黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は菅原孝さん (ビリー・バンバン)の誕生日なので

テイチク SL-1293 

フォーク歌謡ベスト=12

発売: 1969年10月

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ジャケット



A1 悲しみは駆け足でやってくる (アン真理子) 🅲

A2 禁じられた恋 (森山良子) 🅴

A3 0時20分発夜行列車 (カコとミキ)

A4 恋は風に乗って (五つの赤い風船)

A5 白いブランコ (ビリー・バンバン) 🅳

A6 山羊にひかれて (カルメン・マキ) 🅱

B1 何故に二人はここに (Kとブルンネン)

B2 時には母のない子のように (カルメン・マキ) 🅶

B3 フランシーヌの場合 (新谷のり子) 🅱

B4 恋の花うらない (ビリー・バンバン)

B5 風 (はしだのりひことシューベルツ) 🅵

B6 いいじゃないの幸せならば (佐良直美) 🅲

 

演奏: カンノ・トオル (スチール弦ギター)とフォークギター・グループ

編曲: 福島正二

定価: 1,500円

 

アングラ・フォーク勢の過激な挑発に怯えつつ、GSが掻き乱した狂乱からの反動で内省的な曲が多数ヒットした1969年。こういった曲に特化したインストアルバムも何枚も作られ、今後も紹介する機会が何度か訪れると思うけど、そのテイチク代表が本盤。歌無歌謡の様々な可能性を追求し、月4~5枚のペースでアルバムを乱発しまくっていたこの時期のテイチクに於いては、孤高度の高い1枚と言える。

トップの「悲しみは駆け足でやってくる」は、全体のトーンを決定づける曲。風の音を模したと思われる妙なノイズは、この頃のテイチクの歌無歌謡レコードでやたら使われていた。せめてEQの中域ブースト周波数を可変コントロールするだけでも、それっぽい感じになるのではと思うが、ただひたすら変調も無しに鳴っているのみだ(ジャネット・ジャクソン「ミス・ユー・マッチ」のイントロのアレに近い感じ)。複数のギターを巧みに配し(ここでのスチール弦ギターとは、ハワイアンギターを指すものではなく、通常のフォークギターより相当硬い弦を張ったと思われる)手堅いアンサンブルを聴かせる。続く「禁じられた恋」は、敢えて王道フォークに寄せたアレンジにしており、キハーダや他のパーカッションが入っていないのが異色(控えめに拍子木がBメロだけに入っている)。歌謡に歩み寄ったと言われる曲も、こんなアレンジで演られるとめちゃフォーク同好会度が高くなる(笑)。ここでは少なくとも5本のギターが同時に鳴っている。

続くのは本盤の「買い」の決め手になった異色曲「0時20分発夜行列車」東芝の男女デュオ、カコとミキが歌い、一週だけチャート92位に顔を出したマイナー・ヒット。妙にステレオ感が強い汽車の効果音が随所に入り、オリジナルの虚無感を演奏だけで見事に再現している。たとえ仕掛人小川知子を育てた中洲朗だろうが、アングラの色にちょっと染まった印象はちゃんとある。次に五つの赤い風船「恋は風に乗って」が来ようが、全然違和感ない。むしろ無邪気な曲ゆえ、この盤では浮いている感じ。

「時には母のない子のように」には、またもリアルな波の効果音が登場。全体的にシンプルな音作りでありながら、この時期のテイチクらしい、あらゆる音が前に出がちのミックスが、寧ろ不安感を急き立てる印象を残している。『ギターの秘密』のような奥行きのあるサウンドの方が好みではあるけれど、これもこれでなかなかいい。