黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は藤圭子さんの誕生日なので

マイパック DR-0005 

哀愁演歌ベスト・ヒット

発売: 1973年?

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ジャケット



A1 (圭子の)夢は夜ひらく (藤圭子) 🅳

A2 銀座の女 (森進一) 🅱

A3 盛り場ブルース (森進一) 🅱

A4 さいはての女 (藤圭子)

A5 命預けます (藤圭子) 🅱

A6 昭和おんなブルース (青江三奈) 🅲

B1 酔いどれ女の流れ歌 (森本和子) 🅱

B2 ネオン街の女 (藤圭子)

B3 夜の柳ヶ瀬 (カサノヴァ7)

B4 花と蝶 (森進一) 🅴

B5 女のブルース (藤圭子) 🅳

B6 命かれても (森進一) 🅱

 

演奏: TBSニュー・サウンド・オーケストラ/小林潔 (スチール・ギター)

編曲: 無記名

定価: 890円

 

遂に、満を持して登場するダイエーのブランドレーベル「マイパック」。1973年12月に発売開始され、歌のない歌謡曲や通常のイージーリスニング、童謡や愛唱歌のコレクション(歌あり歌なし問わず)、さらに英国のサウンドアライク専門音源制作会社と提携しての洋楽カバー集など、手軽な内容のアルバムを1枚890円という低価格で、テナント内のレコード店や書店で販売。少なくとも38枚のリリースが確認されており、手軽さに惹かれて購入した人も続出したのか、リサイクルショップで見つかる頻度はとんでもなく高い。「パチソン」の類に属する盤があれば、話は別かもしれないが…

さて、このレーベルの音源の出所が謎なのだが、恐らく73年以前、テープでの販売をメインとしていた音源制作会社のために録音された音源が主に流用されているような気がする。その辺を掘り出すとキリがなく、とんでもない迷宮に迷い込むのは確実。のちにエルムやJackのレコードに収録されたのと同じ音源があったり、マキシムやマーキュリーのような「実体のある」マイナーレーベルが出したのと同じテイクがあったり。命に関わる程やばい領域かもしれないので、この辺でやめておく…けど、当時の小売業の大胆な冒険ぶりを思い知らされる。まさに、音楽版「トップバリュ」のようなものである(汗)。

このアルバムに収録されている曲は大半が「ちょい懐メロ」と化していた1970年の作品で、その年を代表するビッグスター、藤圭子の曲を中心にフィーチャー。シングルB面曲「ネオン街の女」まで収録されているあたり、強烈な推しぶりがうかがえる。その割に「夢は夜ひらく」は66年版のスタイルに近いアレンジになっているのだが。サウンド的にばらつきがなく、同じ時期にまとめて録音されたのは明白だが、さすがに「夜の柳ヶ瀬」のアレンジはぶっ飛んでる。オリジナル自体国籍不明な、妙なムードに包まれていたが、インスト版ではさらにその傾向を多角的に推し進める試みが頻出していたようだ。これを「哀愁演歌」の枠に入れると、さすがに際立ちますな。

歌無歌謡のミューズにも愛されまくった藤圭子さん。今や21世紀の日本ポップスを背負って立つ存在の宇多田ヒカルを産み出したその業績を、しみじみ歌無ヴァージョンを聴きながら偲びたいものです。