黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その27: 日本のメロディー

ママ LC-1

魅惑のリコーダー

発売: 1977年2月

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ジャケット



A1 砂山 🅲

A2 赤とんぼ 🅴

A3 ゴンドラの唄

A4 叱られて 🅴

A5 ちんちん千鳥 🅱

A6 花 (滝廉太郎) 🅳

B1 七つの子 🅴

B2 ペチカ

B3 宵待草 🅱

B4 雨降りお月さん 🅲

B5 待ちぼうけ 🅳

B6 カチューシャの唄

 

演奏: ブレッサン・リコーダー・カルテット&オーケストラ

編曲: 小野崎孝輔

定価: 1,500円

 

ビクターのアイドル歌謡、子供を主人公にした映画音楽に続き、3回目の登場となるリコーダーが主役となるポップ・インスト・アルバム。いや、この3枚で全てかもしれない(少なくともレコード時代は。CD時代はそれこそ栗コーダーとか、いろいろ出てますからね)。この盤と同じように、童謡・愛唱歌を取り上げた盤は他にもあるけれど、あくまでも教材的性格を強調した内容のものが殆どで、なんか触手が伸びない(自主制作の学校生徒関係のブツなら話は別…いや、メジャーにさえ最低1枚ありますが…汗)。この盤も最初は、そんな1枚かなと思っていた。あのいわさきちひろ先生のイラストを起用したジャケットからは、帯の不在も手伝って情報が全く得られず、ただ単にリコーダーの演奏盤ということで手を出してみたら、意外にも大当たりだったのである。端的に言えば、『さわやかなヒット・メロディー』以上の傑作かもしれない。

女流リコーダー奏者としては、日本における先駆者的存在である荒川恒子さん(小学4年の時だったか、彼女がNHK-FMのリサイタル番組で演奏するのを聴いて、キュンキュンした記憶があります…汗)が、ガチながら親しみやすい解説文を寄せており、一方曲単位では歌詞と簡単な解説は添えられているものの、譜面の掲載はなし。教材的性格は希薄でありつつも、さりげなく実践を促している要素がある。制作者クレジットはちゃんとしているが、肝心のミュージシャンクレジットが皆無。どうやら、笛関係のスタジオミュージシャンとして草分け的存在である旭孝氏のサイト(ここは歌無歌謡好きにとっても有意義な情報満載で必読!山内喜美子さんのお写真もこっそり!)で示唆されているような、本職がフルートや他の管楽器を手掛ける奏者が集結したのが「ブレッサン・リコーダー・カルテット」であるような気がする。だからこそ匿名性が高いのかな。荒川さんのようなガチな奏者が演奏に参加していたら、もっと響きが変わってくるだろうし。「ジャパン・レディス・オーケストラ」を送り出した徳間傘下のママレコードからのリリースなので、そこからの人材起用じゃ…まさかそれはないだろう。

そんな憶測をさせてしまう音が、1曲目「砂山」から全開である。シャープなドラム音に導かれ飛び出すのは、クラウンの歌無歌謡版「恋人試験」で聴けたような、あの「ケーナみたいで実はそうじゃない」音そのものだ。そこにリコーダー本来のスウィートな音が絡んできて、ポップなオーケストレーションを誘導する。コロムビア盤のこの曲のハードロック・サウンドとも趣きが違う、ドラマティックなサウンドになかなかの冴えをみせる笛の響き。これみよがしに凄いでしょって言う代わりに、「あなたにもできるよ」と優しく語りかけてくれるのだ。「日本のメロディー」シリーズでは毎回登場となる「赤とんぼ」も麗しく、サイドメロディーで絡んでくるアルトリコーダーの音がまさに胸キュンもの。リードをとる音は、ストーンズの「ルビー・チューズデイ」で聴けるブライアンの、あの音にそっくりだ。

渚のバルコニー」のようなイントロで始まる「ゴンドラの唄」は、まさに「恋せよ乙女」の完璧な音像化。「叱られて」も意外性たっぷりのメロウなイントロで、主人公の心境を投影している。どの曲も鮮やかなアレンジで完成度が高く、気合入った録音も理想的。ここまでのものを、歌無歌謡盤にも求めたいものだ。そしてやっぱり、笛を持って街に出たくなりませんか…そんなことを訴えかけるレコードに文句は言えません。こういう盤を作ることこそ、我が本望。願わくば、顔の見えるフレッシュな奏者さんたちを集めて。