クラウン GW-3075~6
ささやかな欲望・ふたりの旅路 ビッグ・ヒット歌謡ベスト36
発売: 1975年10月
A1 ささやかな欲望 (山口百恵)Ⓐ
A2 上野市 (西岡たかし)Ⓑ
A3 みれん心 (細川たかし)Ⓒ
A4 夕立ちのあとで (野口五郎)Ⓓ 🅱
A5 あなたを待って三年三月 (森昌子)Ⓒ
A6 昭和枯れすゝき (さくらと一郎)Ⓒ 🅳
A7 白いくつ下は似合わない (アグネス・チャン)Ⓑ
A9 命日 (梶芽衣子)Ⓐ
B1 私は小鳥 (あべ静江)Ⓐ
B2 誘われてフラメンコ (郷ひろみ)Ⓓ
B3 朝刊 (グレープ)Ⓑ
B4 十七の夏 (桜田淳子)Ⓑ 🅱
B5 風の街 (山田パンダ)Ⓒ
B6 北へ帰ろう (徳久広司)Ⓑ
B7 さよならこんにちわ (天地真理)Ⓐ
B8 ロマンス (岩崎宏美)Ⓒ 🅱
B9 やすらぎ (黒沢年男)Ⓒ
C1 時の過ぎゆくままに (沢田研二)Ⓑ
C2 花車 (小柳ルミ子)Ⓐ
C3 絵日記 (チェリッシュ)Ⓓ
C4 22才の別れ (風)Ⓑ 🅲
C5 面影 (嶋崎由理)Ⓒ
C6 人恋しくて (南沙織)Ⓓ 🅲
C7 想い出まくら (小坂恭子)Ⓒ
C8 僕にまかせてください (クラフト)Ⓒ
C9 ふたりの旅路 (五木ひろし)Ⓐ
D1 その気にさせないで (キャンディーズ)Ⓐ
D2 心のこり (細川たかし)Ⓓ 🅲
D3 至上の愛 (西城秀樹)Ⓑ
D4 いつか街で会ったなら (中村雅俊)Ⓒ 🅲
D5 お前に惚れた (萩原健一)Ⓒ
D6 天使のくちびる (桜田淳子)Ⓑ
D7 港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ (ダウン・タウン・ブギウギ・バンド)Ⓓ
D8 旅仕度 (小椋佳)Ⓒ
D9 夜の指定席 (園まり)Ⓐ
演奏: クラウン・オーケストラ/山下洋治と’75オールスターズ (A8、B4、C4)
編曲: 久慈ひろむⒶ、井上忠也Ⓑ、安形和巳Ⓒ、神山純Ⓓ
定価: 3,000円
75年よりクラウンは従来の「オールスターズ体制」を止め、演奏者クレジットを「クラウン・オーケストラ」に統一。79年初頭に至るまで36曲収録の2枚組シリーズを月一ペースでリリースし、歌無歌謡市場の真の支配者として君臨し始める。そのため、新譜が出ると必然的にその前の曲も繰り上げ収録となり、役目を終えた盤はとっととカタログから斬られる羽目になる。毎月36曲も新曲を録音して対応していたら、それこそ狂気の沙汰だろうし、それでもなお「こんな曲がカバーされてたなんて!」と感嘆させる曲が、大抵1曲は含まれているから不思議なものである。
75年初秋の最新曲を中心に、息の長いヒット曲いくつかを交えて構成したこのアルバムにも、そんなクラウンらしさが満載。慌ただしい制作状況故に、今聴くと滑稽に感じる部分が多く露呈してしまい、それが最大の魅力になっている。
最早無敵のトップアイドルとなっていた山口百恵の新曲「ささやかな欲望」で手堅くスタートしたと思ったら、既に中堅フォーク歌手の仲間入りしていた西岡たかしの「上野市」というまさかの選曲がフォローする。彼にしてはスタンダードなフォーク色が強い曲だが、カラフルなアレンジを得てなかなかの聴き応え。「夕立ちのあとで」はミノルフォン盤が傑出していただけに、どうしても比較してしまうが、フルートがアンニュイに響いているのに全体的印象は淡白な感じ。「昭和枯れすゝき」はテナーサックスとフルートがデュオる。最初の1音を1オクターブ上げるという工夫がなされているが、その分一緒に歌うには適していない(汗)。ユーミン作「白いくつ下は似合わない」は女性スキャットが効果的に盛り上げる、ガーリイなアレンジ。わずかにオールスターズ時代の名残がある「シクラメンのかほり」では、スチールの響きにも終末感が。
B面に行くといきなり、チューリップ『無限軌道』収録曲であべ静江がシングルとしてカバーした「私は小鳥」という意外な選曲。オリジナルを踏襲した摩訶不思議なアレンジで、前面に出ている笛の音はケーナ+オカリナっぽいが、リコーダーを特殊な奏法で吹いているという線も。ディストーションの効いたギターの音は、もうちょっとローを絞った方が良かったかも。このディストーション音は「誘われてフラメンコ」や「ロマンス」でも目立つが、後者がこのアルバムの性格を言い表しているという気がする。ヴァイブが「好きなんです」のフレーズを奏でる時、1拍遅れているし、Aメロのオルガン音はチージーすぎ、ディストーションの響きも滑稽の域に達している。Cメロでもコードが噛み合ってなかったりして。まぁ、曲が名曲すぎるので、そんなとこが気になるのも必然になるのですが。一方、「十七の夏」でさりげなくサポートするリコーダーの音がさわやかすぎて、もっと前面にと叫びたくなる。
2枚目も、女性スキャット+ディストーションという組み合わせで秀樹の名曲に神聖感を与えてみせる「至上の愛」や、淳子の曲にしては地味な音色使いが一味違う印象を残す「天使のくちびる」など手堅く進みながら、本盤のヤマ「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」に達する。この曲の歌無歌謡盤、果たしてどのように料理しているのかと不安にさせるが、鮮やかに裏切る。どうやってこんな解釈を考えたのだろう、サウンドドラマ的演出が心憎い。「旅仕度」もスペーシーなオルガンを中心にジャジーな演奏が不思議空間を現出させるなかなかの出来。この余韻を最後に引きずるのに、「夜の指定席」だと役不足だったかも。「面影」で締めた方がよかったと思う。それにしても、この盤のフルートの演奏者が誰か気になるし、リコーダーや他の笛もこの人の演奏なのだろうか。