黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日はザ・ピーナッツの誕生日なので

トリオ 3A-5001~2 

魅力のマーチ・小さな恋の物語 歌謡ヒット・ベスト40

発売: 1973年

 

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ジャケット

A1 草原の輝き (アグネス・チャン)

A2 海鳥の鳴く日に (内山田洋とクール・ファイブ)

A3 魅力のマーチ (郷ひろみ)

A4 君の誕生日 (ガロ)

A5 涙の太陽 (安西マリア)

A6 街の灯り (堺正章)

A7 ぎらぎら燃えて (山本リンダ)

A8 恋にゆれて (小柳ルミ子)

A9 女のみち (宮史郎とぴんからトリオ) 

A10 森を駆ける恋人たち (麻丘めぐみ)

B1 わたしの彼は左きき (麻丘めぐみ)

B2 冬の旅 (森進一)

B3 恋する夏の日 (天地真理)

B4 雨に消えた恋 (野口五郎)

B5 情熱の砂漠 (ザ・ピーナッツ)

B6 ふるさと (五木ひろし)

B7 人間模様 (金井克子)

B8 傷つく世代 (南沙織)

B9 なみだ恋 (八代亜紀)

B10 色づく街 (南沙織)

C1 てんとう虫のサンバ (チェリッシュ)

C2 出船 (内山田洋とクール・ファイブ)

C3 小さな恋の物語 (アグネス・チャン)

C4 十五夜の君 (小柳ルミ子)

C5 裸のビーナス (郷ひろみ)

C6 白樺日記 (森昌子)

C7 若葉のささやき (天地真理)

C8 最後のくちづけ (尾崎紀世彦)

C9 危険なふたり (沢田研二)

C10 絹の靴下 (夏木マリ)

D1 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二)

D2 忍ぶ雨 (藤正樹) 

D3 情熱の嵐 (西城秀樹)

D4 白いギター (チェリッシュ)

D5 ふたりの朝 (フォーリーブス)

D6 ジョニイへの伝言 (ペドロ&カプリシャス)

D7 悪い奴 (和田アキ子)

D8 ひとりっ子甘えっ子 (浅田美代子)

D9 恋は燃えている (欧陽菲菲)

D10 赤い風船 (浅田美代子)

[( )内は当時歌唱したオリジナルないし代表的ヒットアーティスト。以下、一部火曜日を除く全エントリーにかけて同文]

 

演奏: ザ・サウンド・メーカーズ

編曲: 無記名

定価: 3,000円

 

1970年、オーディオ機器メーカー傘下に相応しく、通好みの洋楽中心ラインナップでスタートしたトリオレコードは、その初期から時折「歌のない歌謡曲」のアルバムをいくつかリリースしていたが、73年に本格的に歌謡界に進出すると共に新たな歌無歌謡シリーズ開始かと思いきや、このアルバムを最後に撤退してしまうことになる。理由は知らない…

さて、2017年2月、某所でこのレコードを救済したせいで、宗内の世界観は一気に様変わりしてしまう。どのような経緯でそうなったかは、特に文の最後で説明するとして、歌謡界を代表した偉大なる双子姉妹の誕生日にこじつけて(ここでは73年7月リリースのNo.34ヒット、加瀬邦彦作曲による「情熱の砂漠」が選曲されている)、記念すべき第1回エントリーにこのアルバムを選ばせていただいた。1973年を代表するヒット曲がずらり、40曲取り上げられている。

洋楽、しかも主にジャズとクラシックに特化したレーベルらしい、シャープな音作りで統一されているが、個々の曲のアレンジにハッとさせられるものが多い。以下、聴きどころ。

「草原の輝き」イントロから快調に飛ばしまくる、輪郭のはっきりしたサウンド。2コーラス目でエレガントに飛躍してみせるストリングスが鮮やか。ブラスが彩る「海鳥の鳴く日に」への場面転換も見事。

「街の灯り」ここから不思議な方向へと揺らぎ始める。当時、従来の化物めいた存在から脱却するようにコンパクトなモデルが出回り始めたシンセを弄ぶように主旋律で使用し、弾きながらADSRやらLFOを面白そうにコントロールしてるような演奏。

「女のみち」70年代前半最大のサプライズヒットとなったど演歌が、まさかのストレンジサウンドに転生。唸りを上げるミュージカルソー、異様な京琴を支えるバックの音の淡白さが、サイケな色彩を誘き出す。続く「森を駆ける恋人たち」がロックしていて好対照だ。

「雨に消えた恋」いきなり主旋律をベースが奏で、そのまま先導するヘヴィなブラスロック。

「ふるさと」こちらも低音シンセがメロディを奏で妙な雰囲気だが、こちらは本家(五木ひろしの)ミノルフォンに残された素晴らしいヴァージョンの勝ち。

「なみだ恋」カンタベリーサウンドのバラードかと思うような甘美なフルートから演歌への突入が鮮やかなDisc 1のヤマ。

十五夜の君」これまたシンセで遊びまくりの主旋律(つまみいじりを楽しんでる分、ノリがふらつき気味なのはご愛敬)を地味に支えるメロトロンストリングス!この控えめな響きだけでも歓喜の叫びが挙がるのではないだろうか?「胸いっぱいの悲しみ」も同種のサウンド

「ふたりの朝」エーメン・ブレイクみたいなドラムから始まるグルーヴィなサウンド。オズモンズ提供によるフォーリーブスのNo.11ヒット曲。和田アキ子「悪い奴」も同様にノリノリの解釈だ。

「色づく街」に特に顕著だが、このアルバムと被る時期まで約2年間、ワーナーに大量に残された「華麗なる~」シリーズ、特に「トゥイン・ギターズ」名義のものに共通する質感のサウンドが多く(「女のみち」に至っては、ほぼ同じ音源と言ってもいいものが使われている)、その多くを手掛けた原田良一氏がアレンジの中心になっているのではと推測するが、ノークレジットなので確かなことは言えない。

 

最後に、このアルバムのツボは「ひとりっ子甘えっ子」に尽きる。初めて聴いた時即刻昇天し、以降この曲が選曲されている(というか、浅田美代子の曲が選曲されている)歌無歌謡のアルバムは重点的に集めると決意。カラオケでこの曲を選曲してフルートを吹くなど、実践欲にも火をつける結果となった。

全体的にサウンドがせこいのだが、それなりにこの曲が本来持つ侘しさを強調している気がする。イントロの本来鍵ハモによるフレーズはミュートトランペット、1コーラスは控えめな減衰音系シンセで奏でられており、2コーラス目で唐突に現れるメロトロンストリングス!曲の最後でも大胆に自己主張し、真のスターレス世界へとこの曲を昇華している。まさに、自分内では歌無歌謡の飽和地点。この曲を語って旅の出発としないと気が済まない。