黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1979年、今日の1位は「魅せられて」(9週目)

JACK J-077 

最新ヒット歌謡

発売: 1979年

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ジャケット



A1 おもいで酒 (小林幸子)

A2 OH! ギャル (沢田研二)

A3 おやじの海 (村木賢吉)

A4 きみの朝 (岸田智史) 🅱

A5 みちづれ (牧村三枝子)

A6 北国の春 (千昌夫) 🅲

A7 魅せられて (ジュディ・オング) 🅱

B1 いとしのエリー (サザンオールスターズ) 🅱

B2 蝉時雨 (五木ひろし)

B3 おもいで蛍 (渡哲也)

B4 舟唄 (八代亜紀)

B5 夢追い酒 (渥美二郎) 🅲

B6 忘れてほしい (渥美二郎)

B7 花街の母 (金田たつえ) 🅲

 

演奏: レッド・ポップス・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 1,800円

 

その名を聞くと、特にパチソン好きな方が戦慄に震える「Jack」レーベル。何せ、6年前ネットオークションにこのレーベルから出されたパチソン盤が出品された時、開始価格が30000円だったという信じられない話があるくらいで(ちなみに宗内もそれに該当する盤を過去5年以内に1枚買ったが、当然100円だった…爆)、戦慄させるに値するクォリティは保証されているようなものだ。黒いレーベルもいかにも、70年代末期の怪しい盤ビジネスの象徴的な感じ。この辺のサウンドアライク盤を普通に楽しんでいた人達の生まれ変わりが、現在100均ショップを支えているのだ(爆)。そういうのに5桁出して快感を味わうのって、屈折しまくってますよね。

当然、歌無歌謡やら歌入り歌謡カヴァー盤も何枚も出しており、これはそんな中の1枚。メジャーが出している歌無歌謡のジャケ写は、大抵その手の写真を供給するエージェンシーからレコード会社が「購入」しているのだが、この手のレーベルは明らかに自前で準備しているようで、そこがまた憎めない。原宿あたりで適当に見栄えいい子を拾ってきて、「現物支給」で済ませたような。「現物支給なら、露出はこの程度で勘弁ね」というやりとりとかあったんでしょうか…さて、音の方は…

1曲目、小林幸子を「女帝」たらしめた超大ヒット曲「おもいで酒」(元々はB面だった)。なかなかいい線で滑り出している…が、歌メロのギターが萎縮している。なのに、左側から出ているオブリのギターに、音量的にも負けている…まぁ、カラオケユースも念頭にあるのだろうけど(ストリングスなんてめちゃ重厚。音大生のバイトじゃできない芸当だし、録音もちゃんとしてる)、なら感情をもっと抑えた音色使いをしてもいいじゃないか…と聴いていたら、2番の冒頭で思いっきりベースが間違えてズルッとくる。こんなところで骨格の脆さを露呈しなくていいじゃないか!これこそがJackサウンドなのだ。

ジュリーの「転機」前夜の1曲「OH! ギャル」も演奏はとてもノリがよく、歌いやすい感じになっているのだが、このやる気なさそうなバックコーラスにずっこける。適当に人を集めて歌わせたのだろうか…なら、次の「おやじの海」で「よいしょよいしょ」言わせてもよかったのではないか?多少せこいとはいえ、尺八がめちゃエモい音を出しているのに。間奏のキーボードの音も謎だ。

冒頭3曲だけで相当スペースを使ってしまったが、以後もメジャーではあり得ないせこさを露呈しつつ、所々ずっこけながら快調に進む。「みちづれ」北国の春は控えめにキーボードの音でメロディが入りカラオケ向き。と思えば、「魅せられて」は力が入っているわりにどこかアンバランス。B面は完全に演歌なのに、のっけにいとしのエリーですよ。当時は「最新曲」ですが、末長いスタンダード曲にならなかったら、この配置には笑うしかなかったと思う。それにしてもこれは、酷い(いい意味で)。せこいキーボードのメロは原曲をリズム面でなぞれてないし、バックコーラスも「OH! ギャル」と違ってちゃんとした人達(というか、歌の上手い飲み屋のママ数名、か)を採用してそうだが、故にずれた感覚を露呈している。この名曲のカヴァーを研究している方には、是非外して欲しくない「迷演」。あとの曲は…「蝉時雨」は逆説的にシティポップ扱いにしていいかも。「舟唄」もテンポが落ちる部分でズルッときますね。「夢追い酒」はまたも飲み屋のねーちゃんコーラスに圧倒されます。超ぬる目の燗にくさやが添えて出されそうな、そんなJackサウンドが堪能できる1枚。