黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1975年、今日の1位は「はじめての出来事」(3週目)

RCA JR-9571~72

歌謡ビッグ・ヒット大全集

発売: 1975年

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ジャケット

A1 シクラメンのかほり (布施明)Ⓐ 🅻

A2 至上の愛 (西城秀樹)Ⓐ 🅴

A3 夕立ちのあとで (野口五郎)Ⓐ 🅵

A4 ロマンス (岩崎宏美)Ⓐ 🅷

A5 天使のくちびる (桜田淳子)Ⓐ 🅴

A6 誘われてフラメンコ (郷ひろみ)Ⓐ 🅳

B1 想い出まくら (小坂恭子)Ⓐ 🅵

B2 ささやかな欲望 (山口百恵)Ⓑ 🅴

B3 時の過ぎゆくままに (沢田研二)Ⓐ 🅶

B4 はじめての出来事 (桜田淳子) 🅲

B5 冬の色 (山口百恵)Ⓒ 🅱

B6 愛の逃亡者 (沢田研二)Ⓒ 🅱

C1 心のこり (細川たかし)Ⓑ 🅷

C2 ふたりの旅路 (五木ひろし)Ⓑ 🅴

C3 貴方につくします (八代亜紀)Ⓑ 🅳

C4 縁切り港 (西川峰子)Ⓑ 🅲

C5 北へ帰ろう (徳久広司)Ⓑ 🅴

C6 旅愁 (西崎みどり)Ⓒ 🅳

D1 中の島ブルース (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓑ 🅴

D2 女の純情 (殿さまキングス)Ⓑ 🅱

D3 あなたにあげる (西川峰子)Ⓒ 🅴

D4 おんなの運命 (殿さまキングス)Ⓒ 🅵

D5 あじさいの雨 (渡哲也)Ⓒ 🅳

D6 襟裳岬 (森進一)Ⓒ 🅾

 

演奏: 見砂直照とスーパースター’75

編曲: 小山恭弘Ⓐ、池多孝春Ⓑ、金井陽一Ⓒ

定価: 2,500円

 

東京キューバン・ボーイズでおなじみ、日本を代表するバンドリーダーの一人、見砂直照の別働隊バンドが送る75年の歌謡ヒット集大成。本家バンドとの人脈的繋がりがあるかは不明なのだが、歌無歌謡アルバム用に招集されたスタジオミュージシャン集団に「喝を入れる」役割を果たしたのだろうか。普通にシクラメンのかほりだなと思わせるリリカルな演奏が曲がり角を迎える瞬間、大編成のブラス隊と暴れ気味のドラムが割り込んでくる。そのあたりに個性が現れたという感じだろうか。ビッグバンドならではの豪勢な、盛り上げるには持ってこいの演奏が全体の流れにうまく食い込めていない印象で、これならあまり工夫のない演奏を聴いてる方がいい、と何度も思わされる。「ロマンス」もストリングスまで入れて、迫力を増しているものの、「好きなんです」のこなし方にもたつきがあり、1拍遅れに留まっているクラウン盤よりも歯切れが悪いのはどうしたことか。アイドル曲になると、洗練感と場末感の不調和がさらに目立ち、テレビの生歌唱ではちゃんと盛り上げてるのに、音盤となるとどうして…と不思議な気持ちになる。お布施するエンタメだから、ユニークなものをどうしても期待するのはしょうがない。「想い出まくら」になるとそうでもないのだけど。ブラスの野暮ったい響きと、チェンバロやストリングスの流暢な音の不釣り合いさが、なぜか面白い雰囲気を出しており、フルートも気怠そうな、他のレコードであまり聴けない音色だ。同じ音が「時の過ぎゆくままに」にも入っており、尺八っぽい響きになっているのだけど、2ヶ所で決定的なミスをしているのが残念。もっとも、この曲にはもっと謎な処置が行われているヴァージョンがあり、今月中にそれを取り上げますね(ここまで続けてきても、解明されていない謎や、語られていない傑作ヴァージョンはまだまだある)。「はじめての出来事」は軽すぎて、小学校の運動会向けだ。この演奏で「呼び込み君No.4」を演ったら、どんなことになるのやら(爆)。こんなアルバムに於いて、最も傑作と言えるのがジュリーの英国制作イレギュラーシングル、「愛の逃亡者」だ。完全なる洋楽作品の方が、このサウンドの特性がうまく出るのだろうか…まぁ、ラテンバンドですからね大元が。リーダー自らと思われる控えめな「ウー」「アー」の合いの手に思わずニヤリだ。2枚目は完全演歌故、場末音楽として成り立っており、洋楽志向音楽集団の控えめな一面を見せるに終始している。これで15ヴァージョン目の登場となる襟裳岬だけど、その端っこに佇む孤高のメロトロンには、誰も追いつく勇気がないらしい…ユピテル盤を2回もアレンジした池多氏を、他の曲で起用しているのにもったいない。