黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は小山ルミさんの誕生日なので

ユニオン  CJP-1048~9

歌謡ヒットポップス・ベスト28

発売: 1971年10月

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ジャケット



A1 雨の日のブルース (渚ゆう子) 🅲

A2 青空は知らない (堺正章) 🅲

A3 お祭りの夜 (小柳ルミ子) 🅲

A4 雨の御堂筋 (欧陽菲菲) 🅱

A5 二つのギター (小山ルミ) 🅱

A6 さよならをもう一度 (尾崎紀世彦) 🅴

A7 雨のバラード (湯原昌幸) 🅱

B1 砂漠のような東京で (いしだあゆみ) 🅳

B2 さらば恋人 (堺正章) 🅱

B3 知床旅情 (加藤登紀子) 🅲

B4 天使になれない (和田アキ子) 🅳

B5 さいはて慕情 (渚ゆう子)

B6 わたしの城下町 (小柳ルミ子) 🅵

B7 さすらいのギター (小山ルミ) 🅱

C1 京都慕情 (渚ゆう子) 🅱

C2 花嫁 (はしだのりひことクライマックス) 🅱

C3 空に太陽がある限り (にしきのあきら)

C4 ナオミの夢 (ヘドバとダビデ)

C5 甘い生活 (奥村チヨ)

C6 太陽に走る女 (辺見マリ)

C7 雨がやんだら (朝丘雪路)

D1 ふたりの関係 (ヒデとロザンナ) 🅱

D2 女の意地 (西田佐知子) 🅴

D3 大勝負 (水前寺清子)

D4 地球は回るよ (トワ・エ・モア)

D5 熱い涙 (にしきのあきら) 🅳

D6 生きがい (由紀さおり) 🅲

D7 望郷 (森進一) 🅳

 

演奏: ユニオン・オール・スターズ/石丸元、田中清司 (ドラムス)

編曲: 無記名

定価: 2,000円

 

本流のテイチク・レーベルの大胆さと離れたところで、別の形で歌無歌謡の可能性を追求していたユニオン・レーベル。72年10月にはあの伝説のアルバム『モーグサウンド・ナウ/虹をわたって』(JSP-1039)を世に送り、演奏もの音盤界を震撼させたが、その後結局74年まで散発状態を引きずり、いつの間にかフェイドアウトした。そんなユニオンの71年当時のカラーを集大成した2枚組で、暴れん坊ドラマーとしてスタジオ界に新風を巻き起こしていた石松・田中両氏をフィーチャーしてのグルーヴィーなアルバム。とも一概に言えない曲者なのだ。

爆走スタイルながら軽く会釈した感じの「雨の日のブルース」に続く「青空は知らない」で、アルバムのカラーが決定づけられる。こちらも走りに走る演奏だが、2コーラス目のBメロから突如爆裂し始める、恐らく水谷公生ではないかと思われるギターに耳がやられる。ブラスの響きもシャープだし、思わせぶりにブレイクを入れて突っ走るドラムが何よりも痛快。あまり走っていない「お祭りの夜」「さよならをもう一度」でさえ、印象は決して地味ではなく、「雨のバラード」の痛快な音像の中に帰結している。

B面に針を落とすと「砂漠のような東京で」のイントロで、オリジナルと全く同じ印象の笛が、キーこそ違うとは言え出てきてびっくり。恐らく同じ人が同じ笛(やはりソプラノ・リコーダーと思われるが…)で奏でてるのではと思うが、そこまでやった心意気を買いたいし、この曲でさえドラムは容赦していない。オリジナルにないメロを奏でるエンディングの笛がお茶目。「さらば恋人」、やはり名曲だなぁと気楽に聴いていると、次に来るものに脳髄を破壊される。こんな知床旅情があっていいのか?この盤を手に入れた日、思わず5回程聴いてしまった。ミシシッピー・クイーンが知床の岬に降りてきた、みたいなヴァージョンだ。わたしの城下町は手堅い方向にちょっと傾きながらも、疾走感が生きている解釈。

 

盤を2枚目に変えると、いきなり「京都慕情」でカラーが違う演奏が出て来る。まったりしたラテンのリズムにアコギのアンサンブルが絡み、明らかにドラム主導のプロジェクトとは異質。別に演奏者名義を変えてもいないし、何事が起こったのかと不思議な気分にさせる…が、続く「花嫁」が始まった途端、「知床旅情」以上に異常な次元に聴覚が放り込まれる。ドラムが乱れ打ち、ファズ&ワウギターが炸裂…だけならいいのだけど、曲が進むに連れてその度合いがエスカレートし、曲の終わりあたりには限界突破する。幸せな新婚さんを送りだす曲とは思えない、悪夢にうなされるが如きハードコアの極致である。

C面の終わりまで来て、「京都慕情」の異質さにかえって過激さを感じる位だったが、D面はさらにスキゾな展開に至る。「ふたりの関係」は「京都慕情」同様のラテン的解釈だが、続いていきなり好夫ギター以外のなんでもない音が、一人自己主張を始めるのだ。2大ドラマーと違い、クレジットが一切ないのもどうかと思うが、この「女の意地」の演奏が格別なだけに、C面までの展開と同居すると異次元感が際立たずにいられなくなるのだ。「大勝負」に至っては、ヤングのハートを直撃するアルバムをさっきまで聴いていたはずの自分を幻視せずにいられなくなる。かと思えば、ピースフルな「地球は回るよ」で再びドラム主導の展開に戻るのだ。「生きがい」はまた異質の、レキント・ギターの響きが生きたジェントルなヴァージョンだが、一部のコードが簡素化されてるのが気になる。最後に再び好夫ギターの「望郷」で大団円。やっぱいいな。しつこいまでの真骨頂。長い旅の最後に待ち受ける安息の場所だ。

バランス感などどうでもいいみたいな構成の2枚組だけど、不思議に憎めない。この分裂感は、そう簡単に再現できるものではないよ。