黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

島倉千代子さんの誕生日は3月30日

ユニオン UPS-5209-J

涙の季節 ー琴の幻想 第三集ー

発売: 1969年3月

ジャケット

A1 涙の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅹

A2 捧げる愛は (島倉千代子)

A3 知りすぎたのね (ロス・インディオス) 🅶

A4 花はまぼろし (黒木憲) 🅳

A5 忘れないでね (浜マサヒロとリビエラシックス)

A6 華麗なる誘惑 (布施明) 🅴

B1 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅻

B2 夕月 (黛ジュン) 🅷

B3 恋の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅳

B4 ブルーナイト ・イン・札幌 (和田弘とマヒナ・スターズ、他)

B5 愛のさざなみ (島倉千代子) 🅲

B6 今は幸せかい (佐川満男) 🅶

 

演奏: 沢井忠夫 (琴)/オーケストラ名未記載

編曲: 無記名

定価: 1,700円

 

歌無歌謡に於ける琴の女帝いや帝王と言えば、山内喜美子さんを置いて他にないと思われますが、琴界の大御所・沢井忠夫氏もこっそり、歌謡に挑んでおりました。これは第三集となっていますが、既に洋楽スタンダードを取り上げたものがユニオンから二枚出ており、その延長線上のアプローチで臨んだもの。その割にGSナンバーの選曲がないのが残念ですけど…やっぱ、当時のリスナーが求めるものは、その辺じゃなかったんでしょうかね。尺八で聴くテンプターズの曲が、めちゃキマっていたのを思うと、実に惜しい。

さすが、日音=ユニオンだけあり、アレンジの黒幕は明らかにされていないものの、鋭いサウンド作り。トップの「涙の季節」から、なかなかソリッドなスムーズ・ジャズ系のバッキングに乗って、左右のチャンネルを琴が華麗に舞いまくる。山内さんの、恥じらいがちな乙女タッチさえ感じさせる演奏に比べると、やはりこの人のアプローチはガチだ。間奏でも、山内版「太陽がくれた季節」と同様、アドリブが炸裂しているのだが、そこでのサイケなイメージに比べるとずっとナチュラルというか、灯籠で照らされた夜といった趣き。続く曲は「夜明けのスキャット」か、と思ったら筒美作品「捧げる愛は」でした。ギターと琴にほぼ同じ存在感を与えて、効果的に配合しているし、サポートに入るクラリネットがめちゃいい音だ。「知りすぎたのね」も、感覚的には洋楽に近い。左側に入る音がクラビオリンか、コルネット・ヴァイオリンかという響きなのに、カラーが洋楽的で面白い。「花はまぼろしのような純粋に和風メロディーの曲の方に、逆説的にサイケ感が滲み出ている。「夕月」はオリジナルを挑発するかのようにガチな邦楽色を流し込み、新鮮な味わい。恋の季節はオリジナルのメロディーを解体しきった解釈が異色。「愛のさざなみ」も細かい気配りが効いたアレンジで聞き応え充分だ。ここではオーボエが好サポート。まさかの楽器と琴の絡みが、鮮やかな効果を生み出しまくる1枚だ。このくらいやってくれないとね、有線の琴BGMチャンネルでも。

ユニオンらしい、帯がないと何がなんだかわからないジャケットも度を越しているけど、辛うじて帯が使える状態でついていてよかった。裏ジャケの演奏者名誤植はなんとかしてほしかったな…

芥川澄夫さんの誕生日は1月30日

東芝 TP-7376

ミスター・ギター 花と涙

発売: 1969年12月

ジャケット

A1 花と涙 (森進一) 🅶

A2 恋泥棒 (奥村チヨ) 🅷

A3 悲しみは駆け足でやってくる (アン真理子) 🅻

A4 星空のロマンス (ピンキーとキラーズ) 🅵

A5 いいじゃないの幸せならば (佐良直美) 🅸

A6 今日からあなたと (いしだあゆみ) 🅴

A7 ローマの奇跡 (ヒデとロザンナ) 🅱

B1 まごころ (森山良子) 🅸

B2 涙でいいの (黛ジュン) 🅵

B3 銀色の雨 (小川知子) 🅴

B4 おんな (森進一) 🅷

B5 何故に二人はここに (Kとブルンネン) 🅳

B6 朝陽のまえに (はしだのりひことシューベルツ) 

