黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は小林麻美さんの誕生日なので

トリオ PA-5022(Q) 

ベスト&ベスト 京のにわか雨

発売: 1972年9月

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ジャケット

 

A1 初恋のメロディー (小林麻美) 🅱

A2 京のにわか雨 (小柳ルミ子) 🅺

A3 恋は波まかせ (千葉マリヤ)

A4 夜汽車 (欧陽菲菲) 🅸

A5 雨が降る日 (トワ・エ・モア)

A6 夏のふれあい (フォーリーブス) 🅱

B1 古いお寺にただひとり (チェリッシュ) 🅳

B2 遠い遠いあの野原 (森山良子)

B3 心の痛み (朱里エイコ) 🅲

B4 まるで飛べない小鳥のように (いしだあゆみ) 🅲

B5 ベイビー (平田隆夫とセルスターズ) 🅳

B6 こころの炎燃やしただけで (尾崎紀世彦) 🅳

 

演奏: はとりこうじとサウンド・エクスプロージョン

編曲: 藤田はじめ

備考: SQ方式4チャンネル・レコード

定価: 1,800円

 

ガチなオーディオ・メーカー傘下レーベルとしてスタートし、4年目まで一切歌謡市場に関わらなかったトリオレコードだが、その4年目突入の瀬戸際まで歌無歌謡のレコードが合計4枚発売されている。皮肉なことに、その4年目以降は一切歌無歌謡に関わらなくなるのだが、初期の頃ジャズとクラシックに特化したオーディオファイル的センスで、歌無歌謡の新たな可能性を追求したという感じだろうか。杉本喜代志を起用しての第1作は、音質面を除くとその辺を突き抜けたとは言い難い出来だったし、最後に出た『魅力のマーチ・小さな恋の物語』は音楽的実験性は目立ったとは言え、結果的にワーナー・ビートニックスの残骸を拾い上げたようなものだった。初日に取り上げた時はあれだけ騒いだのに…8ヶ月間で色々と学習しましたね。

面白いのは、その間に出た2枚の方である。いずれも72年の発売で、これがその2枚目にあたるもの。トランペッターの羽鳥幸次をバンマスとする匿名集団の演奏によるアルバムで、アレンジャーも馴染みのない名前だけど、針を落とした途端他社の歌無アルバムでは味わえないカラーが音場を覆い尽くす。他社の演奏例があまり見られない小林麻美の超名曲、「初恋のメロディー」をなんと1曲目に選曲というだけでも胸熱なのに、なんなんだこの爽快な期待裏切りっぷりは!カッコ良さすぎる!無意味にレア・グルーヴとか言って騒ぎたくない自分だけど、胸が躍りまくる。音場のあちらこちらから刺すようなサウンドが畳みかけてくるのだ。普通のステレオで聴くと、ベースがめちゃくちゃ引っ込んでいる感じがするが、4チャンネルデコードするときっとびっくりするだろう。トリオならではのクオリティコントロールサウンドもクリア。手元のジャケットはボロボロなのに、盤の方は強靭すぎる。この1曲目だけで100点満点。「京のにわか雨」も、こんなアレンジされていいのかという胸熱展開の嵐。タムのチューニング可変奏法(?)など、大胆な技も繰り出しまくり。オルガンも、敢えてチープな音色に設定しつつ、グリッサンドも生々しいタッチで記録されているし。「恋は波まかせ」「雨が降る日」なんてのもレア選曲だが、原曲の存在を意識させないぶっ壊しぶり。アッパーに料理される様が想像できないB面前半の曲も快調に飛ばしまくり。この調子で最後までペースを緩めない。合計約35分、無茶しないカッティングも功を奏してのブラスロック一大絵巻。レコードは顔じゃ選べないと、ほんと思います。(なお、この盤の表ジャケットも昨日同様、顔の部分に擦り傷が付いているが、裏は同じ写真を使用しているとは言え、リングウェアやら何やらで余計ひどいことになっているので、これで容赦して…)