黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その3: Fab Four

国文社 SKS-109

ビートルズサウンド

発売: 1976年

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ジャケット



A1 ゲット・バック

A2 ヘルプ

A3 オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ

A4 ガール

A5 涙の乗車券

A6 ヘイ・ジュード

B1 イエスタデイ

B2 ア・ハード・デイズ・ナイト

B3 カム・トゥゲザー

B4 抱きしめたい

B5 シー・ラヴズ・ユー 

B6 レット・イット・ビー 🅱

 

演奏: ニュー・サン・ポップス・オーケストラ

編曲: T. Akano、K. Ichihara

定価(全巻予約特価): 1,600円

 

歌謡非歌謡問わず、インストカヴァー盤ではど定番に位置すると思しきザ・ビートルズ。この「歌謡フリー火曜日」でも、ビートルズに的を絞ったアルバムを数枚取り上げる予定だが、国文社の「ニュームードミュージック」シリーズ第2回にラインナップされた本盤は、むしろ異端に位置する方。解散から6年を経ての制作(76年には全アルバムがリイシューされるなど、ビートルズルネッサンス活動が本格化し、宗内が本格的に没入し始めたのもその年のことである)らしく、当時の最新サウンド・モードに忠実な、エッジの強い解釈が全面で行われている。まさに「ニュームードミュージック」のカラーに合致した1枚。

1曲目「ゲット・バック」から気合充分。たっぷり油を注がれたリズムセクションに応えるブラスの響き、何故かお茶目な印象を残す笛の音(フレージングから判断して、フルートやピッコロではなく、簡素化されたファイフの音ではないだろうか)。踊れる音楽からは程遠いけどかっこいい。クラシカルに始まりながら、ディスコ的解釈を加えて過去のムード音楽と違うムードに染まってみせる「ヘルプ」。ハードなギターをフィーチャーして原曲のお気楽さから逸脱した「オブラディ・オブラダ」。『フォーク・ムード』から逃れてきたような「ガール」には、トリッピーな雰囲気を強調するような不思議なストリングスも入る。こんな感じで進みながら、今作最大の衝撃「カム・トゥゲザー」が中盤に待ち受ける。「ガール」で聴けたトリッピーなストリングス再びに加え、「Shoot me」と声高らかに叫んでみせるピッコロ、無心に打ち鳴らされるタブラなどが織りなすイントロの異様さ。この曲がティモシー・レアリーの州知事選キャンペーンソングとして書かれかけた事実へのオマージュのつもりだったのだろうか?(当時、その事実に気づいていた人がいたとは思えないが)。既にシカゴ11の「明日への願い」に「数あるビートルズ絡みの和ものインストの中でも、確実に最凶度上位2位に入るのでは」という言葉を寄せたが、それらに続く3位こそこれではないだろうか。続く2曲も王道曲ながら、適度にモダンな解釈が加えられていて、現実世界に引き戻してくれる。もっと大胆な選曲をと望みたい気持も芽生えないほどの気合が伝わってくる1枚。アレンジャーの二人は市原宏祐・あかのたちお両氏と断定していいだろうか。ナイスジョブである。ちなみにこの盤は分売は行われなかった模様。やはり厳しい括りがあったんだろうか…ジャケは国文社第2回の中ではソフトな方だが、これでいいのか…