黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1973年、今日の1位は「危険なふたり」

クラウン GW-5259

赤い風船 ドラム・ドラム・ドラム

発売: 1973年6月

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ジャケット+盤



A1 傷つく世代 (南沙織) 🅳

A2 君の誕生日 (ガロ) 🅲

A3 森を駆ける恋人たち (麻丘めぐみ) 🅴

A4 恋にゆれて (小柳ルミ子) 🅲

A5 伽草子 (吉田拓郎)

A6 燃えつきそう (山本リンダ) 🅱

A7 引き潮 (奥村チヨ)

A8 学生街の喫茶店 (ガロ) 🅱

B1 赤い風船 (浅田美代子) 🅲

B2 危険なふたり (沢田研二) 🅳

B3 赤とんぼの唄 (あのねのね)

B4 軽蔑 (美川憲一) 

B5 妖精の詩 (アグネス・チャン) 🅱

B6 夕顔の雨 (森昌子) 🅲

B7 避暑地の恋 (チェリッシュ) 🅲

B8 ケンとメリー~愛と風のように~ (BUZZ)

 

 

演奏: ありたしんたろうとニュービート

編曲: 青木望、水上卓也 (A8, B8)

定価: 1,500円

 

今日のポール・マッカートニーを筆頭に、海外の偉大なアーティストの誕生日がしばらく続きますが、構うもんかと歌無歌謡モードで突っ走ります。願わくば、多少ビートルズ要素のあるアルバムを取り上げてもよかったのだけど、来週に先駆けてジュリーの偉大さに祝杯をあげよう、ということで(ちなみに「危険なふたり」はジュリーの誕生日に皮肉にも「君の誕生日」にトップを明け渡したが、その後奪回しさらに2週間1位をキープしている)。

ということでありたしんたろう先生の登場ですが、このジャケット…元々際どくはあるけれど、ジャンクヤードからサルベージしたので状態が悪すぎ、見開きを開けられないという惨状。それでもいいのです、音さえ聴ければ。盤の方はそこまでダメージ受けてないし。1曲目から例のリフを全開させ突っ走る「傷つく世代」ですが、そのリフがピアノで奏でられているのが新鮮なアレンジ。その分、ギターは主旋律で炸裂し、ベースが暴れ回る。4チャンネルの呪縛から解放され、通常ステレオでも充分にシャープなミックスになっているのだ(例のトライデントの卓は、この頃には導入が済んでいたのだろうか?)。「君の誕生日」はクラシカルにエレガントに始まるが、そろそろ「学生街」のフレーズが出てくるかなという辺りでドラムが炸裂。エンディングでテープ編集ミスだろうか、所謂「サザエさん現象」が起こっているのがちょい惜しい(若干ピッチが落ちる、というやつだ)。『琴のささやき』の「雨のエアポート」では、逆に上がっていたのだけど。「学生街の喫茶店は、「君と」の部分を完全に端折っているのが不思議なアレンジだ。すぎやまこういち先生がどう反応するか心配。

「傷つく世代」には付きものの「森を駆ける恋人たち」や「危険なふたり」のような、疾走感溢れる曲もいいのだけど、「恋にゆれて」に代表されるメロウな曲の方が寧ろ聴きもので、この曲ではドラムは小技効きまくり、エレピやパーカッションが高揚感を高めている。「赤い風船」はこの曲の歌無しヴァージョンでも屈指の素晴らしい出来。ドラムがどうのこうの以前に、音の選択、配置共に意表突きまくり。理想的アレンジの一言に尽きる。筒美京平先生に「勝った」という印象を与える歌無歌謡に出会うのは稀である(トリオ盤「ひとりっ子甘えっ子」などの凄さは、また別の位置にあるわけだけど)「赤とんぼの唄」はドラムメインでどう処理するか、という期待を爽やかに裏切ってみせるファンシーなアレンジ(一瞬、ミレニウムの「プレリュード」そのもののフレーズが飛び出す部分があってびっくり)だが、この曲には別のドラマーがとんでもないアプローチをしている…相当先にならないと語りませんが…ラストの「ケンとメリー」(オリジナル・ヴァージョンのドラマーは高橋幸宏である、念のため)はそこまで大胆に手を加えていないが、右チャンネルにさりげなく入っているリコーダーの音が爽やかすぎる。ちなみに、この半年後リリースされた『’73 ドラム・フォーク・ポップス』に収録されたヴァージョンがフルレンスであり、ここでは1分以上短縮されている。そんなこともあるんですよね…

爆走しまくりのドラムから多少守りに入った演奏がむしろ爽快な一枚。少しづつ、内省モードへの突入が歌無歌謡の音作りにも反映され始めたようだ。