東芝 TP-7324
さすらい人の子守唄/ミスター・ギター
発売: 1969年
A1 さすらい人の子守唄 (はしだのりひことシューベルツ) 🅴
A3 風 (はしだのりひことシューベルツ) 🅾
A4 時には母のない子のように (カルメン・マキ) 🅼
A5 白いブランコ (ビリー・バンバン) 🅺
A6 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅴
A7 愛の奇跡 (ヒデとロザンナ) 🅴
B1 大空の彼方 (加山雄三) 🅲
B2 七色のしあわせ (ピンキーとキラーズ) 🅵
B3 雲にのりたい (黛ジュン) 🅴
B4 くれないホテル (西田佐知子) 🅱
B5 坊や大きくならないで (マイケルズ) 🅳
B6 恋のなごり (小川知子) 🅳
B7 グッド・ナイト・ベイビー (ザ・キング・トーンズ) 🅳
演奏: 横内章次 (ギター)/ブルー・ドリーマース
編曲: 横内章次
定価: 1,500円
好夫ギターの職人芸的タッチもいいけれど、まさにフロンティアというべき横内章次のサウンドはもっと語られていいと思う。特に60年代末期の東芝盤は、慌ただしい制作状況であったと思われるが、容赦しないサウンド構築を全面で展開。69年のこの盤、恐らく4チャンネル録音と読んでいるが、最大でも3回、自分のパートを重ねており、他の音数を絞りながら冒険に挑んでいるのがよく解る。サウンドのカラーはクイン・ノート盤に通じるところもあって、ミュージシャンの多くは共通していたと思われる。いずれも演奏者が率先的にサウンドを演出している分、ノリ重視的展開が希薄で、隅々まで計算して音構築がなされているのだ。エコーの効果的多用もその一例。インスタント歌無歌謡なんてイメージと程遠い、それが東芝盤の魅力の一つ。
これの「夜明けのスキャット」一つとってみても、イントロはオリジナルを尊重した響きを保ちながら、小粋なムードを徐々に加え、最終的にはギターのメロに主導権を譲る。コード進行も簡素化せず、アレンジャーとしての意地を保持。最後の方にちょっと違ったカラーを加えているのがさすがだ。「時には母のない子のように」も、淡白そうに見せかけて、右側のリズムギターにボサノヴァ風タッチを託し、かなりのお洒落感を演出。「ブルー・ライト・ヨコハマ」は対照的にど派手にかっ飛ばす。鍵ハモが和音を奏で、ブラスセクションに匹敵するはりきり度を見せる。間奏を律儀に、オリジナルの間奏通り奏でているのは珍しい。「愛の奇跡」はイントロをドラマティックに演出しつつ、こちらも快調にぶっ飛ばしまくり。こんな展開でも、緻密に計算されているのがよくわかる。
B面も安定した演奏が続くが、「くれないホテル」で一瞬クールダウン。曲の構造をぶち壊さず、安息の地的な存在にとどまっている。その静寂を打ち破るのが、本盤でも屈指の異色曲「坊や大きくならないで」だ。ベトナム発の切実な反戦歌で、マイケルズのヒット盤の他に、山倉たかしのアレンジによる愛まち子盤など、日本盤カヴァーも続出したが、ここではセンチメンタルなムードが怒りのエネルギーに変換されたようなアグレッシヴな演奏。緻密なサウンド構築もここでは一休み、ギタリストとして攻めに攻めまくった快演が聴かれる。これは正にブルースそのものだ。これが東芝音楽工業から出た、何ともピースフルな時代よ…
アルバムのライナーは、小川知子を育て翌年には岡崎友紀を市場に送り出す、長沢ロー氏が書いている。しっかり芸能界全般を見据えているのがさすがだけど、「知子ちゃん」はいくらなんでもねぇ。