黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1969年、今日の1位は「池袋の夜」

ビクター SJV-473 

京琴と尺八による演歌ヒット・メロディー

発売: 1970年11月

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ジャケット



A1 命預けます (藤圭子) 🅳

A2 波止場女のブルース (森進一) 🅲

A3 酔いどれ女の流れ歌 (森本和子) 🅲

A4 もう恋なのか (にしきのあきら)

A5 圭子の夢は夜ひらく (藤圭子) 🅴

A6 女のブルース (藤圭子) 🅴

B1 夜の瀬戸内 (青江三奈)

B2 愛の旅路を (内山田洋とクール・ファイブ)

B3 一度だけなら (野村真樹) 🅲

B4 女の明日は南の果てに (森進一)

B5 男の酒場 (中尾ミエ)

B6 池袋の夜 (青江三奈) 🅱

演奏: 山内喜美子 (京琴)、村岡実 (尺八)/ビクター・オーケストラ

編曲: 舩木謙一

定価: 1,500円

 

どす黒い夜のムードをハードに駆け抜けていく尺八の響き、そしてミステリアスに彩る「京琴」の音色…今や一部関係レコードが和モノ界隈で高騰を見せる第一人者・村岡実氏の参加アルバムが満を持して初登場(厳密には東宝の「演歌大全集」にさりげなくフィーチャリングされていたけど)。コロムビアの「尺八ロック」シリーズとか、ビクターの「衝撃のエレキ尺八」とか、欲しいけどもう手の届かないところに行っちゃってますからね。演ってるのが演歌で、しかも軽めのアレンジな分、こういう盤はまだ手に入りやすいけど、なかなかに見くびれないものです。ましてや、山内喜美子さんのお写真が掲載されちゃってますからね…おしとやかに正座する姿が最早大風格を感じさせます。

さて、「京琴」とは何ぞや…山内さんが京都で発見したことからそのように命名されたという説が一般的で、さらにアレンジャーの舩木氏が寄せたライナーによると「最近は演奏する方が増えてきている」とのこと。当時、密かに量産でもされていたのでしょうか。68年に米国でリリースされたコロネードスの “Your Love Belongs to Everyone” でもその音を聞くことができ、その存在感は海をも越えたようです。でもやはり、「ゲゲゲの鬼太郎」のイントロのあの音、と説明するのが最もわかりやすいかも。演歌の調べに添えられると、ミステリアスであると共に、色っぽささえ強調されるような気がします。

RCA藤圭子やクール・ファイブまで含めて、自社の看板歌手を中心に当時の最新演歌ヒットを集大成した盤で、唯一錦野旦「もう恋なのか」が浮いてますが(曲調的にも)、CBSソニーも当時はビクター系三ツ矢センターをシングル盤に採用していたので、まぁある意味仲間かも。舩木氏のアレンジは曲によってはジャズ感覚を生かした先鋭的なタッチで、ジャパネスクな楽器の響きをより有効に引き出している。尺八のみならず、京琴からも息吹が伝わってきそうな、リアルな感触。森進一のB面曲「女の明日は南の果てに」がレアな選曲だが、自社ブーストとしては次の「男の酒場」の方が大胆。まさかの中尾ミエが挑んだ「ヒッピー演歌」だ。当時は戸惑いを持って受け止められたのだろうか、オリコン100位にも入っていない。ピアノとギターの演奏者名を明記したライナーも貴重。こんな内容でもジャケは青い目の淑女なんですよね…