黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その25: アーティストもの

CBSソニー SOLJ-102

カーペンターズ・イン・ニュー・サウンド 

発売: 1974年

f:id:knowledgetheporcupine:20210927093410j:plain

ジャケット



A1 愛のプレリュード 🅱

A2 ア・ソング・フォー・ユー🅱

A3 愛は夢の中に 🅱

A4 トップ・オブ・ザ・ワールド 🅳

A5 雨の日と月曜日は☆

A6 エスタデイ・ワンス・モア 🅳

B1 動物と子供たちの詩☆ 🅱

B2 ジャンバラヤ🅳

B3 ハーティング・イーチ・アザー 🅲

B4 シング 🅱

B5 遥かなる影 🅲

B6 スーパースター 🅲

 

演奏: ニュー・ソニック・アンサンブル

編曲: 高見弘、田代ユリ(☆)

定価: 2,000円

 

5月18日予告していた「もう一つのカーペンターズ・カヴァー・アルバム」がこちら。いきなり余談ですが、キングから出た「カー・ペインターズ」名義のアルバムのうち数曲は、『Love Sounds Style』に何曲か収められCD化されていたんですね。同コンピが出た頃は、この手の音楽に触手が伸びるなんて夢にも思わず。あくまでも歌無歌謡にハマった延長線上で接してるわけですから、無理もないですけど、確かに当時の制作現場に想いを馳せるのは有意義なことだし、常にその姿勢は持ちたいですね。

このアルバム、制作状況についてはライナーに詳細に記されていますが、素材としてラブ・サウンズの象徴を取り上げながら、ポール・モーリア等と一線を画した斬新なインスト世界へのアプローチを率先して試みたもので、エレクトーンを主役に据えつつ、めきめきと存在感を伸ばしてきたシンセサイザーを、スパイスとして大胆に配しまくるというコンセプト。それでいて、ムード音楽の基本たるオーケストレーションも蔑ろにしていない。スタジオにモーグ入れましたよ、派手にやっちゃおうみたいな73年の精神から確実に一歩踏み出ている。ちなみに使用されたシンセは、ミニ・コルグ700S、ローランドのSH-1000とSH-3。「箪笥」からは想像もつかない、当時最先鋭のコンパクトなモデルで、田代ユリさんが面白そうに弾いている制作現場写真も載せられている。エレクトーンはEX-42。革新的モデルGX-1の登場前夜だけあり、シンセとバランスをとるように音色は慎重に選ばれているようだ。

まぁとにかく素材が極上だから、どうアレンジされているか考察する心構えも歌無歌謡の時と変えねばいけないのだけど、洗練されたインスト音楽としては安心して聴ける。ただ、「愛のプレリュード」の「together…」の部分で思い切りずっこけるんだよね。気合入った斬新な演奏なのに。「ロジャニコの名曲に何てことを」なんて言いたくないけど、これが当時の解釈力の限界なのかも。と同時に、肉体性を高めるために配されたはずのホーン・アレンジがうまく噛み合っていない部分が目立ち、CBSソニーのレコードというよりエルムのレコードかと錯覚させたりする。これはミキシングの問題もあるかもしれないけど。一つ一つの音が際立つようにミックスしてあると、それ故に変な部分が前に出てきたりするのだ。「ソング・フォー・ユー」のフルートなんかはいい感じだけど。どっちかというと、田代ユリアレンジの曲の方がバランスがうまく取れていて、聴きごたえがある。

問題のシンセなのだが、奇をてらった音色使いを主体にしながらあくまでも、全体に於けるスパイス的存在に徹していて、『スイッチト・オン・ヒット&ロック』のようなクレイジーさとは程遠い。ただ、その辺を考えすぎたのか、「イエスタデイ・ワンス・モア」の「still shines…」のとこでいきなり唸りをあげたり(その前のホーンのアンサンブルの響きがエルムテイスト濃厚なので余計に滑稽)、R2-D2のさえずり(?)で始まる「動物と子供たちの詩」のロマンティックな響きの中に突如割って入ったりとか、むしろ爆笑を誘発する部分もそこここに。プログラマーとして参加した和田則彦氏は、やはりその辺も意識していたのだろうか。何せ「へ」のレコードを作った人ですからね。

当時のクリスタル・サウンズのレコードの、一切肩に力が入っていない音作りと好対照ではあるけれど、これも時代の色なんだなと感じさせる貴重な1枚。