黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は安西マリアさんの誕生日なので

CBSソニー SOLH-38 

歌謡ワイド・スぺシャル

発売: 1973年11月

f:id:knowledgetheporcupine:20211215045007j:plain

ジャケット

 

A1 空いっぱいの幸せ (天地真理) 🅰→7/16

A2 わたしの宵待草 (浅田美代子) 🅰→7/16

A3 白いギター (チェリッシュ) 🅴→7/16

A4 恋やつれ (藤正樹)

A5 記念樹 (森昌子) 🅰→7/16

A6 みずいろの手紙 (あべ静江)

A7 冬の旅 (森進一) 🅲→7/16

A8 海鳥の鳴く日に (内山田洋とクール・ファイブ) 🅳

A9 色づく街 (南沙織) 🅴→7/16

A10 夜空 (五木ひろし) 🅱→7/16

B1 アルプスの少女 (麻丘めぐみ) 🅱→7/16

B2 夏色のおもいで (チューリップ) 🅲→7/16

B3 愛のビーナス (安西マリア) 🅱

B4 魅力のマーチ (郷ひろみ) 🅲→7/16

B5 愛さずにいられない (野口五郎) 🅱

B6 秘密 (水沢アキ)

B7 女ごころ (八代亜紀) 🅱

B8 十五夜の君 (小柳ルミ子) 🅴→7/16

B9 胸いっぱいの悲しみ (沢田研二) 🅴→7/16

B10 やどかり (梶芽衣子)

 

演奏: クリスタル・サウンズ

編曲: 矢野立美、土持城夫、伊藤祐春

定価: 1,500円

 

クリスタル・サウンズの魅力にどっぱまりになった記念すべきアルバムがこちら…というと嘘になり、本当は7月16日紹介した『歌謡ワイドワイドスペシャル』がそれなのだけど、そこに12曲を送り込んだ「母体アルバム」の一つがこれで、幾つかキーとなるトラックがこちらに集中しているので、これが重要盤になるのも仕方ないんですよ。

まずは『ワイドワイド』の方でもオープニングを飾った「空いっぱいの幸せ」。トッププライオリティの真理ちゃん故、のっけの抜擢は当時のソニーとしても必然でしたが、これがトップというのも弱いな…オリジナルに比べると盛り上がらないアレンジだし…と聴いていたら、2コーラス目でいきなり、ティファナ・ブラス風アレンジに乗って飛翔しはじめるのだ。派手ではないながら、景気付けという点では効果的だし、これから何が起こるのかなとわくわくさせる。

続いて必殺曲「わたしの宵待草」が早々と2曲目に登場。リコーダーが胸をキュンキュンさせる名演。所々ブレスが顕で余計ドキドキさせる。ガチフルーティストの演奏という感が希薄だし(フルートも別個ふんだんにフィーチャーされているし、その音質が実に対照的だ)、スタジオ経験があまりないフレッシュなプレイヤーを起用してるんじゃないかという妄想心がついつい暴走。他の楽器の場合もそうだけど、クリスタルのレコードの随所にはそんなフレッシュなタッチが溢れまくりなのだ。

もう一つのキートラックと言えば「記念樹」。冒頭はフルートでうつむき加減な乙女心が奏でられ、途中からリコーダーの素直な音に引き継ぐ。後者は「宵待草」と同じ響きだけど、フルートの方も初々しく、経験不足な、それでも初見でちょちょいなプレイヤーの音という感じで、サビに入ると仲良くデュエットしている。しかし、何を思ったかラスト近くで、一瞬フルートの音量が絞られかけ、慌てて元に戻される光景が現れるのだ。もしかして、試練としてこのミキシング仕事を与えられた若葉マークの仕業なのだろうか…そんな形で不慣れさが現れるところに、余計萌えてしまう。ミュージシャン以外でさえもこうなのだ。当時のセッションログとか、まじで覗き見したい…もう一曲、そんな愛しいリコーダーの音が「アルプスの少女」にも登場するが、これはそこまでそそってくれないし(ソプラノだしね)、イントロの「ヤッホー」をアコギで再現していたりとか、妙な感触がある。やっぱ筒美曲には半端な気持ちで臨んじゃだめ(と、横内さんみたいな超プロに対してまで言ったりする自分て一体…)。

『ワイドワイド』に選ばれなかった8曲の中では、「愛のビーナス」の比較的攻めた演奏が聴きもの。郷ひろみの「裸のビーナス」とかち合ったため、最高57位と撃沈したが、お詫びの如くここに選曲したのはソニーの温情か(それで「魅力のマーチ」を次に入れると…)。「みずいろの手紙」「秘密」あたりにさらなるリコーダーの登場を期待したのに…ともあれ、ここで確立されるクリスタル路線にその後最低5年間、要注意状態が続くのである。