黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1971年、今日の1位は「雨のバラード」(2週目)

アトランティック L-6020A

雨の日のブルース ビッグ・ドラム・ベスト・ヒット20 

発売: 1971年9月

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ジャケット

 

A1 夏の誘惑 (フォーリーブス)

A2 雨の日のブルース (渚ゆう子) 🅱→7/4

A3 燃える恋人 (本郷直樹) 🅰→7/4

A4 いつもなら (朝丘雪路) 🅲

A5 恋人になってあげよう (発地伸夫)

A6 甦る明日 (岸洋子) 🅱

A7 青空は知らない (堺正章) 🅱→7/4

A8 雨のバラード (湯原昌幸) 🅰→7/4

A9 星のメルヘン (ダーク・ダックス)

A10 さよならをもう一度 (尾崎紀世彦) 🅶

B1 おもいでの長崎 (いしだあゆみ) 🅲

B2 ポーリュシカ・ポーレ (仲雅美) 🅰→7/4

B3 太陽のかけら (美樹克彦)

B4 17才 (南沙織) 🅳

B5 お祭りの夜 (小柳ルミ子) 🅳

B6 男のこころ (由紀さおり) 🅲

B7 長崎から船に乗って (五木ひろし) 🅳

B8 サマー・クリエイション (ジョーン・シェパード)

B9 港の別れ唄 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅱→7/4

B10 愛の巡礼 (藤圭子)

 

演奏: 市原明彦 (ドラムス)/ワーナー・ビートニックス

編曲: 原田良一

定価: 1,800円

 

71年正式発足したワーナーブラザーズ・パイオニア(現ワーナーミュージック・ジャパン)は、強力な洋楽ラインナップで市場に大きな揺さぶりをかけると同時に、4分の1出資した渡辺プロダクションのパワーで強力新人を揃え、歌謡曲市場に殴り込み。第1回新譜にして早々と歌無歌謡のアルバム『ヒットパレード・ナイトムード』(L-5001P、パイオニア・レーベル)が出ている。その後もう1枚、ワーナー・レーベルでの単発ものを経て、いよいよ9月、アトランティックを舞台にワーナー・ビートニックス/ブリリアント・ポップス’77名義での快進撃がスタート。まさか、2年近くこの勢いが続くとは、作った本人達も予想してなかったろう…何せ、ポリシーの一貫したジャケット作りは、第1回新譜で早々と確立されており、たとえ曲が重なろうが、この流れで1枚1枚棚に増やすことに快楽を感じた人は、少なからずいるに違いない(自分もそうだ…ただ、あまり値が張るのも考えものだが)。

この、初のドラムメインとなるアルバムでは、まだ『華麗なる~』という決め手フレーズは登場せず、その代わりに大胆不敵な「これ以上迫力あるドラムの録音は無理です!」が、早々と帯を飾っている。トップの「夏の誘惑」からして、基本路線が既に確立。後のアルバムで聴ける重厚さや極端な疾走感にはまだ達していないが、ドラムの音はステレオでダイナミックに捉えられ、ギターの音も大胆に加工。パーカッションやブラスも煽りまくり。とにかく勢いのある曲を1曲目に配したのは成功だ。A面前半はこの調子で突っ走るが、「恋人になってあげよう」が自社推し枠で異色。アイドルとしてデビューしながら、のちにロックに転向。クロニクルを経て、アニソンファンにはおなじみTALIZMANのギター/ヴォーカルとして大活躍した発地伸夫の、記念すべきデビュー曲にしてレア曲。本郷直樹仲雅美の曲と同じアルバムに入ってるところが、時代の色を感じさせる。新御三家前夜だ。

A面後半は割と変化球路線で、「甦る明日」はまさかのダイナミックな展開に…と思った途端フェイドアウト「青空は知らない」は既に7月4日紹介の『愛する人はひとり』に流用されているのを紹介したが(同様のケースが他に5曲あり)、笛をフィーチャーした摩訶不思議なアレンジだ。高音部のくすみ具合から、ソプラニーノ・リコーダーと判断したが、それにしてはベンド音がスムーズすぎたり、謎が多い。「雨のバラード」も退廃的アレンジだが、これらの曲でもしっかり、ドラムの聴かせどころが用意されている。

B面も前半(4曲目まで)が爆走気味、後半は多少メロウ路線という構成だが、「17才」がまさかのニューロック度高い仕上がりで、ベースも大爆発。まさか、18年後ワーナーに大ヒットをもたらす曲になるとは、誰が予想したか?「お祭りの夜」「愛の巡礼」など、オルガンの妙な響きが耳を捉えまくり、「サマー・クリエイション」ではフルートにトレモロかなんかをかましたり、一筋縄ではいかない歌無歌謡ワールドだ。ワーナー・ビートニックス美学の出発点として見過ごせない、貴重な1枚。