B7 美しい誤解 (トワ・エ・モワ)

 

演奏: 横内章次 (ギター)/ブルー・ドリーマース

編曲: 横内章次

定価: 1,500円

 

ブルー・ドリーマーズ名義では『さすらい人の子守唄』(1月7日)に続くアルバムで、個性全開という点ではこっちの方が凄い。横内章次ものを1枚だけと言われたら、恐らくこれを選ぶのは確実だろう。競合ヴァージョンの多い曲が目立つ分、個性がはっきり刻印されやすくなっているし、69年型歌無歌謡アルバムとして理想的仕上がりになっている。トップの「花と涙」で手堅くスタートしておいて、「恋泥棒」で早々と大胆にギアチェンジ。オリジナルを凌ぐ疾走感の中、ギターに個性を与え分け効果的に配分。それ以上に唸りを上げまくっているベース(恐らくというか、確実に寺川正興。黄昏で語るべき全ネタが揃った後、とうとう手に入れたクラウン盤『ベース・ベース・ベース』で全開となるあの音そのもの)が耳をとらえる。まさに二度が三度に度重なって、美味しさ倍増するグルーヴィ・サウンド。と思えば、「悲しみは駆け足でやってくる」は穏やかに。東芝盤のこの手の曲で荒れ狂いがちなオルガンも、ここでは地味な役割に徹している。「星空のロマンス」ではアレンジャーとしての気配りの良さが全開してるし、いいじゃないの幸せならばは小粋なラウンジ色を与え全く別のイメージが覗く。ギター・プレイもなかなかのお茶目さ。「今日からあなたと」は、クレイジー・パーカッション版を聴きすぎたため、いい感じでチルアウト効果をもたらすアレンジだ。ローマの奇跡は、前作の「坊や大きくならないで」ほどの鬼気はないものの、ブルース的側面が押し出されているアレンジ。

B面の序盤は女性シンガーのエレガントな側面をギターで再現するパート。銀色の雨の、極端にトーンを絞ったプレイは異色。しかし、このエレガントムードを「おんな」が強引に切り裂く。木村好夫のシグネチャー・チューンが一瞬にしてガレージ・サイケ化!狂気のファズに、抑え気味のトーンながら暴れ回るベースが絡み、場末のバーの壁面を幻惑のライト・ショーが撹拌するイメージだ。こういう飛び道具が入っているから、69年の歌無盤は油断できない。これを境に、最後に向けてフォーク・ムードで突き進む。「朝陽のまえに」で、「夜明けのスキャット」を速回しサンプリングしたような使い方をしているのが斬新。「美しい誤解」も、ソフトロック・インストとして上出来で、いい幕引きだ。

いソノてルヲ氏が、海の向こうの元祖スムーズ・ジャズ的ギタリストを引き合いに出しながら、日本のジャズ界におけるギタリストの業績を的確にまとめているのは、この種のアルバムの付録としては実に効果的。雰囲気作りの一環として買われるアルバムも、意外と学習資料になり得るものですよ。

内藤やす子さんの誕生日は9月28日

日本メルシー NDC-5202 (カセット) 

夜の有線大賞

発売: 1976年

ジャケット+テープ本体

A1 さざんか (森進一) 🅰→21/5/23

A2 おゆき (内藤国雄) 🅲→21/5/23

A3 横須賀ストーリー (山口百恵) 🅰→21/5/23 (long) 

A4 どこへ帰る (五木ひろし) 🅲

A5 さくらの唄 (美空ひばり) 🅰→21/5/23 (long) 

