黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1979年、今日の1位は「セクシャル・バイオレットNo.1」(2週目)

ポリドール MR-1546

TOKIO/親父の一番長い日 歌謡ヒット最前線

発売: 1980年1月

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ジャケット(一部クロップ済)



A1 TOKIO (沢田研二)Ⓐ

A2 親父の一番長い日 (さだまさし)Ⓐ

A3 C調言葉に御用心 (サザンオールスターズ)Ⓐ

A4 SOPPO (ツイスト)Ⓐ

A5 愛の水中花 (松坂慶子)Ⓐ 🅱

A6 ホーリー&ブライト (ゴダイゴ)Ⓐ

A7 しなやかに歌って (山口百恵)Ⓐ 🅱

A8 セクシャル・バイオレットNo.1 (桑名正博)Ⓐ

B1 関白宣言 (さだまさし)Ⓐ

B2 勇気があれば (西城秀樹)Ⓐ

B3 女だから (八代亜紀)Ⓐ 🅱

B4 よせばいいのに (敏いとうとハッピー&ブルー)Ⓐ 🅱

B5 魅せられて (ジュディ・オング)Ⓑ 🅳

B6 カサブランカ・ダンディ (沢田研二)Ⓒ 🅲

B7 夢追い酒 (渥美二郎)Ⓓ 🅵

B8 おもいで酒 (小林幸子)Ⓔ 🅳

演奏: ポリドール・オーケストラ

編曲: 京建輔Ⓐ、川上了Ⓑ、伊部晴美Ⓒ、竹村次郎Ⓓ、しかたたかしⒺ

定価: 1,500円

 

今日の主題に少し先駆けた1979年9月25日、YMOのセカンド・アルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』がリリースされた。既にファーストの音を随所で聴いていたり、海外でのライヴの評判が伝わっていたことで興味津々だった宗内(の母体)は、普段は洋楽の新譜アルバムを丸ごと紹介するという、今思えば大胆な番組、FM大阪の「ビートオンプラザ」で発売間近の同作が流れるというので、胸を躍らせて飛びつき、しばらくはそのエアチェックテープを聴きまくり夢中になった。

年が明ける頃には、フジカセットのCMが追い風となってYMOの人気が急上昇。「現象」と化すそのちょっと前から、従来「歌のない歌謡曲」もしくは海外のムード演奏ものがメインだった「喫茶店のBGM」界のトレンドに、YMOの音楽が食い込み始めていた。テーブル筐体に埋め込まれ、喫茶店仕様にカスタマイズされたTVゲームの無機的な音に彩りを加えるに相応しいサウンドだったのだろう。12月にリリースされた高中正義の『JOLLY JIVE』の小洒落たフュージョンサウンドも併せ、黄色く青く彩られたレコードは全国の喫茶店ターンテーブルを飾りまくった。従来はあり得なかった「日本語の歌唱が聴かれる音楽」までが、サザンやCharといったアーティストのアルバムを経由して、喫茶店音楽の主流に躍り出たのもこの時期。シティポップの隆盛を考える時、この現象は無視できないものだと思っているが、いずれにせよ「歌のない歌謡曲」はこの頃には「イケてる存在」から除名されていたのだ。

 

延々と前置きしたけど、そんな時期でさえちゃんと作られていたのだよ、歌無歌謡盤は。どっこい、ポリドールも生きていたのである。80年代の序幕を飾るに相応しい、ジュリーの新曲TOKIOをオープニングに配して。既にアルバムのタイトル曲として世に出ていたので、シングルを出す同月発売というタイミングで乗れたのだろう、したたかな戦略だ。と言っても、ニューウェイブ風味は控えめであっさりとした解釈。アコギなんかも使っていてさわやかだ。続いては、12分という超大作で12インチシングル初のオリコン1位に輝いた「親父の一番長い日」。当然かなり簡素化し、約5分強に抑えている(それでもかなり長い)。フルコーラス演奏したら当然地獄だろう…と言えども、ポリドールが次に出した歌無アルバムでは、この曲は「大阪で生まれた女」の後に配されており、この2曲をガチで全部演奏したら合計46分にも及ぶのである(爆)。恐ろしい。先ほど名前を出したサザンのC調言葉に御用心もあっさり、歌を抜くと余計お洒落感が浮き立つ解釈だ。元からベースラインがいかす曲なので、忠実に演られるとそれだけで安心する。

そこから先、「SOPPO」のタフなロックから、ムーディな「愛の水中花」を経て、後半のアダルト・演歌路線に抜けていく。いずれも無難な演奏故、歌無歌謡時代の挽歌的な切ない響きが伝わってくるのだけど、名曲が揃っているし、大胆な解釈を欲しがる時代はもう終わったと言えども、やはり曲の力だけで安心できる。ポリドールのベテラン伊部晴美先生もカサブランカ・ダンディ」で意地を発揮(ギターは弾いていないようだが)。対して「夢追い酒」は守りに入りすぎていて面白くない。「DuBiDuBi東京」の遠藤・竹村タッグ故、期待しすぎるのもしょうがないけど(汗)。こうして、時代は80年代へと突進する。