黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その8: ラブ・サウンド

国文社 SKS-104

ラブ・サウンド

発売: 1976年

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ジャケット



A1 プリーズ・ミスター・ポストマン (カーペンターズ)

A2 遥かなる影 (カーペンターズ) 🅱

A3 そよ風の誘惑 (オリビア・ニュートン=ジョン)

A4 恋はフェニックス (グレン・キャンベル)

A5 ラヴ (ジョン・レノン) 🅱

A6 ミスター・ロンリー (ボビー・ヴィントン)

B1 にがい涙 (スリー・ディグリーズ)

B2 君の瞳に恋してる (フランキー・ヴァリ)

B3 やさしく歌って (ロバータ・フラック)

B4 ふたりの天使 (ダニエル・リカーリ)

B5 いとしのパオラ (アダモ)

B6 愛さずにはいられない (レイ・チャールズ)

 

演奏: ニュー・サン・ポップス・オーケストラ

編曲: T. Akano、N. Aoki、A. Hino

定価: 2,200円

 

72年頃から、「イージー・リスニング」に代わる新しい言葉として定着が計られたのが「ラブ・サウンド。結局定着したのかどうかはよく解らないけど、ポール・モーリアを筆頭とする海外オーケストラのレコードの売り上げは確かに加速したし、ロマンチックなムードとは無縁のはずの学校の放送室のレコード棚にも好んでそれらのレコードが置かれて、昼食や掃除の時間の雰囲気作りに大いに役立った。当時の「歌のない歌謡曲」に特有な俗っぽさが希薄なことが、これらの人気を加速した最大の原因だったのではないだろうか。

と言っても、サウンド的に73年以降の歌無歌謡に海外のオーケストラが絶大な影響を与えたことは確実だし、それらの再現に果敢に挑んだ日本の楽団もいくつか現れた。76年にスタートした国文社の「ニュームードミュージック」シリーズも、そんな試みのひとつだろう。取り上げる曲も和洋の壁を廃し、いかなるシチュエーションにも対応できるよう配慮が図られている(その割に、ジャケットはアレな路線に徹しているが)。この、タイトルからしてもろ「ラブ・サウンド」という一枚は、その基本哲学をうまく集約したものと言える。そして、歌無歌謡を聴き尽くした耳で聴くと、確かに面白い。単なる雰囲気作り音楽に終始していない、耳をくすぐる要素が満載。

「プリーズ・ミスター・ポストマン」ビートルズを経てカーペンターズの曲として当時市民権を得ていたが、上出来のオープニング。カーペンターズより更にテンポを速め、ビートルズのLPを45回転でかけたのに近いとこまで来ているが、ここまでやられると宗内の脳内には、この曲とコード進行を共有する「呼び込み君No.4」のメロディーがこだませずにいられなくなるのだ(爆)。まさに呼び込み効果を誘発するラブサウンド!続く「遥かなる影」は、エレガントな表の顔の後ろにメロトロンが分厚く入っている。決して出しゃばらないところに不吉な影を忍ばせる絶妙なテクニック。「恋はフェニックス」はディスコ的解釈でモダン化。「ラヴ」は本物のフルートが左側に、メロトロンフルートが右側に配されデュエットという、あまりにも斬新な試みを聴かせる。イージーリスニングファンにとってはマストアンセムミスター・ロンリーでA面はおしまい。

「にがい涙」はスリー・ディグリーズに筒美京平が書き下ろした曲。忠実なアレンジ故、これは「歌のない歌謡曲」扱いにしていいでしょう(汗)。76年の段階で「君の瞳に恋してる」を取り上げるというセンスも凄い。82年にボーイズ・タウン・ギャング盤がヒットするまで、この曲は日本における市民権を獲得してなかったはずである(レターメンのシングルB面でメドレーとしてカバーされていたが)。例の箇所に来ると、やっぱやっちゃいけないことをついついやっちゃいますね(フーってやつ…爆)。と同時に、この曲も「呼び込み君No.4」にかすかな影響を与えてると思い知る。「ふたりの天使」も、忘れられがちだけど当時のラブ・サウンド・ブームの中では代表的な一曲。最上由紀子の「初恋」のイントロは、この曲のそれに影響を受けていたのか…全体的にソリッドなリズムが強調されているおかげで、ある程度の緊張感が保たれ、かつ疲れることなく聴ける。

いろいろと甘酸っぱい思い出が蘇ってくる1枚だけど、国文社の枠組にはめられると立派に「歌のない歌謡曲」の変種として楽しめるレコード。


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