A6 北の旅愁 (細川たかし)

A7 ぼくの妹に (加山雄三) 🅲

A8 旅人 (五木ひろし)

A9 北の宿から (都はるみ) 🅺

A10 夢魔のブルース (八代亜紀) 🅰→21/5/23

B1 聞いて下さい私の人生 (藤圭子)

B2 想い出ぼろぼろ (内藤やす子) 🅴

B3 つくり花 (森進一) 🅴

B4 ふたりづれ (八代亜紀) 🅵

B5 裏町ブルース (殿さまキングス)

B6 あなただけを (あおい輝彦) 🅳

B7 四季の歌 (いぬいゆみ) 🅳

B8 北酒場 (五木ひろし) 🅰→21/5/23 (long) 

B9 東京砂漠 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅳

B10 女の河 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅱

 

演奏: ニューレコーディングオーケストラ

編曲: 無記名

定価: 1,500円

 

B’zのニューアルバムの特典におまけ音源収録のカセットが用意されるというニュースで、益々カセットテープに対する注目度がエスカレート中。中古市場もそれなりに熱くなっているけれど、実物が見えない場所で迂闊に投資するのもリスキーなんですよね。目に見えるダメージは言うに及ばず、ユーザーが勝手に上書きしてるケースとかもあり得るし。人によってはそれこそが快感なんて場合もあるんだろうけど…

歌無歌謡探求者としては、それこそ78年あたりまでのマイナーレーベルのパチ歌謡(歌入りも含む)が出てくれば目の色が変わるのだけど(ポニーや74年以降のアポロンなどの、明らかにレコードで出ていない音源が入っているものなら余計)、76年あたりまでのカーステレオ業界はメインが8トラックだったので、カセットの希少価値は余計高い。オーディオ好きな人が家で歌無歌謡のカセットを高級デッキで再生するなんて、ツチノコ以上に考え難いケースだし(爆)。それでも、出てくる時ゃ出てくる。そんな1本がこちら。いかがわしいジャケでしょ…品川区上大崎に実体を構えていた会社の制作によるブツだが、あくまでも音源は別途制作されていたものをライセンスして使ったっぽい。元々歌入りで出すか歌なしで出すか決めかねていたのだろうか、裏ジャケでは歌手名が記載されていたと思しき部分にテープが貼られ、カムフラージュされている。ライセンス云々が浮き彫りになるのは、冒頭3曲で早々とだ。最初の2曲の段階では何も考えていなかったけど、続く横須賀ストーリーで決定的に。この歯切れの悪さは、まさしくエルム盤『ベスト歌謡ヒット速報』に入っていたヴァージョンと全く同じ…ただ、2コーラス目の途中でフェイドアウトという処理が行われており、レコードに比べると制約が少ないはずのカセットに於いてまで、それをする必然性はないのではないかと、一瞬思いはするけれど、8トラックの各プログラムの長さを合わせるための処置なのかもしれないし。結局、その盤と5曲、全く同じテイク(長さの相違はあれど)が使われていた。「北の宿から」は、バックのオケは同じくエルムの『昭和演歌』と同一ながら、好夫っぽいギターがここでは咽び泣きまくるサックスに置き換えられているし、これも謎。「横須賀ストーリー」以外にも「どこへ帰る」さくらの唄など、不自然な箇所でフェイドアウトする曲が、相当数収められている。

