黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その14: 音楽?それはもちろん…

テイチク FX-403

ダイナミック・ベンチャーズサウンド

発売: 1971年

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ジャケット



A1 ダイヤモンド・ヘッド

A2 パイプライン

A3 ウォーク・ドント・ラン

A4 さすらいのギター

A5 10番街の殺人

A6 太陽の彼方 🅲

B1 キャラヴァン

B2 ワイプ・アウト

B3 アウト・オブ・リミッツ

B4 バンブル・ビー・ツイスト

B5 ドライヴィング・ギター

B6 レッツ・ゴー

 

演奏: ザ・サウンド・スピリッツ

編曲: 鈴木義夫

備考: RM方式4チャンネル・レコード

定価: 2,000円

 

本来ボブ・ボーグルの命日の翌日に語るはずだった、本家ベンチャーズサウンドに新たな側面から取り組んだアルバム。一部アイテムが大騒ぎの対象となっている70年代初期テイチクの実験的シリーズの1枚。あくまでも4チャンネル・サウンドのダイナミズムを伝えることを念頭に置いていて、そこまでカラフルなサウンド演出はされてない代わりに、これでもかとギターの大群が押し寄せてくる。楽曲的にはベンチャーズのレパートリーを素材にしつつ(「太陽の彼方」は便宜上選ばれたという感しかないが)、4チャンネルの四隅にそれぞれ違った個性を放つギターサウンドを配置。その録られ方もスタジオの響きを生かしたというより、アンプの出音をそのまま伝えるという感じで、故に通常のステレオで聴くとアンバランスに感じる箇所も多い。ベースとドラムがポジション的に固定してるので、余計そう感じるのかも。当時のドラムものに顕著だった、ドラムサウンドに実験的空間演出が生かされている曲もわずかにあるが(肝心のワイプアウトがそうじゃないのが惜しい)、ひたすらあっちでもこっちでもギター、ギター、ギターの応酬。オープニングの「ダイヤモンド・ヘッド」ひとつとっても、オリジナルの雰囲気を踏襲したリードプレイを、時代らしく若干ディストーション気味のリズムギターが支え、さらに当時ならではのニューロックオブリガートのギターと、もう一本地味に響くリズムギターが鳴っている。それら全てを違うポジションに配しているのが、いかにも4チャンネルですという感じ。ウルトラヴォックスの「ニュー・ヨーロピアンズ」を予見したような中間部が付け加えられているのにも工夫が窺える。続く「パイプライン」も必要以上にハードなサウンドに変容していて、エンディングでこれでもかと大爆発する。ラストの「レッツ・ゴー」では、アンプに密接したマイクがミュージシャン達の歓喜の叫びを微かに拾いまくり、実にエキサイティング。この頃は専ら歌謡曲との親和性しか語られていなかったベンチャーズのロックな一面を剥き出しにするという点で、まさに天晴なアルバムだ。

ところでライナーで指摘されている「アウト・オブ・リミッツ」ベンチャーズ盤が「63年にしてピンク・フロイドに通じるサウンドを出していた」件。ここで聴けるヴァージョンはそれを立証するようなアレンジになっているのは解るとしても、なんか腑に落ちないという感じ。確かに「星空のドライヴ」あたりに通じているなという感はあるが、それを言うならスパイダースの「トワイライト・ゾーン」の方が遥かにサイケだし、プログレ感さえあるのではないかと。いずれにせよ、ベンチャーズを縦軸にインスト・ロックを語ってみると、色々と新しい発見があったりして。ベンチャーズ歌謡だけ語ってもしょうがないのですよ、このブログでさえもね。