黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その6: 日本のメロディー

コロムビア KW-7510

日本の郷愁 ベスト・コレクション

発売: 1973年9月

 

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A1 夕やけこやけ

A2 赤とんぼ

A3 七つの子

A4 おぼろ月夜

A5 さくらさくら

A6 浜辺の歌

A7 故郷

A8 待ちぼうけ

A9 中国地方の子守唄

A10 野バラ

B1 早春賦

B2 月の砂漠

B3 この道

B4 宵待草

B5 里の秋

B6 荒城の月

B7 花

B8 あわて床屋

B9 砂山

B10 からたちの花

 

演奏: コロムビア・ミリオン・ポップ管弦楽団

編曲: 無記名

定価: 1,500円

 

たまにはポピュラーと趣を変えて、童心に戻れる「愛唱歌」のイージーリスニング化を。こういうレコードの良さも、こんな時代になってやっと解ってきたというか、きっかけなんてどっから巡ってくるかわからないもんね。そもそも、歌無歌謡のレコードをジャンクヤードから拾い集めるにあたって、複数枚買うとディスカウント価格になるというチャンスに巡り会った時、帳尻合わせに童謡のレコードを入れて、「ただ単にエロジャケ集めてんじゃねーぞ」という意地を見せたりして…いや、それじゃ余計変態か。といっても、真剣に童謡に取り合おうと思ったきっかけは、僚友のひとりがDJイベントで流した、米国ヒップホップの異端Edanによる、「ふたあつ」を大胆にサンプリングした怪作 “Sing It, Shitface” を耳にして衝撃を受けたことで、それこそ最初の頃は「ふたあつ」を収録した盤を重点的に買っていたり(汗)。そんな過程で、クラウンが70年代末に出していたカラーレコードの童謡シリーズが無意識に集まってきたり。そのシリーズの1枚、ゴダイゴの「ビューティフル・ネーム」をカバーした盤がもしどっかのリサイクル店から姿を現したら、多分その場で10cmほど飛び上がりますよ(爆)。あと、自分でフルートを吹き始めて、あらゆる世代の方々と音楽的交流を深めるにあたって、その辺の曲をもっと知っておかなきゃという思いに駆られたのも大きいし。

前置きが長くなりましたが、今日紹介するのは、コロムビアが廉価盤ベストセレクションの1枚としてリリースした、日本の愛唱歌イージーリスニング化作品。それまでに出ていた数枚のアルバムから曲を集めてコンピレーション化したもので、よってアレンジャーのクレジットがない不親切な仕様(その割に解説はしっかりしている)。どうやら東海林修氏がその大半を手掛けているようだ。

はっきり言って、これは名盤すぎます。決して硬い表情にならず、頬を緩ませながらおなじみのメロディーに耳を傾け、時折途轍もない感傷的想い出が蘇ってくる位の郷愁ムードに包まれる。1曲目、「上を向いて歩こう」のような軽快さで「夕やけ小やけ」が始まると、家へ帰るムードもどこへやら、うきうき紀行の始まりだ。マジカルなアレンジが僅かな時間の間に雑多な風景を見せてくれる。「風の谷のナウシカ」のようなイントロで始まる「赤とんぼ」、恋に落ちるとカラスが鳴くのと教えてくれるような「七つの子」、セルメン並みのペースで花咲かせまくる「さくらさくら」と、快演が目白押し。ジェームス・テイラーのようなイントロで始まり、途中「サムシング」や「美しき人生」のニュアンスまで加わる「待ちぼうけ」が前半のクライマックス。後半では、不思議なサイケ感覚からシュールな異世界へと吸い込まれる「月の砂漠」ノベルティ感覚に包まれた「あわて床屋」に導かれ、まるでワーナー・ビートニックスがやりそうなハードなロックに生まれ変わった「砂山」が最大の聴きもの。決して妙な方向に行きすぎず、コンテンポラリー感覚を適度に活かしたナイスな流れで、情緒教育にも最適ですよ。意外と手に入りやすいし。当時の学校の音楽室の常備アイテムの一つだったんだろうなと想像できます。

 

郷愁ムードとはまるで無縁の問題作(笑