黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は井上陽水さんの誕生日なので

ハーベスト YC -5003~4

フォークの旅

発売: 1975年12月

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ジャケット



A1 小さな日記 (フォー・セインツ) 🅱

A2 若者たち (ザ・ブロードサイド・フォー) 🅲

A3 遠い世界に (五つの赤い風船) 🅱

A4 この広い野原いっぱい (森山良子) 🅲

A5 白いブランコ (ビリー・バンバン) 🅴

A6 今日の日はさようなら (森山良子)

A7 あなたのすべてを (佐々木勉) 🅱

A8 竹田の子守唄 (赤い鳥)

B1 心もよう (井上陽水) 🅶

B2 神田川 (かぐや姫) 🅵

B3 旅の宿 (吉田拓郎) 🅴

B4 白い一日 (小椋佳)

B5 精霊流し (グレープ) 🅲

B6 結婚しようよ (吉田拓郎) 🅵

B7 夢の中へ (井上陽水) 🅱

C1 旅仕度 (小椋佳) 🅱→7/26

C2 想い出まくら (小坂恭子) 🅱→7/26

C3 ロンドン急行 (アンデルセン)

C4 さよなら友よ (山田パンダ) 🅰→5/13

C5 いつか街で会ったなら (中村雅俊) 🅱→5/13

C6 両国橋 (吉田拓郎)

C7 東京 (マイ・ペース) 🅰→5/13

C8 さらば青春 (小椋佳) 🅱

D1 22才の別れ (風) 🅱→5/13

D2 我が良き友よ (かまやつひろし) 🅲→5/13

D3 しおさいの詩 (小椋佳)

D4 ルージュの伝言 (荒井由実)

D5 岬めぐり (山本コウタローとウイークエンド)

D6 となりの町のお嬢さん (吉田拓郎) 🅱→7/26

D7 シクラメンのかほり (布施明) 🅴→5/13

 

演奏: HARVEST ORCHESTRA

編曲: 無記名

定価: 3,000円

 

フォーライフ・レコードが発足した1975年は、日本のレコード産業におけるフォークの「曙」だった。既存の歌謡概念を超越したその在り方は、マスメディアに「ニューミュージック」という新たな呼称を与えられ、従来の草の根的歩みから大幅に逸脱していった。それを象徴するかのように作られた、インストで聴くそれまでの日本フォークの歴史、みたいな2枚組。

ミノルフォンのサブレーベルとして、68年にスタートしたハーベスト(「実」故の命名であり、英国の同名レーベル誕生より若干早い)は、当初こそ演歌色の濃いメインで扱いきれなかったポピュラー系音楽全般を扱っていたが、71年に「洋楽」までを包括するよりユニバーサルなレーベルとして「ダン」を新設(時を同じくして、最もネームバリュー及びレコード発売点数が勝っていた山本リンダがキャニオンに移籍)したあとは一気にフォーク色を強め、友川かずき、茶木みやこら異才を紹介する(さらに75年にはロックレーベル「バーボン」を新設している)。なので、このコンピを出すレーベルとしてここが選ばれるのも当然の成り行きで、演奏者名もHARVEST ORCHESTRAとクレジットされているのだが、75年の最新曲を中心にした2枚目に、既にミノルフォンの歌無歌謡レコードでブルーナイト・オールスターズ名義で出たのと全く同じヴァージョンが、多数収録されているのだ。わざわざ録り直すより流用する方が手っ取り早いのは言うまでもないけど、それはあまりじゃないかという感も。ただ、単純にニューミュージックインスト集として聴くと、全然違和感ないのだ。レーベルカラーなんてどうでもいいじゃないかと。さらに、リコーダーがさわやかに鳴り響くしおさいの詩」は、78年に『サーフ・ブレイク』のヒットに便乗してリリースされた、純粋な自然音アルバム『潮騒』(KC-8036)に「テーマ曲」として流用されてもいるのだ。ほんと、便利ですよね、歌無歌謡は。

1枚目は75年のサウンド仕様で新たに録音された曲が中心になっていて、純粋なフォークマナーというより70年代型歌無歌謡の音そのものだ。「遠い世界に」もこんなに軽く演られる曲ではないはずだし、「白いブランコ」のリコーダーや「竹田の子守唄」のオカリナも、70年代初期じゃまずないと思われる選択だ。他社の歌無歌謡盤ではリアルタイムでカバーされまくったB面の曲も、ちょい前の曲となった故の演り慣れ感が安堵をもたらす。2枚目でブルーナイト名義のテイクが確認されてない曲の中では、やはり「ロンドン急行」が出色の出来。アンデルセンを意識してのカバーではないと思うが、躍動感いっぱいで、特にベースの暴れ具合はこの時期とは思えない。こんな、若さ故の潔さを浄化したようなフォーク史の凝縮に堂々と勝負を挑んでみせた名盤があるのですが、それに関してはまた別の機会に…