サウンド的には、「どこへ帰る」や「北の旅愁などでここぞとばかり個性を発揮するシンセの音が目立つ。マイナーレーベルの制作現場とはいえ、それなりに新しいものを取り入れて遊びたかったのでしょうか。普通にオルガンを弾くようなメロディーこなしではありつつ、音色の選択が意外と鋭い。クラウンのアルファ・スペースGのような狂気を期待すると、肩透かしに逢うけど。「聞いて下さい私の人生」なんて、クラビオリンに非常に近い音に設定してるけど、音の繋がり具合はまさしく当時のシンセのそれ。イレギュラーのタイアップ・ソングのため、通常の歌無盤ではあまり取り上げられていない「旅人」では、マイナー盤では珍しいリコーダーの活躍も。この手のテープでアイドル曲が取り上げられていたらと妄想したくなってしまうが、あり得ないだろうな…「さくらの唄」はシンプルにまとまりすぎてかえってアシッド色が出てたり、「想い出ぼろぼろ」の悪酔い気味のノリとか、「四季の唄」でリリカルさを撹拌するようなシンセの音色選びとか、それなりにバッド・トリッピーなところもあって、やはりマイナーレーベル侮れないなと。このグラスには、どっかおかしな媚薬が配合されている…

新沼謙治さんの誕生日は2月27日

国文社 SKS-116

トランペット・ムード2

発売: 1976年

ジャケット(裏)+帯



A1 ビューティフル・サンデー (ダニエル・ブーン) 🅴

A2 わかって下さい (因幡晃) 🅶

A3 傾いた道しるべ (布施明) 🅵

A4 千曲川 (五木ひろし) 🅵

A5 恋におぼれて (真木ひでと)

A6 二人の御堂筋 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅱

B1 時の過ぎゆくままに (沢田研二) 🅸

B2 誘われてフラメンコ (郷ひろみ) 🅵

B3 女友達 (野口五郎) 🅲

B4 みれん心 (細川たかし) 🅴

B5 おもいで岬 (新沼謙治) 🅱

B6 港町ブルース (森進一) 🆁

 

演奏: 羽鳥幸次 (トランペット)/ニュー・サン・ポップス・オーケストラ

編曲: M.Misaki

定価: 2,200円

 

国文社の第2回発売分「ニュームードミュージック」に対する執着心は、結局未だ完結せず。オリジナルの18枚中15枚集めることまではしたけど、内1枚は別の盤が間違って入っていたし、洋楽オンリーの盤もあと3枚、語る覚悟はしていたけれど、「歌謡フリー火曜日」を今年になって廃止したのでチャンスを失った…まぁ、何を持ってないかは明らかにしませんけどね。そんなことで相場が動いたら恐ろしいです(それ言うな)。

これは比較的後になって手に入れた盤だが、それなりの衝撃が待っていた。元々の『トランペット・ムード』は、『ピアノ・ムード』と共に、第1弾がA面洋楽、B面歌謡という組み合わせで出たが、あまり好評じゃなかったせいか、後々それぞれA面同士(『ある愛の詩』SKS-122)、B面同士(『想い出まくら』SKS-120)組み合わされ、再発売されているのだ。『サックス・ムード』と『ギター・ムード』の場合と同じ。この再発盤の情報を記した帯が付いている盤はよく見かけるが、再発盤そのものを見たことは一度もない。

『ピアノ・ムード』(昨年4月4日参照)が『1』のB面含めて見事に女性歌手の曲だけで統一されているのに対して、こちら『トランペット・ムード』は男性歌手の曲オンリーである。ピアノのトーンそのものが乙女感を強調しているという感じがそれほどなくて、単に乙女の嗜みというイメージから紐付けが行われたと思われるのに対し、こちらは真の男の優しさというか、野生味とはちょっと違うロマンティックな側面が強調されていて、アレンジもそこまで妙なものになっていない。まさしく「金曜ロードショー」のあの世界というか、その枠組みに歌謡がはめ込まれているという感がある。その辺は伊藤強氏が詳しくライナーで書いてくれているのだが(このシリーズ、掴んだ盤によってライナーがあったりなかったりで、それによって捉え方が変わるから困る。『フォーク・ムード2』に欠けているのが惜しかった)。

