか、いろいろ出てますからね)。この盤と同じように、童謡・愛唱歌を取り上げた盤は他にもあるけれど、あくまでも教材的性格を強調した内容のものが殆どで、なんか触手が伸びない(自主制作の学校生徒関係のブツなら話は別…いや、メジャーにさえ最低1枚ありますが…汗)。この盤も最初は、そんな1枚かなと思っていた。あのいわさきちひろ先生のイラストを起用したジャケットからは、帯の不在も手伝って情報が全く得られず、ただ単にリコーダーの演奏盤ということで手を出してみたら、意外にも大当たりだったのである。端的に言えば、『さわやかなヒット・メロディー』以上の傑作かもしれない。

女流リコーダー奏者としては、日本における先駆者的存在である荒川恒子さん(小学4年の時だったか、彼女がNHK-FMのリサイタル番組で演奏するのを聴いて、キュンキュンした記憶があります…汗)が、ガチながら親しみやすい解説文を寄せており、一方曲単位では歌詞と簡単な解説は添えられているものの、譜面の掲載はなし。教材的性格は希薄でありつつも、さりげなく実践を促している要素がある。制作者クレジットはちゃんとしているが、肝心のミュージシャンクレジットが皆無。どうやら、笛関係のスタジオミュージシャンとして草分け的存在である旭孝氏のサイト(ここは歌無歌謡好きにとっても有意義な情報満載で必読!山内喜美子さんのお写真もこっそり!)で示唆されているような、本職がフルートや他の管楽器を手掛ける奏者が集結したのが「ブレッサン・リコーダー・カルテット」であるような気がする。だからこそ匿名性が高いのかな。荒川さんのようなガチな奏者が演奏に参加していたら、もっと響きが変わってくるだろうし。「ジャパン・レディス・オーケストラ」を送り出した徳間傘下のママレコードからのリリースなので、そこからの人材起用じゃ…まさかそれはないだろう。

そんな憶測をさせてしまう音が、1曲目「砂山」から全開である。シャープなドラム音に導かれ飛び出すのは、クラウンの歌無歌謡版「恋人試験」で聴けたような、あの「ケーナみたいで実はそうじゃない」音そのものだ。そこにリコーダー本来のスウィートな音が絡んできて、ポップなオーケストレーションを誘導する。コロムビア盤のこの曲のハードロック・サウンドとも趣きが違う、ドラマティックなサウンドになかなかの冴えをみせる笛の響き。これみよがしに凄いでしょって言う代わりに、「あなたにもできるよ」と優しく語りかけてくれるのだ。「日本のメロディー」シリーズでは毎回登場となる「赤とんぼ」も麗しく、サイドメロディーで絡んでくるアルトリコーダーの音がまさに胸キュンもの。リードをとる音は、ストーンズの「ルビー・チューズデイ」で聴けるブライアンの、あの音にそっくりだ。

渚のバルコニー」のようなイントロで始まる「ゴンドラの唄」は、まさに「恋せよ乙女」の完璧な音像化。「叱られて」も意外性たっぷりのメロウなイントロで、主人公の心境を投影している。どの曲も鮮やかなアレンジで完成度が高く、気合入った録音も理想的。ここまでのものを、歌無歌謡盤にも求めたいものだ。そしてやっぱり、笛を持って街に出たくなりませんか…そんなことを訴えかけるレコードに文句は言えません。こういう盤を作ることこそ、我が本望。願わくば、顔の見えるフレッシュな奏者さんたちを集めて。

今日は麻丘めぐみさんの誕生日なので

コロムビア KW-7021 

ゴールデン歌謡スキャット ときめき/恋の風車 

発売: 1974年2月

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ジャケット+盤



A1 ときめき (麻丘めぐみ) 🅱

A2 恋の風車 (チェリッシュ) 🅳

A3 恋のダイヤル6700 (フィンガー5) 🅲

A4 モナリザの秘密 (郷ひろみ)

A5 突然の愛 (あべ静江) 🅱

A6 愛の十字架 (西城秀樹) 🅲

A7 魅せられた夜 (沢田研二) 🅳

B1 恋は真珠いろ (浅田美代子) 

B2 ひとかけらの純情 (南沙織) 🅲

B3 禁じられた遊び (山口百恵)

