CBSソニー 15AH-73
ビートルズ・ヒットのすべて
発売: 1976年
A1 イエスタデイ 🅲
A2 アンド・アイ・ラヴ・ハー
A3 シー・ラヴズ・ユー 🅱
A4 サムシング
A5 デイ・トリッパー
A6 カム・トゥゲザー 🅱
A7 ラヴ 🅲
A8 オブラディ・オブラダ 🅱
A9 イマジン 🅱
A10 レット・イット・ビー 🅲
B1 ミッシェル
B2 抱きしめたい 🅱
B3 フール・オン・ザ・ヒル
B4 ガール 🅱
B5 ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア
B6 マイ・ラヴ
B7 バンド・オン・ザ・ラン
B8 エリナー・リグビー
B9 マイ・スウィート・ロード 🅱
B10 ヘイ・ジュード 🅱
演奏: ファンタスティック・サウンズ・オーケストラ
編曲: 無記名
定価: 1,500円
あの日から、早くも55年…第二次世界大戦が終結した55年後が2000年だったことを思うと、この20余年間の時の流れって一体なんだったんだろうと感慨深くなる。というわけで、「歌謡フリー火曜日」2回目となるビートルズ特集。
76年に一括リリースされたポピュラーのインスト・セレクション・シリーズ「ゴールデン・スペシャル1500」の1枚。このシリーズ、比較的新しい曲は新しめの録音で賄っているようだが(唯一国内曲を取り上げた『なつかしのG.S.ビッグ・ヒット20』では、井上宗孝とシャープ・ファイブを起用し新たに録音を行なっている)、それ以外の曲は過去のソニー録音から拾い集めているようで、録音状態も曲によってまちまち。それらを「ファンタスティック・サウンズ・オーケストラ」名義でひとまとめにしている。天下のCBSソニーさえ、そういうことを平然と行なってよかったんですよ。映画音楽の時は「アンサンブル・プチとスクリーンランド・オーケストラ」名義で統一しているし、歌謡曲の場合は当然「クリスタル・サウンズ」である。ただ、クリスタル・サウンズ名義の初期段階には洋楽をカバーしたレコードもあるので、ちょっとややこしい。
いかにもイージーリスニング然とした「イエスタデイ」に「アンド・アイ・ラヴ・ハー」ときて、「シー・ラヴズ・ユー」は70年代中期モードに寄り添ったポップな演奏。リード・ギターはソニーでは常連のあの人、ジュン・ナンバラだろう。「サムシング」はクラシカルとファンシーが同居したアレンジで、なぜかポールのベース・ラインのみしっかり再現されている。「デイ・トリッパー」はセルメン盤に準じた演奏で、ソニー初期に出された斉藤英美氏のアルバムが初出のはず。オルガンがヒップに先導するが右側で鳴っている音がモーグっぽい感じで謎。「カム・トゥゲザー」はファンキーではあるが、国文社盤ほどぶっ飛んでいないし、「オブラディ・オブラダ」はマリンバが弾けまくる超高速面白ヴァージョン。「イマジン」はオルガンが多重録音で絡み合い、西村ユリあたりの演奏だろうか。
ここまで、イージーリスニングの様々なスタイルで進行したあと、事態は思いがけない方向にぶっ飛ぶ。なんなんだこの「レリビー」は。シンセが変な音出しまくってるし、明らかにこれまでの9曲と異質すぎる。数ある歌なしビートルズの中でも、最も発狂したヴァージョンなのは確実。
実はこのヴァージョンの初出は、冨田勲が「箪笥」を導入して初めて制作したレコードとして知られている『スイッチト・オン・ヒット&ロック』(SOLL-4、72年。なんと英国でもリリースされている)。74年に「トミタ・サウンド」が確立されてからは、頑なに封印され続けることとなった幻のアルバムである。この作品からこの1曲、しかも他にヴァージョンがいくつもあるはずの「レリビー」を取り出した意図はよくわからないし、それに「ファンタスティック・サウンズ・オーケストラ」の冠をかぶせるのもあんまりではないかと。まぁ、確信犯的な行為だとしたら、あっぱれである。
B面もバロック風に魅せる「ミッシェル」とか、フルートが熱演する「ガール」、オリジナルの構成にほぼ準じながら、相対的に緩々な演奏になっている「バンド・オン・ザ・ラン」(唐突なモーグのソロには笑うしかないが)などが聴きものながら、A面をあんな風に締め括られるとどうでもよくなりますね。ビートルズものはもう1枚、さらにゆるゆるながら個人的想い出が伴うものを紹介する予定です。