トリオ盤でとんがったところをフル発揮した羽鳥幸次氏もここでは手堅いメロディーさばきで、完成度の高いサウンドの中を駆け抜ける。オープニングの「ビューティフル・サンデー」は軽めの解釈で、女性コーラスが萎縮気味に支える中さわやかさ満開(しかし、このキーは男性歌唱に向いてない)。添付されている歌詞は松本隆版の方だが、こちらの方は今や忘れ去られている感も…真木ひでと「恋におぼれて」が比較的レア選曲とはいえ、無難に進んでいく…最初の10曲までは(「みれん心」バスクラリネット使用が特異ではあるが)。しかし…なんなんだ続く「おもいで岬」は。『フォーク・ムード』の「神田川」や「岬めぐり」、『ビートルズサウンド』の「カム・トゥゲザー」さえ凌ぐ、第2回国文社最大の衝撃が襲い掛かる。イントロから、全体の演奏から、もろ某超有名曲ではないか。その中に、ニーヌ・マッケンジーのおおらかな演歌が強引に巣を作り始めるのだ。演奏の完成度が高いだけに、余計驚愕ものである。全楽器のパート、細かくスコアが書かれたに違いない。誰なんだろうM.Misakiって。この手の歌無歌謡ヴァージョンでは、ワーナー・ビートニックスの「孤独」と双璧。恐れ入りました。これは交通情報のBGMにマスト。事故を誘発しなければいいのだけど。

最後は実に18番目のヴァージョンとなる港町ブルースの76年型解釈でささやかに幕を閉じる。まさに男のロマン金管楽器。でも、果敢に手にする女の子の存在も頼もしいですよ。

和田浩治さんの誕生日は1月28日

東宝 AX-4030

おんなの運命/演歌ヒット・ベスト16 

発売: 1975年2月

ジャケット

A1 おんなの運命 (殿さまキングス) 🅶

A2 みれん (五木ひろし) 🅵

A3 あなたにあげる (西川峰子) 🅶

A4 あじさいの雨 (渡哲也) 🅵

A5 愛の執念 (八代亜紀) 🅳

A6 二人でお酒を (梓みちよ) 🅸

A7 久しぶりだね (和田浩治)* 🅲

A8 挽歌 (由紀さおり) 🅲

B1 冬の駅 (小柳ルミ子) 🅳

B2 北航路 (森進一) 🅵

B3 理由 (中条きよし) 🅵

B4 わたし祈ってます (敏いとうとハッピー&ブルー) 🅵

B5 別れの夜明け (石原裕次郎&八代亜紀) 🅲

B6 夫婦鏡 (殿さまキングス) 🅰→21/5/20

B7 命火 (藤圭子) 🅱

B8 あなたが欲しい (ぴんから兄弟)

 

演奏: 村岡実 (尺八)、山内喜美子 (琴)/ミラクル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 福井利雄

定価: 1,800円

 

ラストも近いのでこっそり明かしますが、ジャケ画像に大々的に登場する「訳あり」シール(い◯◯◯やさんごめんなさい…本当は「おつとめ品」シールが欲しかったところです…)が隠すものは、大抵の場合その盤を入手した店名入りのプライスシールなんです。そこに記された価格を晒してしまうと、これっぽっちの価値しかないのかよと勝手な悲しみを共有することになるけど、自分はそれの積み重ねでここまで来れたわけです。歌無歌謡アルバムがジャンクヤードに全く姿を見せなくなる事態に恐怖を覚えながら…(まさか)。より厳密に言えば、そのプライスシールの系統は二つしかない。真のコレクタブルなアルバムには、シールを貼ることさえ拒むはずですよ、いくらその手のお店であれ。

この盤の「訳あり」シールの下も、案の定今となっては懐かしさしかない、ここ3年の間に主要店舗が相次いで閉店した某大手ショップのプライスシールでした。よって、新たに入手したから延長戦で語ろうとなった1枚では当然なく、調べてみたらはまってから最初の1年のうちに買っていたのです。それが、新たな特筆すべきネタ入手やらなんやらで後回しにされて、最後から数えて9日目にやっと登場と。仕方ないです、天下の村岡&山内コンビなのに。でも、これを買った頃には既に『尺八ロック』とかも相当レア盤化していたので、村岡氏の尺八が聴けるだけでも有り難かったし、テイチク盤などの衝撃を前に、山内さんの偉業を味見できた1枚としても貴重。

