黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は大滝詠一さんの誕生日なので

ユピテル YL-1023

マスター・オブ・ポータサウンド

発売: 1981年

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ジャケット



A1 ルビーの指環 (寺尾聰) 

A2 君は天然色 (大滝詠一) 

A3 恋のハッピーデート (ノーランズ) 

A4 パープルタウン (八神純子) 

A5 ダンシング・クイーン (ABBA) 

A6 想い出の渚 (ザ・ワイルド・ワンズ) 🅱

A7 ランナウェイ (シャネルズ) 

A8 スモーク・オン・ザ・ウォーター (ディープ・パープル) 

B1 シャドー・シティ (寺尾聰) 

B2 春咲小紅 (矢野顕子) 

B3 ひとり上手 (中島みゆき)

B4 ダンシング・オールナイト (もんた&ブラザーズ) 

B5 順子 (長渕剛)

B6 異邦人 (久保田早紀) 

B7 ライディーン (イエロー・マジック・オーケストラ) 

B8 黄泉の国へ (プライベート・ドクター) 

 

演奏/編曲: 川島裕二

定価: 2,000円

 

さて、迎えた「ナイアガラ記念日」だ。一体このブログで何をすればいいのだ(ちなみに来年3月21日は、普通に「加藤和彦さんの誕生日」で行きますとも!ネタバレ!)。『今宵踊らん』シリーズに「探偵物語」「Tシャツに口紅」「冬のリヴィエラ」がそろって収録されている盤があることは既に触れたし、「冬のリヴィエラ」は普通に歌無演歌のアルバムに入っている例も多そうだけど(「熱き心に」も)。かえって『ロンバケ』収録曲をリアルタイムで取り上げた盤が手許に2枚あることが驚異的に思えるのだ(いずれも、所謂「オーケストラもの」ではないが)。そんなわけで、今日はその片方を選んでみました。

歌のない歌謡曲として扱うには異端すぎる本盤は、寧ろ「実演推進盤」と呼ぶべきもの。70年代までありがちな「フォーク・ギター入門」(と謳いながら、取り上げている曲の多くは最新フォーク・ヒット曲というやつ)みたいなのの延長線上にあるものだ。70年代末期に勃発したテクノポップ・ブームをきっかけに、電子キーボード界が一気に足取りを軽くする傾向に突入し、大ヒットしたカシオ計算機の「カシオトーン」に続けと、ガチメーカーの本家ヤマハ「ポータサウンドを市場に送り出したのは1980年のこと。このアルバムは、そのデモンストレーション盤のようなものである。最新ヒット曲を軸に懐メロまで交えて、このキーボードで何ができるかを極限まで突き詰めたもので、他の楽器によって発された音は一切入っていない(勿論、オートリズムを除くと自動演奏的な要素も一切ない。MIDI登場は本盤発売とほぼ同時期で、一般化はまだまだ先のこと)。セッティング図、コード譜(歌詞まで!)、簡単なアドヴァイスまで添えられており、MTRを使用しての多重録音から、複数の楽器を持ち寄ってのアンサンブルまで、幅広く応用できることを謳っているが、その割に相当トリッキーな技を使って音が構築されており、「スイッチト・オン」シリーズの如き偏執狂的な姿勢さえ伝わってくる。イージーリスニングにするには、かなりの変わり種だ。 

ルビーの指環はなんとなく雰囲気の近いプリセットリズムに乗せて主旋律を奏でるという基本ユースのお手本のような感じで、イントロとしてはちょうどいいけど、この洗練感を一発演奏で出すのは実に難しそう。2曲目に早くも君は天然色が登場。こまめにリズムを切り替えて、エコーやら謎の音も駆使しての「ナイアガラ的」雰囲気作りが醸し出されているけれど、好き者としては原型通り、Bメロを転調して弾いてみたくなるんだよね…それって結構難しいのだけど、それを知らない人にとってはこのエンディングは「謎」だったんだろうな。「ダンシング・クイーン」ではなんとストリングスの音を11回重ねるという荒技が使われていることが明記されているけど、その繊細な音と倍速で使用されているオートリズムの滑稽さの対比が何とも言えない。GS、オールディーズと何でも来いの姿勢を見せた後、一気に激化しての「スモーク・オン・ザ・ウォーター」ディストーションかましての反則技、自分もカシオトーンしかない時代に、よくやりました(瀧汗)。この曲の当ブログ登場はこれが最後ではありません…(しかも、火曜日ではないという)

こんな風にめちゃ楽しく実践例を並べられて、挙げ句の果てにお約束のライディーンまで持ち出された後、最後に実験的トラックが登場。恐らく本ブログで紹介する唯一の「カバーではない曲」だと思われるが、エフェクターに関する理解がないと何が何だかわからないトラックである(汗)。「君は天然色」に顔を出した謎の音の正体は、「電源スイッチをon/offする音」であることが、このトラックを聴いてわかる仕組みになっているのだ。さすが、この辺は編曲/演奏者のセンスの賜物としか言えない…敢えて、この方がその後のJ-pop界に果たした音楽的功績に対してここで触れるのは避けることにしておきますが…というかこのアルバムが黒歴史なんでしょうね(瀧汗)。