B4 恋の雪別れ (小柳ルミ子) 🅳

B5 襟裳岬 (森進一) 🅹

B6 花物語 (桜田淳子) 🅲

B7 一枚の楽譜 (ガロ) 🅳

 

演奏: ジョー&ホットベビーズ (スキャット)/ゴールデン・ポップス

編曲: 河村利夫、山屋清

定価: 1,500円

 

歌無歌謡最大級の異端盤の一つ。スキャット・コーラスを前面に出した盤は珍しくないけど、この盤が狙ってみせたのはお洒落な「パヤパヤもの」とは全く別の境地だ。思えば、サミー・デイヴィス・Jr.を起用した洋酒のCMが大ヒットしていた時期。その流れに乗っかってやろうという商魂が結実した孤高のアルバム。

1曲目から「ときめき」というアイドルポップの極致的楽曲なのだが、オープニングの煽りに引っ張られていきなり炸裂するダバダバスキャット麻丘めぐみ高橋由美子の世界を期待する者をいきなり地獄に引き摺り下ろす。顔の見えない歌声ではあるものの、その技使いはガチすぎる。女性コーラスのサポートが余計下世話な方向に導き、異次元感を高めている。そんな解釈だからこそ、オリジナルでは奥深く埋もれていたモータウン要素が浮かび上がって来て、これもまた筒美マジックだなと(「大事にしてね〜」のとこのコード進行は「またいつの日にか」と同じ、とか)。

ちなみに演奏トラックそのものは、4月22日紹介した『’74ヒット曲要覧』と同じものを流用しており、ギターの代わりにスキャットを入れているのみ。こちらの方が発売が早いので、あちらが使い回ししたのか。確かに「チャチャチャ」の声が入っていないので、間延び感がある。ちなみに、モナリザの秘密」「恋は真珠いろ」「禁じられた遊びの3曲を除く全曲、そちらへの「トラック流用」が認められる。つまり、これら11曲の「純インスト・ヴァージョン」を収録したのが『’74ヒット曲要覧』ということだ。ややこしい…

先にインストヴァージョンの方を聴いていたものの、あまりにもこちらが独自の魅力を放ち過ぎているため、てんで流用の件を疎かにしていたのだが(というか、あちらの盤のメロトロンを使用した4曲があまりにも強烈過ぎて、他の曲の印象が希薄、ってのは確かにあった)、こちらも単にインストものにコーラスを被せてみました、以上のそそり要素がある。ラヴリーな女性コーラスを背についつい浮き足立っている「恋の風車」、キュートなオリジナルをデカダンスで厚塗りしてみせる恋のダイヤル6700。「好きなんだよ~!」の線上にあるオリジナルの強烈さを千鳥足で一蹴してしまう「愛の十字架」、逆に成熟味を加えてまさかの洗練された方向へと運んでしまう「恋は真珠いろ」。想定外のエレガンスを声だけで引き出してしまう「恋の雪別れ」など、意表をつく展開の連続。襟裳岬もこのスキャット1発だけで、ここまで破壊。ユピテル盤のメロトロンを幻聴する余裕さえ与えてくれない。これがヤマかと思いきや、続く花物語。「この花は私です…」と来る代わりに襲いかかる下世話な唸りに思わず眩暈。「一枚の楽譜」も女性陣が張り切りまくり、最高の幕引きだ。ますます、『’74ヒット曲要覧』版の無価値さをエスカレートさせる(爆)。

やはり、スキャットはこうこなくちゃ、と思わせる、スキャットマン登場に20年先駆けた奇跡の名(迷?)盤。一体誰なんだ、このジョンならぬ「ジョー」は。わかんねぇだろうナ…

