黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は岸洋子さんを偲んで

エキスプレス EP-7774

手紙/時は流れる 

発売: 1970年

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ジャケット

 

A1 手紙 (由紀さおり) 🅴

A2 嘘でもいいから (奥村チヨ) 🅲

A3 命預けます (藤圭子) 🅶

A4 希望 (岸洋子) 🅴

A5 京都の恋 (渚ゆう子) 🅵

A6 わたしだけのもの (伊東ゆかり) 🅳

B1 時は流れる (黛ジュン) 🅳

B2 波止場女のブルース (森進一) 🅵

B3 初恋の人に似ている (トワ・エ・モア) 🅳

B4 愛は傷つきやすく (ヒデとロザンナ) 🅳

B5 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅶

B6 昨日のおんな (いしだあゆみ) 🅴

 

演奏: 原田忠幸 (バリトン・サックス)

編曲: 前田憲男

定価: 1,800円

 

東芝のエキスプレス・レーベルには、極少数ながら実験的アプローチによるインスト・アルバムが残されており、その独自性がとんでもない希少性に繋がったりもしているのだが、唯一手許に舞い込んだこの盤は主役がバリトン・サックスという、それだけでも大胆な盤だ。

宗内の母体がやっている即興バンド、Racco-1000の初期のライヴで管セクションを充実させるため、バリサク専の乙女Aさんを迎え入れたことがあるのだが、とにかくでかい。乙女が扱うものではない(失礼)。ただ、そこに息が入れられるととんでもないパワーに圧倒されるのだ。そんなパワーが、果たして乙女度の高いこのアルバムの選曲にどう立ち向かうのか。ジャケットからして、そんじょそこらのモデルを使っていない。本人爆誕である。しかもアレンジに前田憲男を起用。果たしてどう来るのか。

1曲目はポップな「手紙」。テナー・サックスの「唸り」をさらに圧倒する低音パワーなのだが、そこまで猥雑感はなくむしろ躍動感を高めている。この音だけで、本来あるはずがないジャズファンク色が醸し出されているというか、最後の方の奔放さに潔さを感じる。「手紙~」の「み」が1オクターブ上がらないところとか、まさに個性。「嘘でもいいから」でも、小悪魔性そっちのけ、野獣がラヴリーに暴れ回るイメージが形成されている。しかし、なんと言っても「命預けます」の任侠性。これこそ、バリサクの意地の見せ所。後ろではキハーダがビート感関係なく、執拗に鳴らされまくり挑発している。時々入るテナー・サックスのオブリなんて、完全に萎縮した響きだ。最も乙女度の高い選曲と言える「初恋の人に似ている」は、アルト・サックスとのデュオで、トランペットが取り囲む。原田寛治盤で狂気に満ちたアレンジを手掛けていた前田氏も、ここでは曲のムードを尊重して手加減(まぁ、自レーベル推しだし)。他の曲も「黄金のドラム」と被りが多いので、楽しく聴き比べできそうだが、何せあちらの盤がゆわんゆわんなのでね(汗)。

バスクラリネットファゴットが歌無歌謡のレコードから聴こえてくると、思わずエキサイトしてしまうのは低音好きだからってわけではないけど、やっぱたまんないですよね。さすがにバスリコーダーは未だ聴いたことないですが…