黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は「ピアノ調律の日」、そしてキャンディーズ最後の日

国文社 SKS-117

ピアノ・ムード2

発売: 1976年

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裏ジャケット+帯



A1 木綿のハンカチーフ (太田裕美)

A2 泣かないわ (桜田淳子)

A3 ロマンス (岩崎宏美)

A4 愛に走って (山口百恵)

A5 きみ可愛いね (伊藤咲子)

A6 翳りゆく部屋 (荒井由実)

B1 あかいサルビア (梓みちよ)

B2 年下の男の子 (キャンディーズ)

B3 恋のシーソー・ゲーム (アグネス・チャン)

B4 人恋しくて (南沙織)

B5 頬にかかる涙 (片平なぎさ)

B6 世界は二人のために (佐良直美)

 

演奏: 江草啓介(ピアノ)、ニュー・サン・ポップス・オーケストラ

編曲: T.Ito、K.Yamaya

定価: 2,200円

 

60~70年代の「軽音楽」市場は特にレコード会社主導に限定されず、レコード会社制作音源を使用して出版社が書店ルートや通信販売で販売というパターンも多く見受けられ、その辺りの全貌解析にはとてつもない時間が必要とされると思われるが、当ブログでもそれらのレコードに関するユニークな事情を、可能な限り伝えていけたらと思う。

哲学書で有名な国文社は、かつて「音響事業部」を設け、69~70年に通販ルートでムード音楽のセットものを販売。それらの音源制作・盤製造は東芝音楽工業(当時)が請負い、東芝名物の「エヴァークリーン・レコード」(所謂赤盤)でプレスされていたが、何枚か「歌のない歌謡曲」に属する作品があり、今後紹介する機会が生じるはずである。

76年に入り、突如「ニュームードミュージック」と称する新シリーズを、同じく東芝EMI(当時)の音源制作によりリリース開始。全集予約特価1,600円、参考市価2,200円とあり、後者価格で書店・レコード店などでも売られたと思われる。このシリーズは全部で18作リリースされており、さらにその内容を組み換えたものを4枚リリースしている。

この「第2期」リリースは、やたらリサイクルショップに出回る第1期のものに比べると、あまり頻繁に見かけることがない。音響的にこだわりまくった(16チャンネル超立体音響とのこと!)サウンド面での充実ぶりが好き者心をくすぐるのに加え、一部の盤のジャケットがエロい(汗)。この『ピアノ・ムード2』は特にヤバくて、100円コーナーで見かけたことは一度もなかった。ここでは良識に甘んじて、裏でご勘弁(汗)。そんなわけで、「ピアノ調律の日」とされている今日は、78年の今日解散コンサートを行ったキャンディーズの「年下の男の子」が収録されているこのアルバムを紹介。

まず内容がいい。当時のアイドル歌謡を中心に女性歌手の曲でまとめられ、ピアノのエレガントなタッチがそのガーリーさを華麗に演出する。東芝制作らしく、伊藤咲子「きみ可愛いね」片平なぎさ「頬にかかる涙」が含まれているのもユニークだし、イージーリスニング系のピアノアルバムにその名を残しまくった江草啓介氏の小技効きまくりのプレイは、歌無歌謡特有の下世話さと別種の境地にアルバム全体を導いている。アレンジャーにクレジットされているK.Yamayaとは、当然今や日本のレアグルーヴ探究に於ける超重要人物の一人となっている山屋清その人であろう。彼の名前が大々的にクレジットされているアルバムの多くは、最早2000円以下で手に入れば奇跡、という境地まで来ている。ユーミン「翳りゆく部屋」が「翳りゆく部室」となっているのはご愛敬(笑)。

エレガントでポップな好内容の1枚だけど、国文社の第2回発売の中ではあまり目立たない(ジャケットは除くとして)方に属する。もっと「どえらい」のが出てきますからね。