黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は新谷のり子さんの誕生日なので

キング SKK-544 

フォークの世界

発売: 1969年

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ジャケット



A1 或る日突然 (トワ・エ・モア)☆ 🅵

A2 フランシーヌの場合 (新谷のり子) 🅲

A3 時には母のない子のように (カルメン・マキ) 🅸

A4 海はふるさと (親分&子分ズ)☆

A5 白いブランコ (ビリー・バンバン)☆ 🅵

A6 若者たち (ザ・ブロードサイド・フォー) 🅳

A7 この広い野原いっぱい (森山良子)☆ 🅳

B1 さすらい人の子守唄 (はしだのりひことシューベルツ) 🅲

B2 浜でギターを弾いてたら (藤野ひろ子)☆

B3 風 (はしだのりひことシューベルツ)☆ 🅷

B4 恋の花うらない (ビリー・バンバン)☆ 🅱

B5 鳩のいない村 (藤野ひろ子)

B6 坊や大きくならないで (マイケルズ)☆ 🅱

 

演奏: バロック・メイツ+スィンガーズ・スリー(☆)

編曲: 小川寛興

定価: 1,500円

 

地下地上構わず、フォークの風が吹き荒れた69年。過激にして内省的、現実主義にして現実逃避系と、捉え所のないイメージはあったけれど、ある部分を拾い上げると実に爽やかな印象が浮かび上がる。それを具象化して見せたのがこのアルバム。歌謡曲の下世話な部分とオーバーラップしない程度にポップな内容の曲を集め、メロウなサウンドで聴きやすいインストに仕上げている。またこの曲か、と呆れつつも、心にもたらす安らぎは並の歌無歌謡盤とは桁違い。さすが、職人・小川寛興先生の成せる技。

まず「或る日突然」。あの印象的なイントロを生かしつつ、チェンバロの響きで高貴感を強調。そこに吹き込んでくるシンガーズ・スリースキャット・コーラス。まさに職人芸。匿名性の高いコーラスとは一味も二味も違う。2コーラス目で伊集加代さんが奔放にさえずり始めると、フルートが絶妙に応える。見事すぎるヴァージョンである。自社推し枠のあっと驚く選曲もあり、「海はふるさと」はB級フォークなんて枠に入れるのがもったいない名演に昇華されているし、「浜でギターを弾いてたら」は改めて名曲だと再認識させてくれる。「恋の花うらない」モンキーズの「ホールド・オン・ガール」かと思わせるアレンジが効いている。コーラスの入っていない曲では、突如プログレ風な展開を見せる「さすらい人の子守唄」が聴きもの。唯一、原曲の持つメッセージ性を歌なしでさらに重厚に表現した「鳩のいない村」が異色(原曲は五木寛之の「恋歌」がベースになっている反戦メッセージ・ソング)。やはり、人の声に勝る楽器はないなと、時には思わさせられる1枚なのです。