黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その17: 真夏の夜はフィーバー

Camel C-57

ディスコ・スタンダード

発売: 197?年

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ジャケット



A1 運命’76

A2 煙が目にしみる

A3 恋はみずいろ’76 🅱

A4 踊りあかそう

A5 サニー 🅱

A6 ムーン・リヴァー 🅱

A7 反逆のテーマ

B1 サンフラワー’76

B2 ソウル・トレイン’76

B3 ナイト・アンド・デイ

B4 ラストダンスは私に 🅱

B5 マイ・ウェイ 🅱

B6 オリーブの首飾り

B7 夏の日の恋’76

 

演奏: ディスコ・サウンド・グループ

編曲: 無記名

定価: 1,800円

 

映画サタデー・ナイト・フィーバーの日本公開でディスコ・ブームが最高潮に達したのは1978年のことだが、そこまでの3年間の徐々な盛り上がりも正に社会現象というべきもので、こんなレコードを聴くとその頃の思い出が次々に蘇る。当然、宗内の母体は滋賀の一小学生だったから、実際フィーバーできる立場ではなかったけれど、ラジオからはひっきりなしにその手の曲が流れてくるし、実際コンピLPをねだったりして(宗内の母体がスライを初めて聴いたのは、そんな中の1枚に収録されていた「サンキュー」で)、健全な市民としてブームの風に触れるのは楽しかった。寧ろこの時期に限っては、「不良の道楽」からクラブ・カルチャーが解放された稀有な時代、とさえ言える(その代償となったのがロックンロール・リヴァイヴァルだったのだが、話が長くなるのでまた別の機会に)。未成年限定、お酒を提供しないディスコみたいな場所も、ちらちら存在したと聞く。今のライブハウスやクラブじゃあり得ないなぁ。

当然、若さからちょっと離れたところにも、このブームは飛び火した。あまりにもディスコ志向のレコードが売れすぎるので、ポール・モーリアパーシー・フェイスといったムード音楽の巨匠も、こぞってディスコ・ビートを取り入れたレコードをリリース。ちょっと前まで『今宵踊らん』の世界に浸っていた社交ダンス世代の大人達も、今更コモドアーズやB.T.エキスプレスでバンプするのは恥ずかしいわと思いながら、流暢なストリングスで飾られたこの種のレコードに合わせて、嬉々として腰を揺らしていたに違いない(当然お子様にも優しいし)。そんな「踊れるムード・ミュージック」の世界を、例によってエルム流に追究してみせたのがこのレコード。当時の20代後半~30代に的を絞った選曲がいかにもであり、デパートの特売会場でなんとなくレコード眺めるようなお客さんの心を捉えるには充分だろう。

1曲目からベートーヴェン「運命」をディスコ化した全米1位曲の忠実なカヴァーだが、「サタデー・ナイト・フィーバー」で同曲が使われる前の発売なのは確実で、1曲目に抜擢したのは鋭い。以下、ポール・モーリア自身によるディスコ・リメイクも話題になった「恋はみずいろ」を始め、ボトムを強化した踊れるサウンドで、おなじみの曲が次々と料理されていく。ディテールも細かにアレンジされ、歌無歌謡にありがちなエルム的せこさとは無縁。「サニー」が60年代R&Bの面影をわずかに残したジャジーな仕上がりで異色だが、皮肉にもこのレコードが出た後、ボニー・Mによって王道ディスコサウンドでリメイクされ大ヒット、真の「ディスコ・スタンダード」となってしまうのである。A面ラストの「反逆のテーマ」はさすがにしょぼいな、オリジナルに比べると。

B面トップの「サンフラワー’76」は当時の段階で最新の「ベンチャーズ歌謡」で、田中美智子(のちに美樹克彦の奥さん、クリエイティヴ・パートナーに)のデビュー曲「ひまわり君」としておなじみだろう。ちょっとディスコとは毛色の違う選曲だが、アクセントとしては効果的。左側に入っているフルート的な音が、メロトロンの超速弾きなのか、それとも早すぎたシーケンサー使用なのか、はっきりしない…エルムらしい謎、なのだが。続く「ソウル・トレイン’76」はサウス・ショア・コミッション “We’re On The Right Track”というめちゃ渋いカヴァーだ。ここにそれを入れて大丈夫かという感もあるが、Jack盤「夢追い酒」に通じる水商売のねーちゃん風コーラスが最高。ソウルのかけらもない、桜井ユタカ氏が激怒しそうな響きだが(爆)、こういうのがないとエルムのレコードを聴いてるという感じにならないよね(爆)。この後も、シド・ヴィシャスやら手品師やらが新しい価値観を追加する以前の名曲群が、すっきり踊れる感じにリアレンジされ最後まで続く。「ラストダンスは私に」の妙なシンセ、マイ・ウェイの大胆極まりない譜割り、「夏の日の恋」の「肌を見せるの恥ずかしい」と言いたげな表情のフルート(ガチプレイヤーでは確実になさそう。左側のギターががんばりすぎてるので余計可笑しい)など、面白ポイントに事欠かないし、70年代初頭とは違う感触ながらベースの健闘が光る(「オリーブの首飾り」の一部とか、適当に弾いてるような箇所もあるが)。エルムといえども、ガチミュージシャンを本気にさせると何が起こるかわかりません。演奏者名義は適当すぎるが…ただ、手元にある盤、特にA面が飛びまくり、うちで踊るには適していません…(爆)