黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1976年、今日の1位は「横須賀ストーリー」(6週目)

キング SKM-1395 

栄光の'76レコード大賞

発売: 1976年

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ジャケット



A1 北の宿から (都はるみ) 🅴

A2 さざんか (森進一) 🅱

A3 横須賀ストーリー (山口百恵) 🅳

A4 あばよ (研ナオコ)

A5 針葉樹 (野口五郎)☆

A6 恋ひとつ雪景色 (森昌子)

A7 ペッパー警部 (ピンク・レディー)

B1 メランコリー (梓みちよ)☆☆

B2 落葉が雪に (布施明)

B3 想い出ぼろぼろ (内藤やす子)

B4 もう一度逢いたい (八代亜紀)

B5 若き獅子たち (西城秀樹)

B6 嫁に来ないか (新沼謙治)

B7 あなたがいたから僕がいた (郷ひろみ)

 

演奏: ニュー・サウンド・オーケストラ

編曲: 坂下晃司、栗田俊夫(☆)、京建輔(☆☆)

定価: 1,500円

 

このブログを4ヶ月やってきて、今の今までキング発のレコードが1枚も出てきてなかったとは、信じがたいことです(厳密には火曜日に『ダンス専科』を取り上げていたけれど)。理由は明白。キング盤に巡り合う頻度が相対的に少なすぎるからです。寺さんの『歌のないエレキ歌謡曲』シリーズが主流になる71年以前には、テイチクや東芝に負けじとありとあらゆる傾向の歌無歌謡レコードを市場に送り出していたけど、クオリティの高さ故か「捨てられ頻度」が異常に低く感じるんです。何せ筒美京平先生の『チェンバロ・デラックス』を出したメーカーですから。その時期のものは特にジャンク市場に出てこない。

辛うじて出てきたのが、タイトル通り76年のレコ大ノミネート曲を集めたこの盤。時代が時代だけに、聴き方の焦点が70年代前半までのものと明らかに違ってきてしまう。クリスタル・サウンズやブルーナイト・オールスターズの「軽さ」や「カラフルさ」を期待すると、「ちょっと違うな」と感じてしまう演奏で、作品のテーマ故保守性を重視してるのかな、というのが率直な印象。大賞曲「北の宿から」のイントロからして、フレーズごとにコードの構成音を変えていて、「そこまでやらんでも…」と思ってしまうし、演奏全体に華がない。と思ったら、控えめに好夫ギターが入ってるではないですか。「さざんか」は小綺麗なコンボ演奏で、ソリーナを使っているのがいかにもこの時期らしい。ただ、ど演歌には合わない音だ。

横須賀ストーリーはどうかというと、ノリがよく、しっかり原曲の雰囲気を重視した演奏であるが、エルム盤の歯切れの悪さに慣れすぎると面白味を感じなくなる。突き出たものに欠けるという印象が全体にある。ただ、このアルバムが恐らくピンク・レディーの曲を初めて取り上げた歌無歌謡盤ではないだろうか。77年以降「現象」に転じる予感を感じさせない、素直に演ってみました以上のものではない演奏は、かえって貴重かも。所々に異物が入ってないと、満足するに至らないんですよね。それにしても、いかにも時間をかけてませんと言いたげなジャケット…