黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1974年、今日の1位は「なみだの操」(6週目)

コロムビア KW-7025~26 

‘74ヒット曲要覧=前半編=

発売: 1974年5月

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裏ジャケット(一部)



A1 あなた (小坂明子)Ⓐ

A2 突然の愛 (あべ静江)Ⓑ

A3 バラのかげり (南沙織)Ⓑ

A4 恋の風車 (チェリッシュ)Ⓐ

A5 しあわせの一番星 (浅田美代子) Ⓑ

A6 花物語 (桜田淳子)Ⓑ

B1 恋のダイアル6700 (フィンガー5)Ⓑ

B2 恋は邪魔もの (沢田研二)Ⓑ

B3 ときめき (麻丘めぐみ)Ⓑ

B4 積木の部屋 (布施明)Ⓑ

B5 愛の十字架 (西城秀樹)Ⓐ

B6 神田川 (かぐや姫)Ⓒ

C1 赤ちょうちん (かぐや姫)Ⓐ

C2 なみだの操 (殿さまキングス)

C3 くちなしの花 (渡哲也)Ⓐ

C4 恋の雪別れ (小柳ルミ子)Ⓐ

C5 円舞曲 (ちあきなおみ)Ⓑ

C6 襟裳岬 (森進一)Ⓐ 🅱

D1 魅せられた夜 (沢田研二)Ⓐ

D2 学園天国 (フィンガー5)Ⓑ

D3 ひとかけらの純情 (南沙織)Ⓐ

D4 一枚の楽譜 (ガロ)Ⓑ

D5 花とみつばち (郷ひろみ)Ⓑ

D6 心もよう (井上陽水)Ⓒ

 

演奏: 稲垣次郎 (テナー・サックス、フルート)/ゴールデン・ポップス

編曲: 山屋清Ⓐ、河村利夫Ⓑ、小谷充Ⓒ

定価: 3,000円

 

石油ショック」を経て、レコード業界全体が慎重さを増し始めた1974年。ワーナーの歌無歌謡からの撤退、クラウンのスタンス変更など、歌無歌謡周辺にもいくつか象徴的動きがあったものの、依然として大衆歌謡界は活発に動き、歴史に残るヒット曲はいくつも残されたし(本日のテーマ「なみだの操」は3月から5月にかけ、1位を9週間も独走)、アルバム界にも井上陽水『氷の世界』、かぐや姫『三階建の詩』といったランドマーク作がいくつか生まれた。そんな74年の前半を、LPレコード2枚で振り返ろうという企画。

名手・稲垣次郎氏の名前がフルート奏者としてもクレジットされており、冒頭の「あなた」に針が降りた瞬間から鮮やかなフルートの音が…と思いきやその正体はメロトロン!メロトロンマニア歓喜の一瞬が、この淡白な音の隙間を埋め尽くす。Bメロではサポートに回り、想像を絶する速いパッセージを奏でる。1枚目の残り全曲では鳴りを潜めるものの、2枚目の冒頭赤ちょうちんで再登場。貧相な安酒場の雰囲気に幽玄に食い込む戦慄の男声コーラス。さらに続く「なみだの操」もメロトロンフルート全開。ど演歌を体現するテナーサックスにラブリーに寄り添う。もう一つおまけに「くちなしの花」(もちろん渡哲也の方)にもダメ押しのように登場。この4曲だけでまじでお腹いっぱい。手堅い歌謡曲仕事のやっつけ感にぶつけるようにメロトロンをここぞとばかりぶち込みまくる、山屋清って人の執念を思い知らされる。

折角なのでメロトロン不使用曲からも聴きどころをいくつか紹介したいのだが(爆)。「しあわせの一番星」は本物のフルートをフィーチャーしている(笑)が、エコーのせいで不自然なサイケ感が。それとやはり、奏者の顔が見えてしまったため、乙女感が希薄に聴こえる(謝)。ロック色の濃い曲はそれなりにノれるヴァージョン以上の印象は抱けないし、神田川も女性コーラスでフレッシュな印象を残すけれど、直後に「赤ちょうちん」が来るせいでそれもかき消されてしまう。襟裳岬ユピテルヴァージョン(4月9日参照)の凄さを前にすると何も感じさせない。いくら本物のフルートが生きたアレンジでも、あのメロトロンコーラスを幻聴してしまう(汗)。「学園天国」「心もよう」も、最強ヴァージョンと呼べるものが今後紹介する中にあって、それらに比べるといまいち。やはり、メロトロンっていいねという印象が全てを支配する、そんなアルバム。

 

コロムビアにはこちらの「くちなしの花」もありますからね。4年早いリリースですが。

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川崎幸子・敏子「くちなしの花」