RCA JRS-7283
恋する夏の日 さわやか!! 最新ヤングヒット
発売: 1973年9月
A1 恋する夏の日 (天地真理) 🅱
A2 避暑地の恋 (チェリッシュ)☆ 🅱
A3 情熱の嵐 (西城秀樹) 🅱
A4 危険なふたり (沢田研二) 🅱
A5 草原の輝き (アグネス・チャン) 🅲
A6 夕顔の雨 (森昌子)☆
A7 恋にゆれて (小柳ルミ子) 🅱
B1 裸のビーナス (郷ひろみ) 🅲
B2 燃えつきそう (山本リンダ)
B3 恋人時代 (堺正章)☆
B4 森を駆ける恋人たち (麻丘めぐみ) 🅲
B5 君の誕生日 (ガロ) 🅱
B6 傷つく世代 (南沙織) 🅱
B7 赤い風船 (浅田美代子)☆ 🅱
演奏: 森ミドリとレモン・ポップス
編曲: あかのたちお、森ミドリ(☆)
定価: 1,800円
「エレクトーン」はヤマハ製電子オルガンの商品名ですが、ヤマハ以外のメーカーとの連帯力を強めたいレコード会社も当然あったわけで、親会社が電子オルガンを作ってたビクターはまさにその代表。横浜スタジアムのバックスクリーン近くに設置されていたことでお馴染み「ビクトロン」がその商品名で、その普及大使的存在に君臨していたのが森ミドリさんだ。自らのラジオ番組も持ち、一部ではアイドル的人気も高かったお嬢さん。当時は日本ビクターの直系レーベルだったRCAから4枚のアルバムをリリースし、他のレーベルにも数枚録音を残している。今やRCAの発売権がビクターではなく、ソニーにあるというのが皮肉なものだが(ソニーはエレクトーンの重要なサポーターの一つであった)。
さて、「さわやか」というのは70年代初期の重要なキーワードの一つ。プロボウラーの中山律子さんがその立役者であることは言うまでもないが、ここでの森ミドリさんはさしずめ「音楽版中山律子」というか、軽いフットワークで駆け抜けるイメージ。当時のヤングスターのヒット曲をずらり、軽快なアレンジでこなしまくる。楽譜と軽いアドバイスも添えられていて、実践派にも優しい(主旋律のみの記載なので、各自自由にアレンジできる特権も与えられるというわけ)。当然ジャケットはご本人登場。以下、聴きどころ。
トップはさわやかさの象徴みたいな「恋する夏の日」。緻密に組み上げられたバックのアレンジも爽快そのもので、きらびやかな音色が冴える。減衰音系の冴えはエレクトーンを凌ぐと言ってもよく、この種の曲には持ってこい。と思いきや、2曲目で劇的な展開を見せる。バンドサウンドが消え、ビクトロンだけの伴奏に彼女自身と男性1名による歌声が乗る「避暑地の恋」。海辺の効果音も加わりシュールな展開。歌詞を歌わないボーカルはサービス以外の何でもないが、制作者の萌えのツボが伝わってくる(爆)。続く「情熱の嵐」から通常モードに戻るが、回転スピーカーの低音の震えが集音の負担になってるようで、その辺は当時の録音テクノロジーの限界を露呈したか。「危険なふたり」もここまでさわやかにこなされた例は他にないし、乙女度の高い曲では個性全開。「夕顔の雨」では多重録音のビクトロンのみで長閑に聴かせ、クラウン時代に残した愛唱歌集を思い起こさせる。
B面はさらに楽しそうに盛り上げる外野の声が入った「燃えつきそう」や、いずれも疾走感たっぷりの筒美曲3曲を経て、ラスト「赤い風船」に辿り着く。こちらも「避暑地の恋」と同様の作りになっているが、こちらの方がシュールでかつ萌えること必至(汗)。オリジナルがオリジナルだけに、彼女の色の加え方にも相当の工夫が窺えるが、ボーカルだけは仕方ないと言ったところ…その辺をカバーするように、エンディング近くに鳥のさえずりが加わり始め、ピンク・フロイド『ウマグマ』さながらの世界。これもまた、歌無し歌謡の「番外編」的な美学。続いて出されたシリーズ第2弾に、この歌詞なしボーカル路線が含まれなかったのが残念(しかし、そこには別の「お楽しみ」が用意されている…)。後に東芝から出した自作曲アルバム『想い出草』では、ふんだんに歌ってくれているのだが。