黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は岩崎宏美さんの誕生日なので

東芝 TP-60106

琴と三味線による最新ベスト・ヒット16

発売: 1976年

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ジャケット

A1 水仙 (八代亜紀) 🅲

A2 愛の始発 (五木ひろし) 🅲

A3 故郷 (森進一)

A4 弟よ (内藤やす子) 🅳

A5 二人の御堂筋 (内山田洋とクール・ファイブ)

A6 愚図 (研ナオコ)☆ 🅱

A7 傾いた道しるべ (布施明) 🅱

A8 美しい愛のかけら (野口五郎) 🅱

B1 あの日にかえりたい (荒井由実) 🅴

B2 センチメンタル (岩崎宏美) 🅲

B3 酔いどれ女の流れ唄 (みなみらんぼう)☆ 🅳

B4 アザミ嬢のララバイ (中島みゆき)☆ 🅱

B5 陽かげりの街 (ペドロ&カプリシャス)☆

B6 時の過ぎゆくままに (沢田研二)☆ 🅵

B7 シクラメンのかほり (布施明) 🅷

B8 ロマンス (岩崎宏美) 🅶

 

演奏: 山内喜美子、吉川富子 (琴)、豊静、静子 (三味線)/東芝レコーディング・オーケストラ

編曲: 斎藤恒夫、荒木圭男(☆)

定価: 2,000円

 

名盤『惚れた/琴のささやき』の青い着物のお姉さんがちょっと角を曲がった先の古風な宿に入ろうとしてるようなジャケットが哀愁を誘う、76年のヒット和風ヴァージョン集。何せ山内さんの名前があるので安定クォリティだが、この4人の女帝が果たして一度に会して演奏してるのかそうでないのか、はっきりとしたクレジットがない。ただ、一気にモダン化を増したサウンドの中に溶け込む和風な音色は、哀愁と共にほんのり微笑を誘う。まずは1曲目「花水仙。このイントロは「シクラメンのかほり」か?いや、微妙に違う。フォーク色の濃い雰囲気に切り込む琴の優しい音。曲が始まると、三味線が淡々とメロディを奏で、シャープなドラムが食い込んでくる。琴にリードを譲ったところで、女性コーラスかと一旦思わせる妙なシンセの音が絡んできて、余計無国籍な世界に引きずり込まれる。このサウンドで「ホテル・カリフォルニア」を演るところを妄想してしまう…特にドラムの音のキレの良さが、70年代初期までの歌無歌謡と格段の違いで、妙なコントラストを引き起こすし、女性コーラス風シンセも「故郷」など随所に顔を出す。「弟よ」では三味線とリコーダーという絶妙な絡みも聴けるし(この笛の音めちゃいい)、「愚図」はまさかのテンポアップした解釈でかえって妙な感触だ。「美しい愛のかけら」のイントロのワウギターと三味線の絡みなんて、めちゃゾクゾクするし、琴とベースも揃って好サポート。みんな弦楽器やないですか、考えてみれば。

極度の期待を抱かせるのはやはりB面の冒頭2曲。いいっすよね、「あの日にかえりたい」を琴でやるのも。Bメロで三味線が入ってくるところも憎めないし、フルートのソロがめちゃいい音だ(「弟よ」のリコーダーもこの人の演奏か?)。「センチメンタル」も4人の奏者が上手く分担し合って、乙女サウンド満開だ。「酔いどれ女の流れ歌」はセルフカヴァー版のカヴァー(?)で、森本和子の時にもビクター盤で山内さんがカヴァーしているが、ずっと色っぽさを増した解釈(尺八の代わりに三味線が入ってるのはでかい)。「アザミ嬢のララバイ」は『フォーク・ムード2』より早く取り上げているはずで、よって4月5日の記述は撤回します(汗)。イントロに尺八も入り、京琴も含む4人の演奏がきらびやかに絡み合ってカラフルなヴァージョン。こんなにポップな味だって和楽器で出せるんですよ。「陽かげりの街」も同様に踊り出したくなる演奏で、ここにも尺八が。最後の3曲はもう余裕綽々で、シクラメンのかほりもジャパネスクなイントロを添えて別世界へ。三味線の響きもシタールを思わせるところがある。東芝はこのアルバムをジョージ・ハリスンに送りつけるべきだった(汗)。

岩崎宏美さんと言えば、宗内の母体がレコード会社に勤めていた95年に感動的に対面が叶って、「デビュー当時からファンでした」と告げたら「あなた私がデビューした時生まれてなかったでしょ!」と返されたことを一生勲章として生きていたいです。京琴がチェンバロのように鳴り響く「ロマンス」を聴きながら、そのことを思い出して胸キュンです。もうほんと、めちゃいいアルバムだな。