ラクルサウンズの『最新ヒット歌謡』シリーズは、これの1つ前の番号で出た75年1月新譜で完結しており、以後はフォーク・演歌とカテゴリーを分けて続行したので、新展開に於ける第1作と見ていいかも。もっとも『演歌大全集』は既に別シリーズとして始まっていたけれど。この盤では、「夫婦鏡」がその第3弾から流用されているが、他の曲も従来のミラクルサウンズの延長線上にある演奏の中に、琴と尺八をはめ込んだ音になっている。エコーとコンプレッションが強めにかかり、かなり重厚なサウンド和楽器の響きを盛り立て、ミラクル名物の鍵ハモも意外にエモいプレイになっている。ど演歌の中に投げ込まれると相当異色な「二人でお酒を」は比較的ポップ寄りのサウンドの中、尺八と琴が交互にソロをとり、軽妙な仕上がり。「挽歌」「冬の駅」も同系統で、この中ではいいアクセントだ。東宝と言えば気になるユピテルとのヴァージョン被り(汗)だが、このアルバムに関しては特に認められなかった。曲が重なっていても、あちらには明確に池多氏のクレジットがあるし。

歌詞掲載面を見ると、実に泥沼だらけの演歌恋模様。ピースフルな時代に映し出された現実は、今もまだ現実のままなのかもしれない。こんな時代になっちゃったけれど。でも、数多の薄い言葉しかないラブソングを聴くくらいなら、たとえ歌無だろうが「命火」を聴く方をとるよ。

 

(*注)- 「久しぶりだね」のヴァージョンカウントには、黒木憲「別れても」(『ヴェルベット・サックス・ムード』収録)の分も含まれています

 

「有楽町そごう」開店記念日に、16日早く吉田正氏を偲ぶ

ビクター SJV-5024

木村好夫 演歌ギター決定盤 夜のムード・ゴールド20

発売: 1977年

ジャケット

A1 ひとり酒場で (森進一)Ⓐ

A2 昭和枯れすゝき (さくらと一郎)Ⓐ 🅹

A3 酔いどれ女の流れ歌 (森本和子)Ⓑ 🅵

A4 有楽町で会いましょう (フランク永井)

A5 再会 (松尾和子)

A6 女の意地 (西田佐知子)Ⓒ 🅸

A7 花と蝶 (森進一)Ⓓ 🅷

A8 東京午前三時 (フランク永井)

A9 ラブユー東京 (黒沢明ロス・プリモス)Ⓒ 🅴

A10 グッド・ナイト (松尾和子)

B1 東京ナイト・クラブ (フランク永井松尾和子)

B2 盛り場ブルース (森進一)Ⓔ 🅵

B3 さざんか (森進一)Ⓒ 🅳

B4 赤坂の夜は更けて (和田弘とマヒナスターズ)Ⓔ 🅱

B5 命預けます (藤圭子)Ⓑ 🅸

B6 なみだの操 (殿さまキングス)Ⓕ 🅽

B7 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓑ 🅸

B8 なみだ恋 (八代亜紀)Ⓐ 🅽

B9 夜の銀狐 (斉条史朗)Ⓐ

B10 誰よりも君を愛す (松尾和子和田弘とマヒナスターズ)

 

演奏: 木村好夫/ビクター・オーケストラ

編曲: 木村好夫Ⓐ、植原道雄Ⓑ、佐香裕之Ⓒ、舩木謙一Ⓓ、章次郎Ⓔ、神保正明

定価: 1,500円

 

