黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は栗田ひろみさんと三善英史さんの誕生日なので

東宝 AX-2017  

最新歌謡ヒット ゴールデン・スチールギター・アルバム

発売: 1973年5月

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ジャケット



A1 霧の出船 (五木ひろし) 🅳

A2 学生街の喫茶店 (ガロ) 🅲

A3 春のおとずれ (小柳ルミ子) 🅲

A4 太陽のくちづけ (栗田ひろみ)

A5 円山・花町・母の町 (三善英史) 🅲

A6 同棲時代 (大信田礼子) 🅱

A7 夜の走り雨 (森進一) 🅲

B1 若葉のささやき (天地真理) 🅳

B2 妖精の詩 (アグネス・チャン) 🅲

B3 劇場 (ちあきなおみ) 🅱

B4 見捨てられた子のように (朱里エイコ)

B5 中学三年生 (森昌子) 🅲

B6 愛への出発 (郷ひろみ) 🅲

B7 懺悔 (かんのますみ)

 

演奏: ミラクル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 福井利雄

備考: RM方式4チャンネル・レコード

定価: 1,500円

 

最早、誰もスチールギターの音を「イケてるサウンド」なんて言わなくなって久しいけど、いつ頃からそんな傾向が始まったのだろうか。70年代後半、ハワイ発の新手のサーフロックがまとめて日本に紹介されて、ハワイを定義つける新たなサウンドとして定着してしまったからか。それでもまだ、鎮静効果なんてものとは程遠い。90年代あたりからウクレレの人気が盛り返し、演奏環境の閉塞化も手伝って愛用者はまだまだ増える傾向にあるけれど、スチールギター復権という話を聞くことはない。普通のエレキギターを横にしてスライドで弾いても、このニュアンスを出すには相当のテクがいるし、やっぱ響き的に当世的ロマンチシズムとかけ離れている印象ってあるかなぁ。

それでも、74年あたりまでは普通に、トロピカルな感覚を醸し出す音として愛好されていた故、歌無歌謡とも妙にマッチして、それをフィーチャーしたアルバムが頻繁に出されていた。その多くは、ハワイアン・バンドをルーツにするガチプレイヤーが真剣に取り組んだものであるが、この東宝盤には、肝心なプレイヤーの名前がクレジットされていない。ちゃんとハワイアンの演奏術を把握できている演奏者であるのは聴けば一目瞭然だけど、顔が見えてこないのは残念。ここまで活躍してるのに、クレームものでしょ…

いつもの安定したミラクルサウンズをバックに、そんな冴えたスチールの音色でお送りする73年のヒット曲集。あらゆる曲調が統一されたまな板に乗せられ、さわやかな音色の力で一つの流れに定着している。まさかの誕生日を共有する二人、栗田ひろみと三善英史の曲が背中合わせになって、お互いの色を汚さずに済んでいるのはまさにミラクル。脇役を固める楽器も多岐に渡り、4チャンネルの音場のあらゆるところに個性をまき散らしている。恐らく山内喜美子さんと思われる琴がはりきりまくる「円山・花町・母の町」が聴きものだ。タメにタメまくるガチなハワイアン奏法が随所に顔を出し、時々ディレイをかまされてトリッピーな効果をあげる。当世的ロマンチシズムと無縁とは言ったけど、やはり場末感のあるメロディーだからこそ効果を発揮する音だからなのかなぁ、人気がなくなった最大の理由は…