黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

追悼・村木賢吉さん

ユピテル YL-2131~32 

決定盤・有線演歌全曲集

発売: 1979年

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ジャケット



A1 男の哀歌 (千昌夫)

A2 ゆきずり (細川たかし)

A3 新宿・みなと町 (森進一)

A4 港夜景 (細川たかし)

A5 命燃やして (石川さゆり)

A6 抱擁 (箱崎晋一郎)

A7 水割り (牧村三枝子)

A8 涙の朝 (八代亜紀)

B1 女だから (八代亜紀)

B2 おもいで酒 (小林幸子) 🅱

B3 よせばいいのに (敏いとうとハッピー&ブルー)

B4 忘れてほしい (渥美二郎) 🅱

B5 舟唄 (八代亜紀) 🅱

B6 虫けらの唄 (バーブ佐竹)

B7 歩 (北島三郎)

B8 あきらめワルツ (内山田洋とクール・ファイブ)

C1 おまえとふたり (五木ひろし)

C2 意気地なし (箱崎晋一郎)

C3 おまえとおれ (杉良太郎)

C4 おやじの海 (村木賢吉) 🅱

C5 女・ひとり (秋庭豊とアローナイツ)

C6 ぬれて横浜 (黒沢明ロス・プリモス)

C7 別れても好きな人 (ロス・インディオス&シルヴィア)

C8 故郷へ (八代亜紀)

D1 いたわりあい (増位山太志郎)

D2 みちづれ (牧村三枝子) 🅱

D3 夢追い酒 (渥美二郎) 🅱→4/23 (全尺版)

D4 他人船 (三船和子)

D5 花街の母 (金田たつえ) 🅱→4/23 (全尺版)

D6 ひとり酒 (ぴんから兄弟)

D7 蝉時雨 (五木ひろし) 🅱

D8 北国の春 (千昌夫) 🅱→4/23 (全尺版)

 

演奏: ユピテル・グランド・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 2,500円

 

「おやじの海」のメガヒット(1979年、オリコン最高5位)で知られる村木賢吉さんの訃報が、昨晩伝えられました。享年88歳。6月19日に息を引き取られたそうです。

アーバンもしくはニューウェイブな風が吹いていた1979年にしては、ピュアすぎると呼んでも過言ではない音作りの演歌の大ヒットは意外かもしれませんが、演歌自体が今からは想像できない高波に乗っており、大ヒットが出まくってた時期であり、幅広い世代にアピールできる楽曲が相次いで歌番組を賑わせました。そこに食い込んできたのが、その7年前既に自主制作盤として世に出ていたこの曲。この「インディーズ・ヴァージョン」は当然より世間離れした響きをしており、後年湯浅学氏監修によるコンピ『男・宇宙』でメジャー発売された他、2015年にはこれを制作したレーベル『直島ミュージックスタジオ』のアンソロジーCDも発売されるなど、再発見現象が起こっています。それにしても、メジャーヒットした時の村木氏の年齢、現在のMAKIDAIやaikoと一緒だったとは…

 

演歌好きの父が早々と発見したこの曲、時流に逆った音作りで好奇心旺盛だった自分のアンテナにも即引っかかりましたが、こうして歌無歌謡探究に勤しんでいる中、その頃の記憶が蘇るのも当然の成り行き。79年のヒット曲を集めたJack盤『最新ヒット歌謡』に収められていたヴァージョンは、マイナーレーベル故オリジナルのピュアな音に無意識に肉薄していたものの、サウンド的特色の一つ「よいしょ、よいしょ」の掛け声が、一つ前の曲「OH! ギャル」に間抜けなコーラスが添えられたにもかかわらず、オミットされていました(6月11日参照)。同じように79年のヒット曲を集めたこのユピテル盤のヴァージョンには、ちゃんと入っています。勇ましい感じで連呼してるのがかえって微笑ましいですが、キーが変えられており、1コーラス目はこの手の曲には珍しく、フルートで演奏されています。所々尺八っぽい節回しになっているものの、ラブリーな響きは掛け声とアンバランス。しかし、どちらかというとモダンなサウンドの演歌曲が19曲続いたあとだと、かえってフレッシュな印象が。

モダンなサウンドといえば、このアルバムのトップの「男の哀歌」、イントロからピンク・レディー「サウスポー」も顔負けのシンドラムが炸裂。134週もチャートインしたメガヒット「北国の春」の影に隠れ、忘れ去られてしまった曲ですが、発売当時聴いて呆気にとられたことを思い出しました。演歌界と言えど、実験の舞台にも大いに成り得たのです。B面ではキダ・タロー先生作曲による「虫けらの唄」の清涼感が貴重。バーブは70~80年代には目立つヒットに恵まれませんでしたが、80年代には67年のB面曲「青いゴムゾーリ」がカルト曲として再注目を浴びたりしています。

C面は木村好夫先生渾身のペンによる大ヒット「おまえとふたり」からスタート。左側で聴こえるギターは作曲者本人でしょうか。山内喜美子さんかもしれない京琴や、尺八的フルートも動員してのリスペクトあふれるアレンジです。それ以上に耳を引くのが「別れても好きな人」。60年代以来スリーパー的に歌い継がれていたこの曲が、ロス・インディオス&シルヴィアによって突如大ブレイク。そのヴァージョンを基調にしたアレンジですが、全体を彩るケーナ的な音色に爽やかさを感じます。間奏の速吹きは、本物のケーナだとめちゃやりづらそうだし、やはりリコーダーなのかな…頭部管だけ改造したとか。おなじみの曲がずらっと並ぶD面。「夢追い酒」は場末感濃厚で酔いそうな演奏ですが、Jack盤のねーちゃん達のコーラスが愛しくなります(汗)。「他人船」ミノルフォン極初期のリリース曲でしたが、この時期遠藤実ブームに乗って見事に復活した曲です。実にアーバンな「蝉時雨」とど定番北国の春でお開き。色々と感慨深くなってくるこの演歌のコンピに、このジャケットはないでしょう…それがまた、ユピテルのカラー。アレンジャーの顔が見えなくて残念ですけど。村木さん、安らかにお眠り下さい。

 

追補: 4月23日紹介した『夜の盛り場演歌全曲集』と重複する3曲は、この盤では短縮ヴァージョンで収録されていました。