全好夫(a/k/a エディ・P)ファンの皆様、お待たせしました…遂にジャケットに本人登場です…(汗)。それはそうと、昨年火曜日のためスルーした一連の水曜日、どうしても歌謡関連のテーマが見つからなかったのが今日。25日故、「発売日」の記録は多々あるのだが、誕生日関連だと、ありそうなのが葛城ユキくらい…ここまで歌謡コネのない日は珍しい。何とか、探し当てたのが「有楽町そごう開店記念日」。1957年の開店当時、キャンペーンソング的に扱われ大ヒットしたのが有楽町で逢いましょうだ。当然、その曲が取り上げられている歌無盤となると、懐メロ懐古的な内容のブツに限られるわけで。好夫ギターの真髄を体験できるこのアルバムは、リアルタイムのヒット曲はほぼ皆無(「さざんか」が一番近い)ながら、オーセンティックな録音は含まれず、全て77年の新録音。数多の歌謡経験を経て、熟成しきったいぶし銀の演奏がたっぷり。ここまで経験積んだのが顔面に出ているとはいえ、当時43歳だもの。恐ろしい。70年代初頭の場末的演奏も愛しいけれど、録音技術やギター周辺のテクノロジーも格段に進歩し、新しい側面で鳴らされる懐かしのメロディーも格別。ビクターということで、他社での演奏が畏多すぎてほぼ皆無(何せ、由紀さおりの「お先にどうぞ」が特例としてビクターから出た位である)な吉田正作品が、6曲も入っているのが特筆事項(太字にしました)。それにしても、吉田メロディーは「別格」である。歌謡曲として一級品ながら、全く色褪せない「モダンさ」を未だに保っているし、件の曲が象徴する通り、それこそ経済成長期の日本のシンボルみたいな存在。こうして歌無盤を聴いても、無意識に歌詞が出てくるもの。リアルタイム曲でもないのに。だからビクター盤はありがたい。

トップの「ひとり酒場で」は、一昔前のような「ファミリー」を率いての演奏か、それとも一人多重録音か釈然としないのだが、間奏とか聴くと後者の気配が濃厚のようだ。この素朴な生ギターの響きは、音を楽しむことの基本そのもの。かと思えば、「酔いどれ女の流れ歌」では、コーラスを交えて小粋に迫ったと思ったら、突然疾走モードに入る実験的アレンジ。77年にしてはかなりの大胆さだ。「女の意地」「花と蝶」のような、何度も録音したと思しき曲では、余裕の好夫節が炸裂しまくるし、「命預けます」では敢えて70年代初頭に避けたようなラウンジ・モードを採用し、意表をついたアレンジ。ちょっとシタールに近づいたような響き(「印度ギター」ではないようだ)で、ねっとり奏でているし、フルートも色っぽく絡んでくる。「なみだの操」が普通すぎて、かえって浮いてるようだ。完全にアコースティック・サウンドによる「なみだ恋」も新鮮。「夜の銀狐」は、曲そのもの以上に「ソーロ・グリス・デ・ラ・ノーチェ」という謎なフレーズが、頭に残りまくる1曲なのだが、その辺の曲に接したのも父の調教があったからなんです…カーステレオにも、好夫ギターの8トラックがいくつもありました。自分の心に刷り込まれた「歌謡」を常に体現してくれる、それが木村好夫ギターの存在価値。真のリスペクトを全力で注ぎたいギタリスト。エッジの効いたベースと共に聴かせる誰よりも君を愛すで、こんな孤独な夜は更けていきます…

伊東きよ子さんの誕生日は1月24日

デノン CD-5008

尺八 ブルー・ライト・ヨコハマ

発売: 1969年5月

ジャケット

A1 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅺

A2 見知らぬ世界 (伊東きよ子)

A3 スワンの涙 (オックス) 🅲

A4 帰り道は遠かった (チコとビーグルス) 🅳

A5 花はまぼろし (黒木憲) 🅲

A6 みずいろの世界 (じゅん&ネネ) 🅳

B1 年上の女 (森進一) 🅹

B2 グッド・ナイト・ベイビー (ザ・キング・トーンズ) 🅸

B3 純愛 (ザ・テンプターズ) 🅱

B4 涙の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅸

B5 雨の赤坂 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅳

B6 華麗なる誘惑 (布施明) 🅳

 

