黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その20: ドラム・ドラム・ドラム

マイパック DR-0016

pop’s in rhtyhm

発売: 1974年?

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ジャケット



A1 マイ・スウィート・ロード (ジョージ・ハリスン) 🅲

A2 ローズ・ガーデン (リン・アンダーソン)

A3 レーサーのテーマ (デイヴ・グルーシン)

A4 トレイン (1910フルーツガム・カンパニー) 

A5 ケ・セラ・セラ (メリー・ホプキン)

A6 エーゲ海の真珠 (ポール・モーリア) 🅱

B1 アリスのレストラン (アーロ・ガスリー)

B2 Zのテーマ (ミキス・テオドラキス)

B3 ブラウン・シュガー (ザ・ローリング・ストーンズ)

B4 ノックは3回 (ドーン)

B5 恋するメキシカン (ザ・ドリフターズ)

B6 サンホゼへの道 (ディオンヌ・ワーウィック)

 

演奏: 猪俣猛と彼のグループ

編曲: 無記名

定価: 890円

 

ジャズ・ドラム界を代表する巨匠、あり…もとい、猪俣猛先生がこっそり残した歌のないポップス・アルバム。73年発足したダイエー・マイパックからのリリースだが、収録曲を眺めると確実に71年以前の録音と思われ、恐らく8トラックテープ用にその手の原盤制作業者のために録音した音源ではないだろうか。この手の音源の契約事情って一体どうなってるのか、最早迷宮入りしているのは確実だけど、たとえビッグなプレイヤーであろうが実名でクレジットされている例は珍しくなく、ギャラもよかったんでしょうな。クラウンが変名使いにこだわったのは、全く別の事情があったに違いないと見ている(汗)。

いずれにせよ、リーダー以下名うてのプレイヤーがちょちょっと臨んだ仕事であるはずで、フットワークも歌無歌謡に比べて遥かに軽い印象。その上、音質も悪くなく、原盤の段階で相当気合入った録音をしていたのではないだろうか。1曲目「マイ・スウィート・ロード」から堅実に走る。走り過ぎていないのがかえって潔さを感じさせるところで、続くローズ・ガーデンをニュービートの「17才」と繋いでみればその差は歴然(えっ)。「レーサーのテーマ」は渋いとこを突いてきた感じで、フュージョン感の萌芽がある。「トレイン」でやっとニュービート感ある演奏が出てくるが、使用しているドラムセットは当然こちらの方がガチな印象。ギターなんて歌無歌謡と何ら変わらないフレージングなのに。「ケ・セラ・セラ」は当然メリー・ホプキン盤のアレンジ(歌無歌謡的にはゴールデン・ハーフか)。ドラムを控えめに、フルートのラブリーな響きを前面に出しているが、音の切れ方がガチプレイヤーのそれだな。エーゲ海の真珠」では音の盛り具合を簡素化しつつ、音色使いでカラフルさを出している。

B面は「アリスのレストラン」「Zのテーマ」とさらなる変化球を投げた末、反則技「ブラウン・シュガー」に来る。手数の多いドラムを除くと、比較的忠実な演奏でズッコケ感はない(が、やっぱ右側で鳴っているギターに張ってある弦は6本だろうな…)。ボビー・キーズに肉薄する熱いサックスにドラムソロが続き、「これは違うだろ」という言葉を跳ね除ける勢いありまくりの演奏。ラスト3曲は王道ポップスに寄せてきて、歌無歌謡耳で聴いても違和感がない。「恋するメキシカン」のイントロの「愛のさざなみ」感はご愛敬。

ライナーノーツでは、湯川れい子先生がいかにポップスが情緒教育に有効かを熱弁してますが、それなのにこの裏ジャケはないでしょう…マイパック故、決してレア盤にはなってないし、オークションにも頻繁に出ていますが、大抵サムネに裏ジャケが設定されているから罪なものです。ここでは当然、表を載せます(汗)。

 

追伸: このエントリー更新当日、ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツ氏が80歳で亡くなられました。黄昏みゅうぢっくで取り上げるストーンズの曲が入ったアルバムは、これと7月6日の2枚のみですが、今日の更新分を謹んでお悔やみの気持ちとさせていただきます。数多の強者ドラマーでさえ模倣できない独特のノリを持った人でした。本盤の「ブラウン・シュガー」で、あえてそれと異質のものを持ち込んだ猪俣さんを改めて讃えたいと思います。