黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は八代亜紀さんの誕生日なので

国文社 SKS-101

サックス・ムード

発売: 1976年

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ジャケット



A1 ゴッドファーザー・愛のテーマ (ニーノ・ロータ) 🅴

A2 オンリー・ユー (ザ・プラターズ)

A3 ラブ・ミー・トゥナイト (トム・ジョーンズ)

A4 太陽は燃えている (エンゲルベルト・フンパーディンク)

A5 エマニエル夫人 (ピエール・バシュレ) 🅱

A6 雪が降る (アダモ)

B1 襟裳岬 (森進一) 🅷

B2 くちなしの花 (渡哲也) 🅵

B3 うそ (中条きよし) 🅴

B4 なみだの操 (殿さまキングス) 🅶

B5 私は泣いています (りりィ) 🅱

B6 別れの夜明け (石原裕次郎八代亜紀) 🅱

 

演奏: ニュー・サン・ポップス・オーケストラ feat. K. Ichihara (A)/T. Jeorge (B)

編曲: M. Misaki (A)/T. Hanaoka (B)

定価(参考市価): 2,200円

 

第一期発売から6年を経て、不死鳥の如く蘇った国文社の「ニュームードミュージック」シリーズ第1作。ムードの基本はサックスということで、A面は市原宏祐氏(一応あの名物シリーズの「中の人」説が囁かれる数人のうち一人)をフィーチャーしての洋楽スタンダード、B面は高野譲治氏(一応「ジョージ・ヤングの中の人」であり、ザ・カーナビーツアイ高野の実父)をフィーチャーしての演歌という、スキゾなカップリング。しかし、一部に不満の声もあったようで、のちに『ギター・ムード』(5月12日参照)とA面B面それぞれ組み合わされ、別途再発売されている。

A面トップは歌無歌謡盤でも盛んに取り上げられたゴッドファーザーだが、エレガントに始まりながらサックスはBメロを奏でるに留まり、1コーラス演り終えたところでいきなりボサノヴァ的な粋な展開に突進という、意表を突くアレンジ。真面目にジャジーなアドリブが続いている間に、女性コーラスが忍び寄り、職人的な響きと飲み屋のねーちゃん的声質が同居した独特の世界に誘う。

続く「オンリー・ユー」は単なる大スタンダードと侮るなかれ。74年にカヴァーしたリンゴ・スター版を基調にしたアレンジになっているのだ。オリジナルでニルソンにより演じられていたとぼけたコーラスが、全く同じ調子ながら大人数で勇しく歌われているのがなんとも気が抜ける。やはり、ビートルズ絡みのインストとなると、聴く耳が変わってしまいますね。あと4曲はスタンダード曲の76年型アップデートに終わっているけど、それ故に歌無歌謡テイストがあり、安心して聴ける。

B面はというと、第二期国文社ならではのシャープなサウンドに彩られているけれど、まぁありがちな演歌インストですね。特に襟裳岬」「くちなしの花」「なみだの操」と、例によってメロトロン幻聴曲が並んでいるので、どうしても素直に聴けない(汗)。「襟裳岬」のギターは好夫っぽいが、微妙に好夫じゃないと思います。この冴えまくったサウンドの中に唐突に放り込まれるクラビオリンの音に、メロトロン以上の倒錯した快楽を感じる瞬間が、ラストの「別れの夜明け」に潜んでますが。ここでのギターは好夫確定。国文社はやっぱ、ここまでやってくれなきゃね。