ビクター SJV-721
フレッシュ・ヒット・フォーク
発売: 1974年10月
A1 旅の宿 (吉田拓郎) 🅷
A2 闇夜の国から (井上陽水)
A3 あなた (小坂明子) 🅳
A4 もう一度 (小坂明子)
A5 結婚しようよ (吉田拓郎) 🅶
A6 襟裳岬 (森進一) 🅸
B1 心もよう (井上陽水) 🅸
B3 私は泣いています (りりィ) 🅲
B4 夏の夜は (うめまつり)
B5 姫鏡台 (ガロ) 🅱
B6 君の誕生日 (ガロ) 🅶
演奏: サウンド・オブ・ドゥリーマース
編曲: 小谷充
定価: 2,000円
また一人、日本の大衆音楽界を引導した重要人物が亡くなりました。亜星さんの時も激しく動揺せずにいられなかったけれど、今回はまた、違った意味で複雑な気持になる…近年のすぎやま先生の思想を取り巻く意見の交錯とか、はたまたとある仕事を境にしたその評価軸の変化とか、そういったものに感情を振り回されると、どうしても素直に物事に対する見解が述べにくくなる。
3年前の先生の誕生日に、宗内の母体名義でコラムを書かせていただいた時も、きっと同じような感情に襲われていたに違いない。あの時書いた文章にさえ、今になれば自分の素直な思いを投影できたとは思っていない。
そんなわけで、結局は歌無歌謡脳に戻り、彼の偉業を称えるしかなくなる。もちろん、なかにし礼さんを筆頭とする、名作詞家達の貢献を抜きにして語れない名曲ばかりだけど、いずれにせよ皆、歌詞のない曲での仕事を率先して称えるのだろう。それはないよ、と内心思うけど。
でも、メロディーだけでも充分語るに値する曲ばかりだと思いませんか。「恋のフーガ」にせよ、「亜麻色の髪の乙女」にせよ。今月のある日に更新する準備をしていて急遽繰り上げることにした、このビクターのフォーク・ヒット・コレクションにも、最後に2曲、ガロに提供した名曲が控えている。「学生街の喫茶店」は数多の好解釈を産んでいるし、選択肢も幅広いけど、ここでさりげなくラストを飾っている2曲もエレガントに、時代の輝きを映している。「姫鏡台」なんて、リアルタイムで聴いた時はむしろ違和感しか感じなかったけど、こうして聴くとなんていい曲なんだろう。
「FLESH」とは実に雑な仕事ぶりだなと思うけれど(肉感的、という意味で捉えればいいのだろうか。おまけに裏ジャケでは「FQLK」なんて誤植も)、大ヒットを揃える中、さりげない自社推しにうめまつり「夏の夜は」なんてのを持ってきたりして、甘酸っぱさを感じさせるアルバム。同年、メロトロンズ『演歌の旅』(SJV-703)なんていう奇盤を手掛けてもいる小谷充氏も、ここでは若々しいフィーリングを捉えての手堅い仕事ぶりだ。「心もよう」でリズムが噛み合わないところが露呈したりもしているけど、「闇夜の国から」なんて爽快に飛ばしているし、「襟裳岬」もポップ感が前面に出ていて一味違う。
最後に、今まで紹介した歌無歌謡アルバムで聴けるすぎやま作品から決定的な1曲を選ぶとしたら、6月24日紹介『紅白歌謡ヒット・メロディー』に入っている「恋のロンド」とさせていただきたい。この曲が意味するものは大きすぎるのだ。謹んで、ご冥福をお祈りします。