黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1972年、今日の1位は「旅の宿」(2週目)

ビクター SJV-607 

ヒット・チャート・ベスト12 

発売: 1973年10月

f:id:knowledgetheporcupine:20210812133819j:plain

ジャケット



A1 虹をわたって (天地真理)Ⓐ 🅱→6/13

A2 夜汽車 (欧陽菲菲)Ⓐ 🅲→6/13

A3 京のにわか雨 (小柳ルミ子)Ⓐ 🅳→6/13

A4 旅の宿 (吉田拓郎) 🅱→6/13

A5 恋唄 (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓐ 🅳

A6 古いお寺にただひとり (チェリッシュ)Ⓑ 🅰→6/13

B1 夜汽車の女 (五木ひろし)Ⓑ 🅲

B2 芽ばえ (麻丘めぐみ)Ⓑ 🅲→6/13

B3 旅路のはてに (森進一)Ⓐ 🅱

B4 こころの炎燃やしただけで (尾崎紀世彦)Ⓑ 🅲

B5 あなただけでいい (沢田研二)Ⓑ 🅳

B6 めぐり逢う青春 (野口五郎)Ⓐ

 

演奏: ヒット・サウンド・オーケストラ

編曲: 馬飼野俊一Ⓐ、馬飼野康二

定価: 1,500円

 

自分がヒット・チャートというものを意識し始めたのは、一体いつだったのだろう。当然、「紅白歌のベストテン」とか「ベスト30歌謡曲」といったテレビ番組が身近にあったし、それを通して歌謡界の華やかさを知ったのだけど、必ずしもそれが一般市民の嗜好の忠実な現れではないと気付くはずもなかったし、それを踏まえての1977年の「ザ・ベストテン」の開始は衝撃的だった。業界紙のチャートなんて、上位数曲が一般メディアに転載されておしまいという、そんな時代だった。そこに堂々と放たれたのが、このアルバム。メジャー級のヒットを揃えてはいるものの、必ずしもチャートの上位を忠実に再現しているわけではない。あくまでも、ヒットチャートという言葉を魔法のように使っての、ヒット最前線を簡潔にまとめてみました、みたいなアルバム。「ヒット・サウンド・オーケストラ」名義が使われたのはこれが初めてで、揃ってトップアレンジャーの仲間入りしていた馬飼野兄弟に半分ずつ任せるという、贅沢なアルバムである。

その甲斐あってか、決して気を緩めることない、芯がしっかりしたサウンド作りに両者共々挑んでいるし、演奏や録音スタッフの面子は変えていないと思われるので統一感もある。どの曲がサウンド的に傑出しているかなんてどうでもいい、気合入れて作った歌無歌謡アルバムの見本みたいな1枚。兄の方が多少張り切り度が強いようで、「旅路のはてに」「めぐり逢う青春」は自らの作品故忠実にリメイクしている。前者は自社曲とはいえ、オリジナルのオケを流用することもせず、かえってこちらの方が演奏の完成度が高いような気がする(特に女性コーラスのはりきりようったら。「森様」がいるとその分萎縮したのだろうか?)。弟の方も「夜汽車の女」「芽ばえ」のようなハードルの高い課題を難なくこなし、負けちゃいない。

半数の曲が『流行歌ヒット年鑑』(6月13日参照)に流用され(ミスクレジットはあったが)、そちらではインパクトの強い他の演奏に囲まれて目立たない印象だったが、こうしてアルバム単独で聴くとなかなかの力作である。ここから『さわやかなヒット・メロディー』に自然と流れていくわけだけど、自社曲贔屓のポリシーを撤廃してのリコーダー演奏盤を、やはり聴きたかったところ。