黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その4: 追悼…レスリー・マッコーエン

東芝 TP-50021

ベイ・シティ・ローラーズを歌おう

発売: 1977年7月

 

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ジャケット

A1 オープニング・テーマ「威風堂々」~ロックン・ローラー

A2 ベイ・シティ・ローラーズのテーマ

A3 恋をちょっぴり

A4 想い出に口づけ

A5 バイ・バイ・ベイビー

A6 ロックン・ロール・ラヴ・レター

B1 恋のゲーム

B2 二人だけのデート

B3 ラヴ・ミー・ライク・アイ・ラヴ・ユー

B4 ひとりぼっちの十代

B5 マネー・ハニー 

B6 朝まで踊ろう

B7 サタデー・ナイト

 

演奏: タータン・チェック・ローラーズ

編曲: T. Yano (矢野立美)

定価: 1,800円

 

アーティストの訃報を聞くと、無意識に追悼モードに入らざるを得なくなるのがWEB好き者の習性ですが、まさか第1号がレスリー・マッコーエンになるなんて。元々歌謡フリー火曜日のラインナップとして準備していた1枚ですが、急遽繰り上げ。と同時に、このブログで「カラオケ・レコード」が冠されたアルバムを紹介する数少ない機会の最初になってしまいました。

「歌のない歌謡曲」とカラオケ・レコードの境界線、及びその歴史について詳しく語る機会は、より歌謡曲色が濃いアルバムの時に譲るとしますが、本作が出た1977年は、レコード業界全体としてはカラオケ:歌無歌謡の比率が最早8:2程度になっていました。カラオケを楽しむ手段は、スナックもしくは自宅でレコードもしくはテープ(カセットに加え、ホームユース用の8トラックプレイヤーも普及。ダイナマイトのような形態のそれを持っていた方もいらっしゃるでしょう)に合わせて歌うことに限定されていたのです。LDや通信カラオケ、カラオケボックスは、まだまだ先の話。

東芝EMI(当時)もそのトレンドに乗っかり、7月を皮切りに「カラオケ・ベスト・シリーズ」を大量に発売。その第一回発売に、演歌、ニューミュージック、GS、加山雄三、軍歌、民謡などとともにラインナップされたのが、当時の東芝の超トップ・プライオリティ洋楽アーティストだったベイ・シティ・ローラーズの曲を集めた盤でした(ビートルズの盤は、9月になってから発売されている)。そこまで「社会現象」だったんですよ。

5月発売されたばかりの最新曲で、オリコン総合シングルチャートで7位にまで達するヒット(意外にもTOP10入りしたのはこの曲のみ)となった「恋のゲーム」までの代表曲を網羅した内容で、何よりも若い女の子を主とするファンのことを優先的に考えた親切な作り。まず耳につくのは、リード・メロディの音量が比較的に大きいこと。これはカラオケ・レコード一般からするとあり得ないことですが、逆説的に考えればイージーリスニングとして「聴ける」度が高まるわけで。曲によっては原曲キーのものもあり、原曲から逸脱したキーのものもあり(特に肝心の「サタデー・ナイト」が歌いづらい。お囃子も入ってないし)で、女の子の声域を考えての配慮なんでしょうか。主旋律を奏でる音も、カラオケの主流である淡白なシンセからトランペット、サックスなど「合わせづらい音」まで多彩。やはり、作る側のメンタリティは「歌のない歌謡曲」から逸脱してなかったのかも。

リード・メロディが必要以上に気になるとはいえ、ローラーズに相当近づいたガチな演奏で、ノリにノリながら歌えます。歌謡曲脳で考えると、ピンク・レディーのファーストアルバム『ペッパー警部』のB面でカバーされた曲のうち「エンジェル・ベイビー」を除いた5曲が全て入っているし、郷ひろみ「バイ・バイ・ベイビー」やJ.J.S.「サタデー・ナイト」、ローズマリー「ラブ・ミー・ライク・アイ・ラブ・ユー」なんかも親しんだ日本語歌詞で歌えますよ(歌詞カードには記載されてないけど)。やっぱフォー・シーズンズを聴き慣れた耳には「バイ・バイ・ベイビー」のコーラスがアレに聞こえてしまいますが…(汗)。のっけから「威風堂々」を挿入するなど、雰囲気作りも満点。

このレコードの発売後シングルカットされた「ハートで歌おう」が入っていないのが惜しいけど、この曲を歌いながら涙に咽ぶ元少女達も今そこここに溢れてるのではないでしょうか。謹んで、レスリーのご冥福をお祈りいたします。

 

宗内の母体による、個人的歴史に基づいたレスリー追悼文はこちら

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