黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1968年、今日の1位は「銀河のロマンス/花の首飾り」(4週目)

ポリドール SMP-2034 

ゆうべの秘密 蒼い夜のテナー・サックス

発売: 1968年9月

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ジャケット



A1 盛り場ブルース (森進一)

A2 恋のしずく (伊東ゆかり) 🅱

A3 伊勢佐木町ブルース (青江三奈)

A4 花と蝶 (森進一)

A5 星を見ないで (伊東ゆかり)

A6 誰もいない (菅原洋一)

A7 白夜の騎士 (ザ・タイガース)

B1 ゆうべの秘密 (小川知子) 🅱

B2 涙のかわくまで (西田佐知子) 🅱

B3 愛の園 (布施明)

B4 星になりたい (佐良直美) 🅱

B5 天使の誘惑 (黛ジュン)

B6 白鳥の歌 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)

B7 花の首飾り (ザ・タイガース) 🅱

 

演奏: シル・オースチン (テナー・サックス)と彼のオーケストラ

編曲: 無記名?(付属物紛失により調査不能)

定価: 2,000円

 

歌のない歌謡曲の世界は、何故か名うての海外ミュージシャンを多数引きつけたようで、サム・テイラーを筆頭に、クロード・チアリからブーツ・ランドルフまで…勿論、二つの世界を自由に往き来したベンチャーズの大成功が引き金となったのは確実だが、それだけ歌謡曲のメロディーに魅力があったという証しだろう。当然、海外のミュージシャンの器の大きさと、それを受け入れる日本のレコード業界の度胸のデカさ、両方とも今じゃ想像できないスケールだったろうし…

本盤の主役、シル・オースチンは、それこそ海外での知名度からすればサム・テイラー以上に大物かもしれない。50年代にジャズ界からポップス系イージ-・リスニングへと越境(今で言う「スムーズ・ジャズ」的展開?)、時にシングル・ヒットも放ちつつ主にアルバム市場で活躍。日本でも多くのレコードが紹介された。60年代末期には古巣マーキュリーを離れSSSインターナショナル・レーベルに所属。このレーベルとのコネクションで日本グラモフォン(後にポリドール→現ユニバーサルミュージック)からレコードが紹介されることになり、サックス・ムード隆盛な歌のない歌謡曲市場に食い込むというわけである。

少なくとも3枚確認されているポリドール盤アルバムのうちのひとつで、演歌からGSまで68年のヒット曲に果敢にタックル。過剰にムードを押し出さず、ジャズにルーツを持つ的確なメロディーさばきに時折強烈な個性を加えてみせる、実に親しみやすい演奏。バックのオケは確実に日本制作と思われ、当時のポリドールの国内制作レコードのほぼ全てで叩いたと言われる原田寛治特有のドラムフィルも、そこここに顔を出す。「盛り場ブルース」のドライな女性コーラスとか、決して本場の音では聴けません(汗)。サックス奏者のレコードでは必殺技として頻繁に使われる「2番から転調」も実にスムーズに聴かせるし、これぞ芸人魂。伊勢佐木町ブルース」の喘ぎ声には笑うしかないが、これはサービスもの。ザ・タイガース「白夜の騎士」は敢えてB面というレア選曲で自社の意地を感じさせる。肝心のA面曲「シー・シー・シー」の歌無盤、今のところテイチクのコンピCDに入っているもの以外手許にないんです…(汗)。今日のテーマである「花の首飾り」(先日亡くなったレス・マッコーエンもカヴァーしてましたね…)も両A面扱いとはいえ、当時のグラモ的に言えば「S面」で結果的にこっちの方が大きなヒットになったわけで。個人的ベスト・トラックは、ハワイアン的乗りに隠れたアーバン性を浮き彫りにしてみせる「天使の誘惑」。最後の方で見せる本音に思わずドキッとさせられる。