今日は渚まゆみさんの誕生日なので

クラウン GW-8149~50 

ビッグ・ヒット歌謡ベスト36 ひとりっ子甘えっ子/恋する夏の日

発売: 1973年8月

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ジャケット



A1 裸のビーナス (郷ひろみ)Ⓑ 🅸

A2 ひとりっ子甘えっ子 (浅田美代子)Ⓐ 🅶

A3 伽草子 (吉田拓郎)Ⓒ 🅰→6/18

A4 恋する夏の日 (天地真理)Ⓑ 🅶

A5 傷つく世代 (南沙織)Ⓒ 🅳→6/18

A6 忍ぶ雨 (藤正樹)Ⓐ 🅲

A7 恋の十字路 (欧陽菲菲)Ⓓ 🅲→9/15

A8 草原の輝き (アグネス・チャン)Ⓑ 🅹

A9 奪われたいの (渚まゆみ)🅰→5/2

B1 くちべに怨歌 (森進一)Ⓐ 🅳

B2 渚にて (いしだあゆみ)Ⓑ

B3 おんなの涙 (八代亜紀)Ⓐ 🅳

B4 燃えつきそう (山本リンダ)Ⓒ 🅱→6/18

B5 東京下町あたり (森光子)Ⓑ

B6 なみだ恋 (八代亜紀)Ⓐ 🅵→9/15

B7 夕顔の雨 (森昌子)Ⓓ 🅴→9/15

B8 出船 (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓑ 🅲

B9 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二)Ⓐ 🅷

C1 わたしの彼は左きき (麻丘めぐみ)Ⓐ 🅲→5/2

C2 危険なふたり (沢田研二)Ⓒ 🅳→6/18

C3 赤い風船 (浅田美代子)Ⓑ 🅶

C4 恋にゆれて (小柳ルミ子)Ⓔ 🅴→9/15

C5 娘ごころ (水沢アキ)Ⓐ

C6 妖精の詩 (アグネス・チャン)Ⓑ 🅳→9/15

C7 森を駆ける恋人たち (麻丘めぐみ)Ⓒ 🅴→6/18

C8 女のゆめ (宮史郎とぴんからトリオ)Ⓑ 🅳

C9 遠い灯り (三善英史)Ⓐ 🅲

D1 君が美しすぎて (野口五郎)Ⓑ 🅳

D2 愛のくらし -同棲時代- (大信田礼子)Ⓐ 🅲→9/15

D3 ひき潮 (奥村チヨ)Ⓒ 🅰→6/18

D4 夜間飛行 (ちあきなおみ)Ⓑ 🅳

D5 我愛你 (方怡珍)

D6 赤とんぼの唄 (あのねのね)Ⓔ 🅱→9/15

D7 避暑地の恋 (チェリッシュ)Ⓒ 🅲→6/18

D8 夢の中へ (井上陽水)Ⓑ 🅳

D9 君の誕生日 (ガロ)Ⓐ 🅴→9/15

 

演奏: まぶち・ゆうじろう’68オールスターズⒶ

いとう敏郎と’68オールスターズⒷ

ありたしんたろうとニュービートⒸ

山下洋治とハワイアン・オールスターズⒹⒺ

編曲: 福山峯夫ⒶⒷ、青木望山下洋治Ⓓ、小杉仁三Ⓔ

定価: 2,400円

 

我が歌無歌謡哲学の基本「ひとりっ子甘えっ子」をフィーチャーしたクラウン版・73年夏ヒットの大饗宴。ここまで頻繁にクラウンものを引っ張り出すと、さすがに従来語ったヴァージョンの再登場も頻出するけど、例によってここでしか聴けないらしき曲もあるし、まぁいいじゃないですか、まったりいきましょう。

まず最初に「裸のビーナス」なのだが、まさかここまで過激に料理してしまっていいのだろうか?オリジナルと比べてのテンポダウン率は、全歌無歌謡内でも抜群の高さ(稲垣次郎版「真夏の出来事」さえも凌ぐ)。2コーラス目のAメロを端折っているのに、オリジナルより30秒以上長い…それだけでも妙なのに、後方に堂々と構えるオペラティックな女性ソロ歌唱は一体何なんだ…オリジナルの神秘的部分だけを拡大解釈したような、この曲の全ヴァージョンを並べると確実に突起しそうな代物。単にまったり演っただけじゃ、こんなものにはなり得ない。続く「ひとりっ子甘えっ子」に、より黄昏感を強く投影する効果ももたらされていて、いい感じで筒美祭りになっている(汗)。こちらは10月1日紹介した秋本薫盤に比べても、充分「大人対応」なヴァージョン。ニュービート名義の曲は、全て6月18日紹介の『赤い風船』からの転用だが、いいアクセントになっている。タイトル曲はより無難ないとうヴァージョンを選んでいるが…筒美曲といえば、もっと渋い「娘ごころ」の選曲も目を引く。歌手そのものは全然渋くない人ですけど(爆)。我愛你(太字にしたのは、こちらもハマクラ作品だからということで…)なんてもっと渋いけど、いずれもこれが唯一の歌無ヴァージョンというわけではない。選択肢が幅広くいい時代でした…

