黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その13: ゴーイング・トゥ・ア・ゴー・ゴー

キング SKK-435

ダンス専科 ゴー・ゴー編 VOL.2 

発売: 1968年

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ジャケット



A1 シーズ・ア・レインボウ (ザ・ローリング・ストーンズ)

A2 デイドリーム (ザ・モンキーズ)

A3 モンキーズのテーマ (ザ・モンキーズ)

A4 マイ・ガール (ザ・テンプテーションズ)

A5 サテンの夜 (ザ・ムーディー・ブルース)

A6 ワン・ツウ・スリー (レン・バリー)

A7 パタ・パタ (ミリアム・マケバ)

B1 マジカル・ミステリー・ツアー (ザ・ビートルズ)

B2 ハロー・グッドバイ (ザ・ビートルズ)

B3 ホリデイ (ビー・ジーズ)

B4 ワールド (ビー・ジーズ)

B5 波 (アントニオ・カルロス・ジョビン)

B6 今日を生きよう (グラス・ルーツ)

B7 デイ・トリッパー (ザ・ビートルズ) 🅱

 

演奏: 鈴木邦彦とビート・ポップス・メン

編曲: 鈴木邦彦

定価: 1,500円

 

70年代までのインスト・アルバムの主流の一つが「ダンスもの」。意外にもディスコ・ブームが本格化する直前あたりまでは、所謂「社交ダンス」も若人の嗜みの一つとされていたのだ。それを証明するように、最新の歌謡曲やポップスに題材を求め、様々なステップで踊れるよう適切にアレンジされたレコードが、かなりの数リリースされており、中でも東芝から発売されていた『今宵踊らん』は、80年代に至るまで20年以上重宝され続けた長寿シリーズとなり、本ブログでもアレンジの妙味に焦点を当て、何作か紹介する予定である。

さて、ライバルのキングが68年リリースしたこのアルバムは、社交ダンスというより後のディスコ・ブームの土台になったと言った方が適切な、当時最先端のクラブ・カルチャー「ゴー・ゴー」に焦点を絞ったもので、当時の最新ポップス・ヒットが14曲取り上げられている。と言えども、「ブーガルー」やら「ウィップ」やら、最新ステップを細分化してそれに乗っかってやろう的な変な色気はなく、あくまでも「日本社交舞踏教師協会」の立場で大雑把に「ゴー・ゴー」を捉えてみました、的感触がいかにも、今で言う「レア・グルーヴ」的概念から隔離していて、それが逆にそそるのである。

アレンジャーとして起用されたのは、当時GSやガールズ歌謡を多数手がけ、最もヒップな作曲家としてクローズアップされた鈴木邦彦先生。それこそ70年代には歌謡界でより広範囲な活躍を見せ、歌無歌謡アルバムにもいくつか関わってはいるのだが、個人的には「隠れ名曲」と呼ぶべき作品に魅せられまくっており、ここではあまり言及しないほうがよさそう。同年開催されたメキシコ・オリンピックの体操競技日本代表の音楽担当にも関わり、フィジカル感覚と音楽との関係を熟知していただけに、ダンス音楽の料理に関しても的確な人選と言える。

1曲目にいきなり当時のキングのトップ・プライオリティ洋楽アーティストだったストーンズの最新曲「シーズ・ア・レインボウ」を持ってきていてびっくり。オリジナルの混沌としたサイケ感覚を薄めつつ、ニッキー・ホプキンスのピアノフレーズをほぼ忠実に再現しているのが凄い。そして、意外にも踊れますよ。続いてはあの「デイドリーム・ビリーバー」モンキーズのテーマ」と、しっかりトレンドを追っています。B面ではビー・ジーズの2曲がグルーヴ感を強めた解釈でなかなか面白い。「今日を生きよう」にはしっかり、合いの手の一声が入っている(果たして誰だ?)。「パタ・パタ」は社交ダンスというより、嫌が上にも運動会を想起させるのは世代の掟でしょうか…パパイヤママイヤ…ラストの、セルメン盤を基準にした「デイ・トリッパー」辺りは、ハプニングス・フォーと並べても遜色ないグルーヴ感の強さで、この流れでは寧ろ異色かも。