黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その19: 子供達を責めないで

トリオ PA-5018

スクリーンの小さな恋人たち

発売: 1972年

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ジャケット



A1 メロディ・フェア 「小さな恋のメロディ🅱

A2 妖精の詩

A3 ラヴ・サムバディ 「小さな恋のメロディ

A4 野にかける白い馬のように 

A5 天使の詩

A6 愛のために死す

B1 動物と子供たちの詩

B2 コットンズ・ドリーム 「動物と子供たちの詩」

B3 若葉のころ 「小さな恋のメロディ

B4 「恋」のテーマ

B5 哀愁のアダージョ悲しみの天使

B6 フレンズ

 

演奏: サウンド・ポップス・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 1,800円

 

70年発足からしばらくの間、ヨーロッパの独立レーベルからライセンスされた通好みのジャズとクラシックのレコードを発売し続け、オーディオ・メーカー傘下らしい意地を発揮し続けていた(が、その時期にもちゃっかり、歌無歌謡盤を残していたのである)トリオ・レコードも、72年に入ると本格的にポップス市場に参入。翌年にはさらに歌謡界にも進出するのだが、そんな「過渡期」に残されたインスト盤の一枚。映画音楽に的を絞ったレコードはムードものの主流であり、サントラでなくともよく売れていたのだが、子供を主人公とする映画に限定したという点で、この盤はユニークである。勿論、先例は当然のようにあったのだが(6月8日参照)、何せ前年公開の小さな恋のメロディが空前の大ヒット。主演のマーク・レスターはアイドル的に人気爆発し、辿々しい日本語で歌ったレコードは今やカルトアイテム化している。こんな純真なラブ・ストーリーさえ、最早「児ポ」の一言に妨げられ、社会的不適合と処理される危険性さえはらむ時代になってしまったが、その甘酸っぱい恋模様に大人でさえときめきを隠し得なかったのが当時の時代情勢故である。いずれにせよ、その映画の成功が制作を直接促したのは間違いない本盤を聴くと、そんなイノセントなときめきだけが蘇ってきて、みんな好きなように振舞うのが一番なんだって思わずにいられなくなる。編曲者クレジットがないが、後述する「妖精の詩」の存在から日本国内制作であることが容易に判る。

件の「小さな恋のメロディ」からはビー・ジーズによる3曲が取り上げられているが、90年代にドラマのテーマ曲に使用され全く別の価値観が植え付けられたのもどうでも良くなってしまう、そんな暖かい響きで綴られている。さすがトリオだけあり録音もシャープだし、人畜無害なサウンドが心地よい。子供心に「メロディ・フェア」を何度も聴いて、譜割りが不思議だなぁ、どこに音の軸を置けばいいんだろうなと思ったこととか、脳裏に蘇ってくる。「妖精の詩」は羽仁進・みお父娘のコラボが話題となった日仏合同作品。テーマ曲を手掛けたのは荒木一郎だった。エレガントな無国籍感は他にあまり類を見ないもの。天使の詩は別の挿入曲が『ギターとリコーダーによる 子供が主人公の映画主題曲集』に収録されていたが、ここでも主役はリコーダーのラブリーな音だ。「愛のために死す」を聴くと、のちの「硝子の少年」に多少影を落としたことが解る。カーペンターズでおなじみ「動物と子供たちの詩」からは、有名なテーマ曲の他B2も抜擢。ミシェル・ルグランによる「恋」はちょいひん曲がったギターが「これは違うだろ」という印象を与える。最後はエルトン・ジョン「フレンズ」でさわやかに賑々しく締め。青春の光と影を鮮やかに映し出す、名旋律がいっぱいの1枚。