ハーベスト YC-5002
ヤング・ヒット・ポップス・ゴー・オン さよならをもう一度
発売: 1971年7月
A1 さよならをもう一度 (尾崎紀世彦) 🅸
A3 花・太陽・雨 (PYG)
A4 どうにかなるさ (かまやつひろし)
A5 男が一人旅を行く (嵯峨たかよし)
A6 ふたりだけの旅 (はしだのりひことクライマックス) 🅴
A7 愛の泉 (トワ・エ・モワ) 🅴
B2 青春のわかれ道 (ジローズ) 🅱
B3 レイニーナガサキ (入江ゆみ)
B5 ふたりそれから (嵯峨たかよし)
B6 花嫁 (はしだのりひことクライマックス) 🅸
B7 地球は回るよ (トワ・エ・モワ) 🅲
演奏: グリーンポップス・オーケストラ
編曲: 無記名
定価: 1,500円
歌無歌謡レコードの購買層を「ヒップ」なり「モッド」なピープルと仮定した上で制作された盤は恐らく皆無だと思われた…が、その説を覆してみせたのがこれだ。初期ハーベスト・レーベルのシングルでは常時演奏団体名としてクレジットされていた(浜恵子「ギターを弾いていたら」のような例外もあったが)「グリーンポップス・オーケストラ」の数少ないリーダーアルバムの1枚ながら、そのクレジットさえ曖昧な意味合いを帯びている上、詳細な情報が知り辛い。ジャケットとレーベルには作曲者のクレジットさえ記されていないが、帯に「歌詞カード付」の記載がないので歌詞カードの有無も有耶無耶だし、その代わりに内ジャケットにはヒップな文章がぎっしり、手書きで敷き詰められている。アルバムの内容を端的に示すものでもなく、あくまでも当時の深夜放送のような、「徒然なるもの」だ。右側の「ヤング英語辞典」に至っては、アルファベットの各文字に対応した語に関する蘊蓄めいたものが、各140文字程度で記されており、そのままTwitterに投稿したりしたら即「炎上」必至な内容のものも幾つか。当時のヒップピープルは、これで満足したんでしょうかね。この盤を流しながら夜通し麻雀とか、想像しがたいですが。「ファッション・イン」の衣装を纏った夏木マリ似のモデルが舞う様は、効果的アクセントとして配されていますが。
そんな謎めいたアルバムではあるけれど、さすがにミノルフォンの歌無歌謡盤とは明確に格の違いを打ち出しており、今の耳で聴くと素直に「いいね」と反応してしまう。何せB面トップに配された「また逢う日まで」は、さりげなく小西康陽監修コンピ『夜のミノルフォン・アワー』(フラワー・メグがジャケットのやつ)に選曲され、CD化されていた位である。かと言って、アルバム全体がそこまでカルトなオーラを帯びているわけでなく、細部まで練られた繊細なサウンドの割に、さらっと両耳を抜けてゆく。決してエゴの駆け引きの邪魔をしたりしない音だ。そんな中でも目を引くのが、地味な自レーベル推し、同じハーベストから71年7月1日発売された嵯峨たかよしのシングルの両面選曲。ライナーの左側に一文を寄せている津坂浩氏こそが、A面の「男が一人旅を行く」の作曲者であり、本作は基本的に彼のプロデュースアルバムと思っていいだろうか。そのB面である「ふたりそれから」がまじで至高の名曲。「小さな日記」で知られる落合和徳氏の作曲による、隙のないソフトロック・バラード。このアルバムと抱き合わせでCD化なんて夢のようなことでもない限り、歌入りの曲としても語られる事ないだろうな…単体ソフトロック・コンピも有り得ない徳間ならではの悲劇。4分もあるのに、いいところでフェイドアウトしてしまう。もっと聴きたい。
あと、B面としては同日に同じハーベストからリリースされた入江ゆみの「さすらいのギター」の裏に隠された「レイニーナガサキ」が選曲されているのにも注目。こちらは津坂氏が作詞し、歌無歌謡界では縦横無尽に活躍した土持城夫氏が作曲。案外、この盤のアレンジも全編、土持氏によるものかもしれない。A面曲がスルーされた理由は、小山ルミ盤に惨敗した負け惜しみ以外にないと思われるが(1ヶ月発売が遅かったのに)。ちょっと時期を外した「白いサンゴ礁」の選曲も興味深い。丁度、町田義人がソロ活動を開始したのに照準を合わせたのだろうか。他にも楽しめる選曲がいっぱいで、特に先の「また逢う日まで」に於ける、意表を突く女性コーラスの配置や、ノリは軽いながら当時の殺伐とした空気を再現している「花・太陽・雨」に注目。要注意ポイントの一つ、「あの素晴しい愛をもう一度」のイントロは、アルペジオをストロークに完全に置き換えているのが惜しいが、繊細な響きだ。50年前の「ヤング」なんて、最早一回りして「ヤング」に戻るなんて有り得ないけど、このレコードを聴いて妄想するのは有りだ。