黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は美空ひばりさんを偲んで

ポリドール SMR-3031 

紅白歌謡ヒット・メロディー

発売: 1968年12月

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ジャケット



A1 夕月 (黛ジュン)Ⓐ 🅱

A2 ラブユー東京 (黒沢明ロス・プリモス)Ⓐ 🅱

A3 朝のくちづけ (伊東ゆかり)Ⓑ 🅱

A4 愛の香り (布施明)Ⓐ 🅱

A5 涙のかわくまで (西田佐知子)Ⓑ 🅲

A6 ゆうべの秘密 (小川知子)Ⓐ 🅲

A7 薩摩の女 (北島三郎)Ⓒ

A8 恋のロンド (ザ・ピーナッツ)Ⓓ

B1 熱祷 (美空ひばり)

B2 星影のワルツ (千昌夫)Ⓐ 🅲

B3 伊勢佐木町ブルース (青江三奈)Ⓑ 🅱

B4 花と蝶 (森進一)Ⓐ 🅳

B5 愛のさざなみ (島倉千代子)Ⓐ

B6 すてきなファニー (佐良直美)Ⓔ

B7 白鳥の歌 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)Ⓔ 🅱

B8 ひとりにしないで (園まり)Ⓐ

 

演奏: ポリドール・オーケストラ

編曲: 川上義彦Ⓐ、伊部晴美Ⓑ、竹内一朗Ⓒ、道志郎Ⓓ、早川博二Ⓔ

定価: 2,400円

 

ひばりさんの名曲の「歌無歌謡化」は寧ろ、専属作家制度が崩壊して各社が「歌のない懐メロ集」をリリースし出してから本格化した感があり、リアルタイムで取り上げられた曲となると数が非常に限られる。奇しくも、作曲者・原信夫氏が亡くなったばかりで、取り上げようにも手元に市販歌無盤がない「真赤な太陽」は別格としても(黛ジュン問題とかの影響もあり、寧ろ歌有りカバーの方が80年代に至るまで「触れてならない領域」となっていたような)、比較的取り上げられていたと言えるのは、68年の「熱祷」と76年の「さくらの唄」位のものだ。もちろん「川の流れのように」も別格だけれど。歌無歌謡の在り方が変わった後の曲だから当然の話。

そんな「熱祷」をフィーチャーしての、68年度トップ・ヒットを集めて「紅白歌無合戦」を試みたのがこのアルバム。ただ、全体的バランスが「紅」に傾いてるのは仕方ないところ。いくら自社組とは言え、ここに当時NHK出演が問題視されていたタイガースを入れるのは自粛したんでしょうね(解説のブルコメの項に「もう一方の旗頭」と記されているのが思わせぶり)。アレンジャーが5人もいたり、明らかに他のレコードと同じテイクが含まれていたりするので、複数の既発レコードから寄せ集められたのは確実。ギターは伊部さん、サックスは秋本さん、スチールはルアナという、いつものメンツの音。それで演奏者名義が便宜上「ポリドール・オーケストラ」に統一されてたりするから、余計ややこしい。ただ、音的にはバラけた感じはなく、一つの歌無歌謡リサイタルとしてちゃんと聴ける。原田寛治印全開のドラムフィルが随所に顔を出すのが象徴的で、曲によっては「ラリラリ東京」のあの響きが見事に脳裏をかすめるのだ(爆)。

「薩摩の女」にフィーチャーされているのは、例の楽器(!)クラビオリン。これに関しては、丸々1枚フィーチャーされたレコードを紹介する予定なので、詳しくはそちらに譲るとするが、いい感じで進行していた紅白歌無合戦を異次元へと導いている。続くエレクトーンをフィーチャーした「恋のロンド」が爽快な演奏だ。道志郎氏はエレクトーン音盤界の木村好夫的存在ではあるけれど、歌無歌謡レコードとなるといまいち手元に巡ってこないのである…「愛のさざなみ」はオリジナル以上にグルーヴ感が突き出た「使える」演奏。

さて、60年代のポリドール盤は70年代の際どさと裏腹に、モデルの使い方に個性を生かした印象的なポートレイト・ジャケットが多く、これもそのひとつ。この女の子の写真を都合5枚フィーチャーしており、いずれも魅力的な仕上がりになっている。翌年デビューした石坂江理奈ではと思ったが、彼女の個性的なホクロがこのジャケの娘にはないし…この「自前路線」はもっと当たり前になって欲しかったけど、やはり際どい方が「売れた」んでしょうかね、当時は。