黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1969年、今日の1位は「港町ブルース」

テイチク SL-1280

ニュー・サウンド・トップ・ヒッツ 港町ブルース

発売: 1969年7月

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ジャケット



A1 港町ブルース (森進一) 🅳

A2 時には母のない子のように (カルメン・マキ) 🅲

A3 君は心の妻だから (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅳

A4 愛の奇跡 (ヒデとロザンナ) 🅱

A5 お気に召すまま (じゅん&ネネ) 🅱

A6 七色のしあわせ (ピンキーとキラーズ) 🅱

B1 夜明けのスキャット (由紀さおり) 🅲

B2 涙の中を歩いてる (いしだあゆみ) 🅱

B3 気まぐれブルース (青江三奈)

B4 初恋のひと (小川知子) 🅲

B5 悲しきタンゴ (ザ・ピーナッツ)

B6 涙の糸 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)

 

演奏: テイチク・ニュー・サウンズ・オーケストラ

編曲: 山倉たかし

定価: 1,500円

 

1969年夏のあの空気を封じ込めたヒット曲セレクション。この時期の曲の歌無し盤はとてつもない数が残されているけれど、山倉たかしアレンジとなれば一味も二味も違うことを期待してしまう。レコードによって平気で芸風を使い分けてしまう山倉氏だけあり、これらの曲を2種類以上聴き比べることにまで屈折したスリルを感じてしまうのであるが…

港町ブルースは一聴してスタンダード的演奏ではあるものの、主役のサックスに執拗に個性を押し付けてしまう山倉ワールド。転調なんかは当たり前、意外な方向にオクターブを飛躍させたりして、それが決して苦し紛れ度を感じさせない。この試練についていけるミュージシャン達の器のデカさに感動せずにいられない。続く「時には母のない子のように」は、オリジナルと一味違う幻想ワールド。翌年手掛ける尾花ミキのドラマティック歌謡「文字のない手紙」のアレンジに、この歌無仕事は多少影を落としていると思われる。「君は心の妻だから」にも僅かにファンシーな粉を振りかけて、単なる歌無歌謡化に終わっていない。かと思えば「愛の奇跡」はちょっぴり下衆な方向に傾けてみたり。「お気に召すまま」は後に『雲にのりたい/魅惑のギター二重奏』(4/2参照)でも再アレンジしているが、やはり両者の印象は全然違う。軽めの涼川サウンドに変貌しているそっちのヴァージョンより、この盤の方が重厚でかつ幻想的だ。

さて、「夜明けのスキャット。予想通り、「こんなにこんなに愛してる」(ちなみにこのアルバムと同月の発売)そのもののサウンドである。この曲から得たものを昇華して、あのマジカルな音構築をものにしたのだろうか。ちなみにBメロ7小節目のコードは変えている(そこだけ減点)。というか、当時参考書となっていた楽譜がそうなってたのだろうか。忠実にやっているヴァージョンもあることはあるのだが…「初恋のひと」は山倉マジック効きまくりのファンシーな出来。「悲しきタンゴ」は完全にジャズに化した大胆なアレンジで、さすが『ザ・モダン・プレイング・メイト』の人だなと脱帽。この2曲がこのアルバムの「山」だろう。