演奏: 村岡実 (尺八)とニュー・ヒット・サウンズ

編曲: 池田孝

定価: 1,800円

 

昨年数回やった「箱買い」のうち1回が「和楽器もの」に特化した内容で、スタンダードな日本のメロディーを演ったやつとかも大量に舞い込んだのだけど(どさくさに紛れてドラムものとかも混じっていたが)、じっくり吟味する時間に恵まれないし。なかなかチェックできない歌無歌謡以外の盤をいきなりDJできる場所に持ち込んで、直感だけでいきなりプレイという暴挙に及んでみたい気持はあるけれど、果たして許されますやら…

そんな箱の中に、村岡実先生のアルバムが2枚入っていて喜びもひと潮。大映盤の時にも書いたけれど、盤によっては相当エッジの強い内容のものもあり、相当中古市場で高騰している。通常の歌無歌謡盤にしたって、そうも容易に手に入らなくなってそうだし。「演歌大全集」みたいな盤はそうでもないだろうけど。とんがった尺八を聴ければそれでいいのか、って問題じゃないのかな。このデノン盤も、よく聴くと非常にストロングな内容だ。大映盤に引き続き、池田孝氏がアレンジを担当しているが、珍しくフルメンバークレジットされているコンボ演奏(石川晶!佐藤允彦!寺川正興!沢田駿吾!)はあくまでもラウンジモードで、面子の割にど派手に盛り上げる事は殆ど避けている。その音に囲まれ、尺八の可能性を限界まで追求しているのだ。

のっけのブルーライト・ヨコハマから格別。コンボ演奏の軽さに唖然としていたら、そこに立ちはだかる尺八の音の壁。超高音の「ひとよぎり」もフルに使い、殆どフルートのようなひとりアンサンブル。そして、唸りまくりのふかなさけ。この曲には特別な愛着がありまくる宗内も、ただ圧倒されるのみ。こんな風に尺八が吹けていいのか…易々と乙女に持たせていいんですか…(ジャケットの話)。

続く「見知らぬ世界」(発足ほやほやのCBSソニーをアピールするために、全米発売までされたこの曲を「古巣」がまさか取り上げるとは…)ではさらに、ヤバい方向に行っている。イントロのアンサンブルはクラリネットか、見知らぬ国の見知らぬ笛のよう…ディストーションやエコーも、ある程度使っているのだろうか。そんなフラワームードたっぷりの曲も、エモい尺八の真骨頂。スワンの涙ではEQをかまして、より「未知の笛」的な音を出している。オックスのレコードでも沢田駿吾が弾いてたという話をどっかで聞いたような…と思い出させる2コーラス目のギターに、フラッター奏法が襲いかかる。「帰り道は遠かった」は、イントロを尺八で演ると「本来の姿」感が強まったような。コロムビア盤なのに、ライナーではジェノバに言及してない(爆)。B面に行くと、相当冒険した演奏の「ダメよーだめだめ」に意表を突かれる。これはサイケだ。「グッドナイト・ベイビー」のバックのハーモニーは超高音で、リコーダーだとソプラニーノに該当する音域だが、これもテープ速回しじゃないのか…恐るべし。「純愛」大映盤の「エメラルドの伝説」を期待すると、鮮やかに裏切られる。この盤でも最もジャズ色が強い演奏をバックに、純愛どころではない危険な逢い引きの世界が展開…「涙の季節」はラウンジモードがいい方に働いている癒しの場所。この調子でラスト2曲、まったりしたノリの中を自由に、過激に歌いまくる尺八。

こちらもまた谷川恰プロデュースで、ナイアガラ求道者の方にも外してはほしくない名盤。これはそう簡単に再現できるものではないよ。お嬢さんお手やわらかに…がんばってみれば、リコーダーで近いことができるかも(汗)。