ところで、森光子さんの「東京下町あたり」、耳馴染みのない曲だな…と思いきや、歌無ヴァージョン化すると一目瞭然「時間ですよ」のテーマ曲でした。まさか、歌ありヴァージョンがあったとは、という逆説的カラクリ。第3シーズンから実際流れていたらしく、最早記憶に残ってない…

今日は春日八郎さんの誕生日なので

Rich RE-203

なつメロ大行進 

発売: 197?年

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ジャケット



A1 明治一代女 (新橋喜代三) 

A2 別れの一本杉 (春日八郎) 🅰→4/28

A3 旅笠道中 (東海林太郎)

A4 裏町人生 (上原敏・結城道子)

A5 並木の雨 (ミス・コロムビア)

A6 君こそわが命 (水原弘) 🅱→4/28

A7 流転 (上原敏)

A8 名月赤城山 (東海林太郎)

B1 くちなしの花 (渡哲也) 🅲→4/28

B2 命かれても (森進一) 🅰→4/28

B3 年上の女 (森進一) 🅱→4/28

B4 雨に咲く花 (井上ひろし)

B5 波浮の港 (佐藤千夜子)

B6 江の島エレジー (菅原都々子)

B7 連絡船の唄 (菅原都々子)

B8 島の船唄 (田端義夫)

 

演奏: インペリアル・サウンド・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 1,400円

 

ジョン・レノンの誕生日…ですけど、目ぼしい歌謡関係の出来事がちゃんと確認されたので、それに沿った内容でいきますね。で、引っ張り出してきたアルバムが、『なつメロ大行進』。だって、限られるじゃないですか。春日八郎御大のヒット曲をカヴァーした歌無盤なんて。リアルタイムものを掘ってくるわけにいかないし。そんなわけで、タイトル通りの1枚でありますが、発売元のRichなる処は例によって、エルム傘下の訳わからないレーベル。発売年度も読めないのだが、この盤の10番後にはいわゆる「パチ洋楽」のアルバム『ソウル&ポップス・ヒットパレード』をリリースしており、何と「ホテル・カリフォルニア」(抱腹絶倒もの)や、堂々たる日本語歌唱で歌い上げているクイーンの「手をとりあって」がカヴァーされているので、77年前半のリリースであるのは確実(ジャケットだけでも載せたいけれど、これは自粛必須もの…汗)。よって、この盤がそれより前のリリースなのも確実とはいえ、74年作品「くちなしの花」まで取り上げられているのが不条理…まぁ、これもエルム道だな、ということで。

別れの一本杉」は、4月28日に取り上げたCamel盤『昭和演歌』と同テイクで、他にも4曲、その盤にも使いまわされた曲が確認されたが、これはエルムあるあるなので敢えて不思議がる必要もない(爆)。他の曲も全て、70年代になってから録音された音源なのは確実で、統一されたまったりとした流れの上に展開されている。ノスタルジックなオーケストレーションの奥底に構える口琴(歌無歌謡ではそれこそ、冗談音楽的ニュアンスが求められるケース以外での使用例はほぼ皆無)に思わず耳が止まる「明治一代女」でつかみはOK。突然、場末のクラブハコバンのような演奏に転じる「裏町人生」には、やっぱり70年代ノリの方が親しめるなという思いが湧き立つ。テンションコードの入れ方とか、ピアノの奔放な演奏スタイルなど、実に洋楽的だし。かと思えば、「並木の雨」は完璧にムード歌謡と化している。「島の船唄」はベースだけゴリゴリいっていてこれも妙なバランス感。こんな演奏が、「わたしの彼は左きき」や「心もよう」の合間を縫って流れてくるのが、理想の昭和歌謡酒場なんです。ジャケットも素晴らしい。いかにもパチ臭いけど、こういうのの方に安堵感を感じます、クラウンやポリドールのジャケより(汗)。