黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は「モントルー炎上事件」の日…あれっ!?

アトランティック QL-6067A 

華麗なるドラム・ベストヒット20 虹をわたって/死んでもいい

発売: 1972年10月

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ジャケット(内側)

 

A1 狂わせたいの (山本リンダ) 🅴→10/18

A2 あなたに賭ける (尾崎紀世彦) 🅳→10/18

A3 虹をわたって (天地真理) 🅶→10/18

A4 恋の衝撃 (朱里エイコ) 🅱→10/18

A5 孤独 (和田アキ子) 🅰→10/18

A6 女という名の汽車 (坂本スミ子) 🅱

A7 朝が来たら (伊東ゆかり)

A8 哀愁のページ (南沙織) 🅷→10/18

A9 旅路の果てに (森進一) 🅳

A10 小麦色の少年 (原美登利) 🅱

B1 死んでもいい (沢田研二) 🅱→10/18

B2 夜汽車の女 (五木ひろし) 🅵→10/18

B3 悲しみよこんにちわ (麻丘めぐみ) 🅴→10/18

B4 月曜日は泣かない (平山三紀) 🅱

B5 京のにわか雨 (小柳ルミ子) 🅴→7/1

B6 めぐり逢う青春 (野口五郎) 🅲

B7 夜汽車 (欧陽菲菲) 🅱→4/30

B8 夢ならさめて (にしきのあきら) 🅱

B9 まるで飛べない小鳥のように (いしだあゆみ) 🅱→7/1

B10 風の日のバラード (渚ゆう子)☆ 🅰→4/30

 

演奏: 市原明彦 (ドラムス)/ワーナー・ビートニックス

編曲: 原田良一、竜崎孝路(☆)

制作: 大野良治/ミックス: 島雄一

備考: SQ方式4チャンネル・レコード

定価: 1,800円

 

1971年12月、レコーディングのためにスイス・モントルー入りしたディープ・パープル一行。まずは現場偵察も兼ね、レコーディング会場に選ばれたカジノ場で行われたフランク・ザッパマザーズのコンサートを鑑賞。その途中、観客の中にいたスチューピッド野郎が、何を思ったか天井に向けて火炎銃を発射。たちまち現場は阿鼻叫喚の大パニックに陥り、パープルも断腸の思いでレコーディング場所を空きホテルの廊下に変更。そこでの一部始終を、あのリフと共に不朽の名曲「スモーク・オン・ザ・ウォーター」として音楽史に焼き付けた。そんな「モントルー炎上事件」の日が12月4日で、ザッパはその数日後、ロンドンでこれまたスチューピッドな客に妬かれてステージから落下させられ更なる災難を背負い、奇遇にも22年後のこの日、生涯を終えた。

 

そんな物語がなぜに歌無歌謡ブログに?その心は、このアルバムに収録された「孤独」にある。ドラムに導かれ快調に突っ走る序盤の4曲の後、唐突に「あのリフ」が始まるのだ。当時のワーナーを勢いづけていた大ヒットアルバム『マシン・ヘッド』にリスペクトを表したとしても、あまりにもモロ過ぎ、失笑を禁じ得なくなるのだ。3回目のリフでブラスが加わり、曲本体を強引に乗せる。作者の筒美京平先生はこれを聴いて何を思ったのだろうか…「こんなモロ使いなら、いっそ作曲の段階でできるのでは」と思ったか否かは不明だが。とにかく、これを聴いて我がワーナー・ビートニックス愛は絶頂に達した。

既に10月18日に取り上げたドラムメインの2枚組『漁火恋唄・悲しみよこんにちわ』に9曲が流用されている他、『ヒット・バラエティー』盤や『ビート・オルガン』盤とのヴァージョン被りもあり、しかも曲がコンパクトにまとめられているので(1曲平均2分半ない!)、ややこしいことを語る隙も与えないのだが、いずれにせよセンスの良い演奏が終始続く。筒美京平作品8曲を追うように、3曲選ばれた鈴木邦彦作品がいずれもスリーパー気味ながら素晴らしく、この人のアンソロジーもちゃんと組んであげなきゃという気持ちを導くのだ。筒美曲「女という名の汽車」から鈴邦曲「朝が来たら」へと流れていくところなど格別で、いずれにもドラムの見せ場がちゃんとある。かと思えば、元が相当なハードロック演歌である「夜汽車の女」はこちらではヘヴィメタル化と言えるほど変容している。ヤードバーズの「フォー・ユア・ラヴ」を下敷きにしつつ、「待っている女」のエンディングをさらに激しくしたような結末に導く。1コーラスのみの演奏が実にもったいない。決してテンションを緩めない、ワーナー・ビートニックス最高傑作と呼んでもいいアルバム。

 

珍しく、穴あきカバーを開いた状態の内側のポートレイトを掲載させていただきましたが、大体このシリーズはこのような構造になっています。開いていない状態のジャケットは、7月31日のエントリに載せた通りの状態になっています…改めて、大野良治さんのご冥福をお祈り申し上げます。